♪、36 消えたお姉ちゃん
あやめちゃん視点になります。
子供なので、平仮名が多くなりますが、ご勘弁下さい。
何しろ、4歳ですから・・・。
お姉ちゃんが、消えた。
そんなこと、最初は信じられなかった。
でも、何月になってもお姉ちゃんはもどってこなかった。
ひろお兄ちゃんにきいても、りぃーちゃん、ママにきいても、知らないって言うばっかり。
さとしお兄ちゃんは、お姉ちゃんが消えた日から笑わなくなった。泣かなくなった。
それだけじゃなくて、目の色が冷たくなったような気がするし、変なニオイがするようになった。
それもこれもぜんぶ、お姉ちゃんのせい。
おじさまは、そう言ったあやめに、『お姉ちゃんは遠い所に行ったんだよ』と言って、悲しそうに、さみしそうに笑って、あやめを、ぎゅっ、て、抱きしめた。
でもね、あやめ、知ってるの。
おじさまが毎日泣いてるの。
きのうはお姉ちゃんの写真を見て泣いてたし、その前は、お姉ちゃんの部屋で泣いてた。
それだけじゃないの。
おじさまは、さとしお兄ちゃんに話しかけようとして、けっきょく、やめてる。
おばさまはおばさまで、毎日泣いてさとしお兄ちゃんを責めてる。
そのたび、さとしお兄ちゃんが壊れていくような気がするのは、あやめの気のせい?
おじさまは、あやめにそれを見せたくないのか、いっつも、ギュって抱きしめて泣くの。
お姉ちゃんがいた頃なら、おばさまも、おじさまも、こんなんじゃなかった。
いつも笑っていて、ニコニコして、温かった。
(いやだ、いやだよ。)
だいすきな人達が、バラバラになって、傷つけあって、砂のお城みたいにこわれていく。
さいしょは、パパとママだった。
いつも、いつも、さみしいって泣いてたママに、パパは声もかけなくて。
ママはパパが好きだったから、それがいやで、パパと離れた。
おじいさまとおばあさまは、ママが悪いって、ママをいじめた。
だから、ママはここのお家に逃げてきた。
さいしょは、ドキドキしたけど、ここのお家の人達は優しかった。
とくに、お姉ちゃんはやわらかくて、ふわふわで、あまいニオイがして、大好きだった。
さとしお兄ちゃんも、そんなお姉ちゃんがホントに大好きだったんだと思う。
幸せそうで、いつもきらきらしていて。
この生活が、ずっと続くんだと思ってた。
――なのに・・・。
バタンって、大きな音を立てて、玄関を開け、そこにいた女の人をみて、あやめはガマンが出来なくなって、お姉ちゃんの部屋だった部屋に逃げ込んだ。
お姉ちゃんが病院から消える少し前から、この家に住んでるあのヒトと、あやめと同じくらいの女の子。
女のコは、いっつも保育園に行く前、さとしお兄ちゃんに何か言いたそうにしてるけど、何も言わない。
あやめを見て、糸帆さんを見て、けっきょく、何も言わない。
たまに、一人で泣いてる。
その時に、『ごめんなさい、ごめんなさい、すーちゃん、ごめんなさい』って言って、泣いてる。
あやめが『すーちゃんってだれ?』って、聞いたとき、女の子は、びくびくしながら『すーちゃんは、先生だよ』って言って、メイドさんの後ろに隠れた。
その時は、何とも思わなかった。
だけど・・・。
「お姉ちゃん、どうして・・・?」
今日、ぐうぜん通ったお家にいた、お姉ちゃん。
いつもみたいに、キラキラで、ふわふわな、お姫様みたいに優しく笑ってたお姉ちゃん。
髪の形は違ったけど、眼鏡はしてなかったけど、お姉ちゃんだった。
あやめが欲しかった笑顔、みんなが帰ってきて欲しいと思ってたお姉ちゃん。
(それなのに、どうしてあやめの事、知らないって言うの!?)
人違いだって、あやめの事、知らないって、自分の子供は、この子だけだって・・・。
(え・・・?)
その時、なにかあやめの中で引っ掛かった。
そしてもう一度思い出してみる、あのお姉ちゃんのことば。
――私の子は、この子だけ・・・。
最初で、最後って、悲しそうに笑ったあのお姉ちゃん。
もし、あのお姉ちゃんが、おねえちゃんなら・・・。
「お姉ちゃん、赤ちゃんいるの・・・?」
あやめみたいな子が欲しいって言ってたお姉ちゃん。
そのお姉ちゃんの欲しかった子供。
それは・・・、
「お兄ちゃんの赤ちゃんなの・・・?」
この時、あやめはもっと気をつけるべきだったんだ。
そうすれば、あんなことにはならなかったのに。
でも、この時のあやめは、お姉ちゃんの言葉の意味に夢中で、あやめの言葉を誰かが聞いていただなんて、気付いてもいなかった。
だいぶ、話の中身を削り、修正しました。