♪、33 新しい生活②
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一度運気が上昇すれば、それが暫らく続くものだと解ったのは、退院した日に新しい住居を捜す為に、ふらりと、偶然立ち寄った【青木不動産】の白金支店で、丁度シェアハウスの契約に来ていた人達に遭遇し、良かったら一緒に住まないかと誘われ、そのシェアハウスの程近くに、短大時代に抑えで取った資格のお陰で、仕事を確保できた時。
その新しい仕事先は、乳児から6歳までの子供たちが集まる保育施設で、そこでの私の主な仕事は、雑用事務。
採用の理由を直接施設長に聞いてみれば、保育士の資格があり、事務の資格もあった事が、主な採用の理由だった。
その仕事先には、採用された次の日から行っていて、今日は休みを貰っていたので、役所に離婚届を出しに行っていた。
「ただいま。」
家に戻れば、私の帰りを待っていたかの様に、庭の掃き掃除をしていた女性が、タックルしてくるように抱きついてきた。
「お帰り、吉乃!!」
私に抱きついてきた女性、――大川 尚、26歳――は、興奮しているのか、いつになく、頬が薄く紅潮していた。
苦笑しつつ、「どうしたの?」と、私が彼女に問えば、満面の笑みをその顔に浮かべた。
「ねぇ、見て!!私、とうとうやったのよ!!中途採用だけど、あの【AYAHASHI】に採用が決まったの。これでやっと夢が叶うわ!!」
よほど嬉しいのか、彼女、尚は、私から離れるなり、採用通知を出し、それを見ては、クルクルとその場で周り、今にも踊りだしそうな雰囲気だった。
「尚、何時まで妊婦を外に引き留めてンだよ。お帰り、吉乃サン。」
私の帰宅に気付いたのか、それともただの偶然か、アクセサリー製作師の卵・水戸部 由貴、男性・23歳が、庭に面したリビングの窓から顔を出し、尚を注意し、柔らかく私に微笑みかけてくれた。
このシェアリングハウスには、私を含め、五人の男女が程よい距離を保ちつつ、仲良く暮らしている。
特に、尚と由貴君は、私が偶然立ち寄った不動産屋で、アパートの張り紙を見ていた私に声を掛けてくれた当事者達だった。
他の二人も、突然の誘いに嫌な顔を一つもせず、逆にそれとなく誘ってくれた。
当然私は突然のことで、中々頷なけなかった。そんな私を見かねたか、それともただ単に焦れたのか、尚は艶やかな口唇で言葉を紡いだ。
曰く。
――5人だと、家賃の支払いが楽になるから。
と。
肉食系女子で、恋愛至上主義にも見えた、その尚の思わぬ誘い文句と優しさに絆され、私はすぐに彼女と仲良くなれた。
勿論、仲良くなれたのも、他にも理由はある。
尚は非常に蠱惑的な声と肢体を持ち、そして、外見からは想像も出来ないほど、性格は真面目で、私はそこに智を見たような気がした。
彼女を見る度、胸がまるで恋をしているかのように、甘くも、苦く疼くのは、勘違いじゃない。
でも、それを認めてしまえば、私のしたことが全て無駄になってしまう。
だから、今日もその疼きを見なかった、気付かなかったふりをする。
(私には、この子がいてくれる・・・。)
寂しい、胸が痛いと思うのは、きっと気のせい。
私が密かにそう悶々としている横で、夢が叶うと嬉しそうに微笑んでいる尚は、明るくて、本当に艶やかで、優しい。
きっと彼女みたいな人こそ、智には相応しいし、それなら私も諦めが付くし、譲れる。
(譲れる・・・?)
私は自分の思考に思わず暗い嗤いを漏らした。
智は私のモノでもないし、モノでもない。
智は命があり、一個人の人間だ。
ブランド物の鞄やアクセサリー、靴や装飾品ではもいのに。
結局は私もあの女と同じなのかも知れない。
自分勝手な思考は、浅ましく、醜い上に穢れている。
本当に愚かで、浅はかで、莫迦な女だ。
暗い思考に支配され掛けた時、私の手は無意識に下腹部を撫でていた。
奇しくも、その行動が私自信の思考を諫めたのだった。
短いですけど、更新します。