♪、22 襲来①
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どうして幸せは長続きしないのだろう。
職場に何事もなかったかのように復帰し、今日でなんだかんだで10日目。
私は以前より遥かに仕事に追われ、忙しく日常を過
ごしていた。
私が何事もなく復職出来たのは、会長である綾橋のお義父様と、利依さんのお陰。
二人は、私が休んだのは病気療養であり、また、疲労の為の休養であると文章に認め、辞表を受理せず、破棄していた。
それに対し、多少のいざこざはあったものの、今、私が所属している総務課部の人達は、快く迎え入れてくれただけではなく、色々と私を頼ってくれた。
年明けには主任になるようにと、内示を受けている。
「菜々宮くん、あの資料は何処にやったかな?」
そう言って、自分の机の上を探し、頭をグシャグシャに掻いているのは、課長代理の鳥居 美鈴さん、38歳、男性。
私はパソコン画面から視線を離さずに、鳥居さんが捜していそうな資料を頭の中で検索し、それらのありかを伝えた。
「マーケティング部の資料でしたら、今作り直しています。常務のインタビュー関連でしたら、課長のデスクの上にある赤いファイルに綴じてあります。」
「あぁ、あった、あった。これか。」
助かった、と、のほほんとした笑みを浮かべながら、高速でインタビュー記事の文章を、パソコン画面に立ち上げていく鳥居さん。
(こんなに忙しかったかしら?)
総務部は比較的楽な部署だった記憶がある。
それなのに、いざ私が仕事に復帰してみれば、私を待ち構えていたのは、同僚達の涙ながらの愚痴と文句、そして、天につく程までに山積した色々なデータや、書類の山。
涙ながらに詰られ、心配され、頼られ、詰め寄られ。
もう一度確認するけど、私が営業部から転属された部署は、普段は暇で、退屈で、地味な総務部。
それなのにどうしてだろうかと思えば・・・。
「もうすぐボーナスの時期ですねぇ~。」
と、相変わらずのほほんとした鳥居課長代理の声。
そう、ウチの会社はもうすぐボーナスが支払われる。
去年までは私はそれに全く関与していなかった。
それが今年は、課長の長期出張に伴い、私や他の人達にそれらの業務が降りかかってきた。
(課長って、実は凄かったのね・・・。)
三日前から出張に行った野島課長。
いつもどこかふわふわして、掴み所のない課長。その人がいないだけで、こんなにも忙しい。
と、そんな所に。
「お疲れ様でぇ~す♪センパーイ、お仕事の復帰、おめでとうございまーすvv」
(つ、疲れる、本当に疲れる。)
マンガみたいに、語尾にハートマークを飛ばしているんではないかと思われるテンションで、声を掛けてきたこの奇特な女の子の後輩は、堂々と玉の輿婚を宣言し、あまつさえ、自分にとっての恋愛とは、自分を作るステータスの一つだと断言し、唯我独尊・自分至上主義の旗を大きく掲げ、いつも違う男性社員と一緒にいる。
「七海ぃ、頑張ったンですよ~?センパイが休んでた間に、社内報、2本も書いちゃいましたぁ~。」
ぶりぶりの、その超ぶりっこな口調と、甘え、媚びた様な声の彼女・千代田 七海、20歳は、今年の春、女子短大を卒業し、新規採用された社員だ。
この彼女の見かけや言動に反し、実際の彼女は生真面目で、そして強がりの寂しがり屋だ。
それを知らない一部の女子社員から、謂れのない非常に陰湿で、心ない虐めを受けている事も、誰にも言わずにひたすら耐えている。
パソコンのキーボードを、朝から休み無くカタカタと弾いていた私は、彼女の言葉を聞いて、顔を上げて微笑を浮かべた。
「そう、貴女もやれば出来るじゃない。良くやったわね、千代田さん」
私は普通に微笑んで、彼女を労っただけのつもりだった。
なのに、その途端、何故か彼女は頬を赤らめ、もじもじとし始めた。
(な、何?)
ここは照れるような所ではないし、照れるような事も言った覚えも、した覚えもない。
私が困惑し、千代田さんを見ていると、それらを見ていた他の社員は、あからさまな溜息を深々と吐き、呆れ果てた顔をした。
うん、長いし、肩も痛いので、今日はここまで。