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Si je tombe dans l'amour avec vous  作者: 篠宮 梢
第二幕:嵐の予兆
21/97

♪、20 ひと時の団欒①

更新、出来ました。

「ただいま帰りました。」


 私が何食わぬ顔で婚家に帰ったのは、もうそろそろ太陽も沈もうかという日曜の夕方。


 両手には、長野の名産品や伝統工芸品などのお土産がたくさん入った紙袋や、ビニール袋。

 

 と、言うのも、私はあの後、好意に甘えて宿をとらず、香也乃さんの幼馴染である人からの提案もあって、色々と昔話を聞きながら、思い出巡りをしたからだ。


 最初は着替えも無いから、すぐに帰ろうと思っていた。けど、年上の人に、どうしてもと言われ、縋られては断れなかった。


 寺の墓地で出会ったあのご婦人、――都筑つづき 宇子たかこさんは、既に夫を亡くし、寂しいからと私を引き止めては、嫌々息子夫婦と同居していると愚痴をこぼし、昔のアルバムも出して、色々と話し、見せてくれた。そして、何枚かの写真も折角だからと分けてくれた。


「遅くなってごめんなさい。はい、コレ。お土産。」


 今の私の顔を見たら、誰でもこう例えるだろう。


 ――爽やかな五月晴れの様な輝いた笑顔――


 と。


 そんな顔でお土産の入った袋を、リビングのローテブルの上にドサッと置けば、智の顔が不快そうに歪められた。心なしか、いつもより眉間の皺も多いような気もする。


「・・・、長野に行ってたのか?」


 如何にも不機嫌そうな声で問い質され、少し胸が痛んだけれど、それは自分が悪いからその痛みは無視した。


(許してなんて、間違っても言えないわ。)


 だから、なおさら私はいつもより笑顔を心がけた。


「ごめんなさい。急に一人で、何も言わないで出掛けちゃって、でも・・・、」


 どうしても行きたかったの、と、続くはずだった言葉は、利依さんの激しい剣幕で遮られた。


「そうよ!!義姉さんはいつも勝手過ぎるのよ!!あのときだって、今回だって。なんで一人で長野になんて行ったのよ?」


 両目を潤ませた利依さんが私に詰め寄り、私の胸元の服を掴み、私を詰った。

 その利依さんの目は、寝不足なのか、泣いたせいなのか、真っ赤に染まっていた。


 私はそれを見て、あえて抵抗しなかった。


 詰って気が済むのなら幾らでも詰ってもいい。

 殴って気が済むのなら、殴られてもいい。


 だから、泣かないで欲しい。


(勝手よね。本当に。)


 詰り、揺らし、泣く。


 そんな興奮醒め止まらない利依さんを止め、諫めてくれたのは紘人さんだった。


 ただし、私も彼にはしっかりと叱られた。


「感心しませんね、奥様。少なくとも弁護人である私には、事前に事情を説明してから行動して下さい。・・・、例の件もありますので。」


 暗に仄めかされた事で、私は苦笑するしかなかった。


 ――結果が出たら、色々忙しくなる。もう少し考えてから行動しろ――


「・・・、ごめんなさい、本当に悪かったと思ってるわ。特に咲田さんには色々と無理難題や、無茶して貰ってるから。」


 そう、本当に色々と、申し訳なく思うくらいに。

 

 もう一度謝罪しようと、口を開きかけた私は、右手につけているブレスレットを見て、思い出した。


(そうだ、あの中には・・・。)


 ローテブルに置いた荷物の中から鞄を取り、古いお守り袋と小さい紙袋を出し、紘人さんに渡した。


「はい、コレ。いつものお礼。役に立つかしら?」

 

 誰にも気づかれないようにアイコンタクトを交わし、お土産の紙袋の中身を確認させれば、紘人さんは一瞬驚いたものの、すぐにしかっリと、いつもの様に微笑んだ。


「・・・、今回だけは、この【お土産】に免じて、許して差し上げます。ですが今回だけです。仏の顔も三度までです。」


 彼は、変な所で厭味だ。


 私は彼に、既にもう二度の無茶ぶりを見逃し、赦してもらっている。


(ケチくさい。心狭いんだから。)


 でも、それを綾橋に知られては困るので、紘人さんは言葉を選んでくれる。

 それを解っているから、心ではぶつぶつ言いながらも、私は頭を下げる。


「恩に着ます。ありがとうございます。」


 頭を深々と下げた私を、満足げに見た紘人さんは、私が渡したモノを鞄にしっかりと入れ、利依さんが淹れた紅茶を飲むため、ソファに腰掛けた。勿論、さりげなく利依さんの隣に。


(ほんっと、解りやすいんだか、難いんだか。)


 それを見て、笑いそうになるのを誤魔化すため、いまだ不機嫌そうにしている智の胸に抱きついた。

 

 するとどうだろう。


 抱き着いて初めて解った心の充足感。

 離れていた間、何となく物足りなかった感覚。


(あぁ。そうなんだ。)


 すとん、と、心がひどく簡単に、それだけで納得した。


 それは唯一の伴侶だと、自分の心に、居るか居ないか解らない神様に誓った愛しい人の温もりが、近くになかったから。


 その満たされた感覚の中で、私は穏やかな口調で、智に抱き着いたまま謝罪した。

 

本調子ではないので、ここで区切ります。

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