♪、9 名前②
まだまだ先は長い・・・です。
少し原作のモノより書き足したり、書き換えてるので、原作を読んでる方々には申し訳ありません(原作といっても、作者が書いたものです。)
――誰かに頭を撫でてもらうのは、類以外では、初めてだった。
ほんわかと、心が暖かくなって、無意識の内に口元が緩みかけていた私は、そこでふと、一つの疑問にぶち当たった。
三日三晩眠っていたせいで、頭を少し傾げた時、凝り固まった筋肉がゴッリッと、凄い音を立てたが、そんなことは構ってられない。
私は目覚めてから、朝に相応しくないキスを智にされた。
その智が、なぜ、どうしてここにいるのか。
(あれは、夢じゃなくて現実だったの?)
人は基本的に、自分の都合に悪い事を忘却したり、夢だと思いこむ事がある事は、知識としては知っていて、それが自分に起こる事はないだろうと、私は今まで漠然と構えていた。
しかし、現実はそうそう甘くはなかった。
浮かんできた答えと云うべきか、自分で導き出した答えに、私は自分の顔から炎が出るんではないかというくらい動揺し、とりあえず、先程から私の返事を黙って待っている智にすべく、心持、作った声と顔で謝罪した。
「心配をお掛けしまして、申し訳ありませんでした。後日、お礼に上がります。」
あくまで、生きていたらの話である。
智は私のそんなシラッとした態度と、言葉の何処がおかしいのか、ククク、と、喉の奥で笑いをもらし、乱れた髪を左手で掻き上げた。
その際、ワイシャツの袖口部分を止めていたカフスが、太陽の光を反射し、きらりと光りを弾き、紅く輝いた。
私がそのカフスに目を捕られていると、智はそのカフスを外しながら、愉快そうに言葉を紡いだ。
「随分、他人行儀だな・・・。覚えているんだろう?吉乃。」
――ミシッ。
ベットが軋む音がし、いつの間にかまたベットの上で、耳元まで迫られていた私は、両手で顔を隠した。
左腕には点滴が挿され、腕を曲げると少し痛かったけど、そんな事は構ってられなかった。
なのに智は、そんな私を、まるで鼠を追い込んだ猫のように、からかう様に耳に息を吹きかけながら、早く名前を呼べと、催促する。
「ほら、遠慮するな・・・。呼んでみろ、吉乃。」
安い少女漫画や、生チョロい三文小説でしか見聞きしたことのない展開に、誰が抵抗できようか。
いや、できないはずだ。
(お願いだから、そんなに近づかないでぇ~!!)
色気満載の声色で、少なからず好意を抱いている相手から、自分たちの二人以外、誰もいないところで、迫られている所を想像してみて欲しい。
誰もが陥るであろう症状に、私も敢無く嵌った。。
熱湯で茹でられたタコの如く、首から上が全て真っ赤に染まった私は、降伏の証に言葉を発しった。
「さと・・・し・・・っ?」
最後の最後で、末尾に疑問符を付けたのは、せめてもの抵抗である。
いくら普段は内心で呼び捨てにしてはいても、実際に呼ぶとでは大違いである。
(名前を呼ぶのが、こんなに恥ずかしいなんて・・・ッ)
ドクドクと早鐘を打つ心臓を宥めつつ、両手を顔から離した私に待っていたのは、初めてみる智の表情だった。
智は蕩けんばかりの、凄絶な甘さと妖艶さを含んだ、美しい微笑みを浮かべていた。
人は誘惑には勝てない、ダメな生き物だと、私はこの短い時間の内に実感し、それを身をもって体験した。
私は甘い砂糖に誘われた蟻のように、智に全神経を向けた。
言葉なく絡み合う視線。
それに伴い、病室には相応しくない、甘い空気と雰囲気が漂う。
その雰囲気に促されるまま、私は瞳を閉じ、智を受け入れ、智の後頭部に腕を回した。
重なっては離れ、離れては重なり、それが何度か繰り返されたあと、智は私の耳をペロリと舐めた。
耳を舐められた私は、その淫靡な甘さに、身体がピクリと反応してしまった。
(か、身体が熱い、恥ずかしい。)
しかし、誰もいなくて良かった、と、安堵のため息を吐こうとした時、その声はした。
「あら、目が覚めたの?」
ひゅっと、智が息を呑むのが判った。
きっと、、彼も知らなかったのだろう。その証拠に、少しだけ、声が低い。
「・・・――、母さん、いつからそこにいたんですか?」
「なぁ~に?私がいちゃあ悪かった?さっきからよ?」
ふふふと、妖しげに、明るく笑いながら姿を現したのは、智の母親であり、私の憧れの女性でもある、綾橋 さくら さんだった。
姑のさくら、登場です。
続き、投稿した方がいいですか?
まて、次回。