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未来少年  作者: 織間リオ
第二章【サイコストの覚醒】
9/30

9、覚醒

 朝になった。昨日火事になった山は、原型こそ留めていたが、木々は焼け、草は灰になり、山というよりは、大きい丘のほうがしっくりくる感じだ。闘也は、ブリーフィングを行った。今日の行動をどうするかだ。まず、午前中は山の周辺に残るエスパーを殲滅させる。午後は、昨日火事になって(中略)大きい丘のほうがしっくりくる山を探索。そこで闘也は、母が捕まっていることを打ち明けた。三人は、午前に行ったほうがいいんじゃないか、と言った。だが、午前にいけば、そのとき山に集中しているエスパーの軍団にやられるのがオチだろう。それよりだったら、山の周辺でエスパーを殲滅させながら、山にいるエスパーを引き付けて、人数が減ったところに、攻撃をしかければいい。そう闘也は説明した。乱州は考えた。確かに、筋は通っているし、その方が戦いやすいだろう。だが、家族を思う気持ちがあるのなら、すぐに助けたほうがいいんじゃないかと感じていた。たぶん、他の二人もそう思っていると思う。

 結局、作戦は変わらず、そのまま実行となった。


 固まって行動し、敵の殲滅時間を短くし、敵の注意を引けた。結構な数のエスパーが、山から下りてきた。その殲滅を秋人に任せ、闘也たちは、別のルートから進入した。追撃部隊も来たが、乱州が全て、殴り倒した。


「くそっ!なんでこんなに数が多いんだよ!」

山から下ってくるエスパーを追い払っている秋人は結構な数を倒したのに、懲りずにまだやってくる。それを倒してもまた来るし、それを倒してもやはり来る。嫌なサイクルだ。これで、こちらの体力の限界まで追い詰める気だろう。なら、もう攻め込めないようにする。

竜巻防御壁ハリケーンバリア!!」

竜巻の壁を作る。しかもかなりの大きさだ。これでも体力は消耗するが、戦い続けるよりはましだ。しかし、その中にいるのは秋人ではなく、エスパーだ。八十人くらいのエスパーの入った竜巻を、どんどん小さくし、そして、はるか彼方へ吹き飛ばした。

「ぎゃぁぁぁぁ」

「飛ばされるー」

 悪役の鏡のような悲鳴を上げながら、無数のエスパーがその風に煽られてやがて見えなくなった。

 よし、これで、しばらくは追撃できないだろうし、闘也たちと合流しよう。

 秋人は、山の中間と頂上の間あたりに向かって走った。


 一方の闘也達は、着々と歩を進めた。そろそろ、頂上が見えてくるはずだ。そこに、砂ぼこりをふんだんに上げて、秋人が突っ走ってきた。これで合流完了。頂上も見えてきた。闘也達はその歩みを急いだ。

 ようやく頂上に着いた。頂上にいたのは、今きたばかりの闘也たちの他には、これでもかと言わんばかりのエスパー兵と、八幹部の五部、炎の使、ファーガ、そして・・・・・・・・血まみれになった闘也の母がいた。

「悪かったなぁ。待ちきれなくてもう殺してしまったぞ」

その瞬間、頭の中で、張り詰めていた糸がプツッと音を立てた気がした。キレた。母を殺された哀しみよりも、母を殺された怒りのほうが勝っている。明らかに。そして、約束したはずだ。俺が来るまでは殺さないと。殺されたときの顔が見たいと言っていたじゃないか。あんたはそんなやつだったのか。約束も守らないやつなんて男じゃない。忠実な部下じゃない。そんな約束も守れないから、ソウリールにはあまり信頼されてないのだろうか。それとも、力ずくで動かされていたのか。母を殺したのも、ソウリールに力によって命令させられていたのだろうか。そうかもしれない。だが、許さない。

 ソウルの能力は、使用者の感情によってその能力が左右される。怒りの際は、最も強力なものになるが、逆に悲しみなど、マイナスな感情であれば、最悪、能力は半減してしまう。

 しかし、このときはそんなものではなかった。体の奥底から、湧き上がるような力。ソウルの能力は感じられる。だが、これはそれだけではない。闘也はそう確信しながらも、ファーガへとまるで独り言のように言い放つ。

「あんたは、俺が殺す。この命を懸けて」

その瞬間、闘也の足の辺りが黄色くなり始めた。そのまま腰まで上がってきた。その瞬間、全身が一気にソウルの黄色に包まれる。

「うぉぉぉぉぉ!!!!」

闘也はソウルの力を、自らの体に取り込んだのだ。闘也は飛び上がる。通常よりもかなり高い。いや、それだけじゃない。闘也は、自在に空を飛びまわっていた。空中に尾を引きながら、魂の黄を纏った少年は、ファーガに向かって突進した。


「な、なんなんだよ、あれ・・・・・・」

乱州は思わず口に出していた。口には出さずとも、他の二人もそう思っているはずだ。

「あれは闘也が覚醒したのよ」

女の声。だけど、的射の声ではない。的射は、俺や闘也より、サイコストである時間は短い。的射がサイコストのことについてどうこういえるほど、あいつは成長していない。もちろん自分も未熟な身だが。

「あ!!あなたは!もしや!あの!いつだかの!」

「どんだけ思い出すのにつっかえてんだよ」

乱州は半ば呆れながらも秋人に突っ込む。目の前にいる女性は、乱州たちと同年代というところだろう。ん?同年代?いつだか、誰かから聞いた記憶があるが・・・・・・。

「きれいで!強くて!優しくて!属性タイプが使えて!」

「うるせーよ、いつまでつっかえてんだよ。静まれ、アホ」

強い・・・・・・属性タイプが使える・・・・・・それによって、乱州の記憶に関する脳の回路が繋がった。

「秋人は知ってると思うけど、私が、白鐘由利しらかね ゆり、中一。よろしく」

そうだそうだ。白鐘だ。思い出した。頭のもやもやが吹っ飛んだ感じだ。だが今は、自己紹介よりも、闘也のことについて聞かないといけない。それが、闘也にしてやれる数少ない役立ちだ。

「覚醒って、なんなんだ。白鐘」

「え!?もう呼び捨てにしてるのか!?乱州!」

「あんたは黙ってなさい」

的射が秋人の襟を引っ張って、後ろに引いた。ちょっとお怒りのようで。

「覚醒っていうのは、いつもは、脳内のかなり深いところ、まぁ簡単に言えば深層意識かな。そこに封印されている、強力な力があるの」

「覚醒は、その封印された強力な力が目覚めるってことなの?」

「さすが的射ちゃん。頭いいね」

「いえ。なんとなく、そうなのかなーって」

「でも、覚醒は、一度発動させると、その後は何回でも発動できるんだけど、体力を消耗するし・・・・・・」

「一度発動させるまでが、時間かかるのか?」

「うん。乱州君も頭いいね」

「乱州でいいよ」

「私も的射でもいいよ」

「あ、うん。で、最初の発動は、必ずなにかキッカケがないと、覚醒ができないの。例えば、闘也の覚醒は、ソウルの力によって覚醒したの。魂は怒りの感情のときに威力を増す能力だから、たぶん・・・・・・お母さんを殺されたことで怒りが爆発して、覚醒したんだと思う」

「なるほど・・・・・・。まぁあいつはキレると逆に口数少なくなるしな」

覚醒か。闘也のように、たった一人の相棒のように、俺も強くなれるのか。けど、今あいつは自分のことで戦っている。もちろん、それは日本の、サイコストのためにもなっているが、今闘也は、哀しみの先の怒りによって、ファーガと戦っている。

今俺が、あいつのためにしてやれること、それは、あいつに協力することではない。サイコストとして、エスパーと戦うことだ。たぶんこの気持ちは、他の誰にも分からない。相棒の俺しか分からない。

「さぁ!おしゃべりは終わりだ!エスパーを殲滅するんだ!」

「おおっ!!」

乱州、的射、秋人、由利はそれぞれ散っていった。


 一方、覚醒した闘也はファーガとの死闘を繰り広げていた。ファーガは、絶え間なく火の玉を撃ち続けている。本当に絶え間なくだ。突っ込んでくるときも、かわすときも、攻撃を受け止めているときも、別の攻撃をしているときもだ。だから、常にかわすか防御しなきゃならない。だが、闘也は炎の属性であり、そのうえ母を殺され、約束を破られたという怒りによって能力値は上昇していたので、そう簡単に怯みはしなかった。だが、いつまでも相手は同じ手を使っては来ない。

 突如目の前に現れたファーガが、右手に炎を纏わせて闘也を殴りつける。

「どんな手品か知らないが!」

ファーガがその勢いのままに回し蹴りを行う。もちろん、その脚には炎が纏われている。

「空中戦はこちらに分がある!!」

向こうは周囲の空気を加熱することによって自らの体を自在な場所に飛ばすことができる。つまり、普段から空中での動きに慣れている。それを考えれば、向こうの言うことには全く間違いがない。

ファーガが左手に炎を纏わせて突き出してくる。闘也は対抗して右手を突き出す。拳と拳の間から衝撃波を思わせる風圧を感じる。

「甘い!」

ファーガが左足を振り上げてくる。闘也はそれを左手で受け止める。ファーガが右手を引き、そのままこちらへ真っ直ぐに突き出してくる。闘也はそれを仰け反ってかわし、つき合わせていた右手を離し、その右手をファーガの顔面に突き出す。反撃とばかりに、ファーガが左足を腹部へと滑り込ませる。闘也は蹴りの勢いに負けて一回転するが、右肘をファーガの顔面へと突き出し、間髪いれずに左手を突き出し、そのまま両足で蹴り飛ばし、そのまま距離を置く。

 ファーガが動いた。両腕を構え、それは闘也の方を向いている。

「地獄へ導く悪魔の炎・・・・・獄殺炎ごくさつえん、炎上!!!」

突き出した両腕から、すさまじい炎が吹き出た。闘也に向かって一直線に向かってくる。方向がそれることはまずないだろう。しかし闘也は正面から突っ込んだ。この炎を利用しない手はないと考えたのだ。

 俺は、前に進むことしかできない。後戻りはしてはいけない。でも、逆に言えば、どんなときでも、前に進むことができる。そう信じてる。だからこそ、戦える。哀しみの向こうにあるのは、平和とかなんてきれいなものでもなければ、憎しみなんて汚いものでもない。

「それをあんたにみせてやるよ!ファーガ!」

ファーガの放った炎を正面から受ける。さすがに炎属性の闘也も熱いと感じた。だが、これが俺の力になる。魂と炎を纏った闘也はその炎から上方向に飛び出した。

「炎神ファライランの名の下、悪しき者には恐怖の烈火となり、善しき者には夜道を照らす灯火となる炎を、今ここに呼び覚ます!」

闘也が纏っていた炎が拡大して、ファーガを取り囲む。自らが放つ炎よりもすさまじい炎はどういうものなのか、死ぬ前に一度味わっとおけばいい。その炎によって死ぬのだから。

「くぅ・・・このファーガ、死ぬ前にこのような炎にめぐり合えたことに感謝する。そして我は、炎に焼かれて死ねるなら本望だ!」

その瞬間、ファーガは消えた。溶けたというほうが、あっているだろう。悲鳴も上げず、ただ静かに死んでいった。すまない。あんただって、ここまで辛かったかもしれない。大切な人を失くしたから、俺の母を殺したのか。それとも、ソウリールが指名したのか。どの道、別にこいつは悪くない。ただ、恐れていただけだと思う。死ぬことを。だがさっき、焼死という死に方で、やつは満足していた。

 人にはそれぞれ想いがある。それがたった一つだとしても、弱く、脆いものであっても。闘也にだってあるし、乱州にも、的射にも秋人にもある。下では、まだ乱州たちが戦っている。助けてやりたいが、そんな体力は残ってない。乱州のところへ向かおうとしたとき、乱州がテレパシーで話しかけてきた。

(闘也。大丈夫だ。俺達だけで、こいつらはやれる。お前は休んでおけ)

(でも、乱州や的射や秋人のためにも・・・)

(大丈夫だ。俺を、いや、自分の相棒を信じろ)

乱州はそれ以上テレパシーをしてこなかった。闘也は木の裏に隠れた。疲れた。かなり体力を消耗した。腕や足に力が入らない。俺に、今現在戦う力は残ってない。だめだ。少しずつ意識が遠のいていく。闘也はそのまま、深い眠りについた。

 次に目が覚めたときは、住宅地にいた。

「闘也。目、覚めたか?一人で歩けるか?もっと休みたいか?どっか痛いか?」

「いっぺんに複数のことを聞くな」

どうやら、乱州と秋人に体を預けた状態だった。なんか、申し訳ない。というか、嫌いだった。他人に全てを預けるのは、なんか嫌だった。もしこいつらじゃなかったら、払いのけていたかもしれない。その点では、俺、変わったなと、勝手に解釈したりした。

 山にいるときよりはかなり体が軽かった。一人で歩けると乱州に申し出たら、二人は肩から手を放した。

「ところでこれからどこに行くんだ?」

「協会から強制招集がかかったから、サイコスト協会に行くんだってさ」

強制招集?いったいなにがあったのか、闘也には見当もつかなかった。



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