8、幹部
闘也たちのまえに現れたのはエスパーだ。だが、感覚が違う。今まで戦ってきたエスパーの兵よりも、かなりのオーラが放出されている。四人はそれぞれの場所で思った。強い。ここまでのオーラを放っていて、弱いことはまずない。そこまで力の差はなくとも、かなりの実力者に変わりはないだろう。
「お前、誰だ?」
闘也、乱州、秋人はそれぞれの場所で名を問う。
「我は八幹部の六部、炎の使、ファーガ」
闘也の前のエスパーはファーガと名乗る。
「俺様は八幹部の八部、速の使、スピーロ」
秋人の前に現れた、口調の割には身長の低いエスパーはスピーロと名乗る。
「僕は八幹部の七部、拳の使、グライブ」
乱州と的射の前にいる金属の拳を装着した男はグライブと名乗る。
「俺様と勝負しようぜ。サイコスト!」
「なんの勝負なんだよ」
「スピード&バトル勝負!」
いたって普通な勝負であるが、向こうはよほどスピードに自信があるのだろう。向こうも恐らく能力は高速。どちらがその能力が高いか。それが試される勝負である。
「こちらにおーいで!」
高速でスピーロは走り出した。なるほど。さすが速の使だ。
「受けて立つぜっ!!」
秋人も走り出す。スピード勝負で、負けてはいられない。絶対に勝つ。秋人は徐々に加速していく。本気で走れば、五十メートル走なんて、一秒足らずで走ることができる。その足に相手が追いつけるか。逆に逃げ切れる自信があるのか。さらに加速していく。少しずつ、スピーロの背中が大きくなっていく。右手を握る。もらった。六割のスピードを八割にあげる。大きく加速した。スピーロの後頭部に、拳が当たる。鈍い音が響く。
「ぐわぁぁっ」
スピーロが減速する。秋人はすぐに振り返り、拳を構える。スピーロをほぼ正面で待ち構える。向こうは減速したとはいえ、かなりのスピードで走っていたため、そのスピード分のパンチを顔面に受けた。
「く・・くそぉっ!負けてられるかぁぁぁぁ!!!」
その瞬間、スピーロが白い風を纏った。まるで周りの風がスピーロを守り、強化しているようだ。通常ならば見えないはずの風が色彩を持って周囲を吹きまわっているのだから、なおさらそう感じさせた。
「ファーガ」
闘也は静かにその口を開いた。ファーガの方もただ静かに聞き返した。
「なんだ?」
「あの山を燃やしたのはお前か?」
闘也の目には、すでに聞かずとも分かっていながらも怒りに血を煮えたぎらせている。
「ああ。かなり燃えてきたところに、爆弾をたっぷりと注ぎ込んでやった」
その口調とは裏腹に、ファーガの顔には表情というものがなく、ただ淡々と事実報告をしているだけである。向こうの能力は炎の使いだけあって、推測でしかないが、おそらく火炎。こちらも炎を使える以上、勝負は五分には持ち越せるはず。
「相手になってもらうぞ、ファーガ」
「いや、今回は戦わない」
闘也の頭に浮かぶのは疑問である。わざわざ現れておきながら戦わないとはどういうことだろうか。
「なぜだ」
「その理由はこれだ」
ファーガが、少し避ける。母さんだ。つまりは、人質。小賢しい。率直に闘也はそう思った。
「どうするつもりだ」
こんなときこそ冷静にならなければいけない。いつもと変わらない口調で聞いた。
「明日、我がこの手で殺す」
「あっさりした答えだな」
「明日、焼け残ったあの山に来い」
そう言ってファーガが、自ら焼き払った山の方角を指差す。闘也は奇襲を警戒してそちらは振り向かなかった。
「来なければ?」
「貴様の仲間を殺していく」
「いいだろう。明日だな。そのかわり、それまでは絶対に殺すな。それだけは絶対に守れ」
「分かった。貴様が自らの母が死ぬ瞬間を見たときの顔が見たいな」
そういうと、ファーガは飛び立ち、いつの間にかいなくなった。
一方、乱州と的射は、グライブを相手に戦っていた。的射は後方支援に、乱州は、その拳を相手に振るった。グライブ。さすが拳の使というだけはある。拳の能力であろう。乱州のパンチを同じ技で跳ね返してくる。
「どうした?それがお前の本気か?サイコスト」
「くっ・・・・・・。まだまだっ!」
乱州は、身体の能力で脚力を上昇させる。すばやくグライブの後方に回りこむ。グライブ前方からは的射が銃弾を放っている。そうなれば後ろでの防御は難しいだろう。
「巨大腕打!!」
さらに巨大化させた腕を背中に叩き込んだ。グライブが前に飛んでいき、倒れた。
「まだ終わらん!」
乱州の追撃をグライブはかわし、反撃の拳をこちらへと突きつけてくる。乱州は追撃後のこともあり、よけきれずに左頬にパンチを受ける。空中で一回転した乱州は、どうにか両手両足で地面につき、一メートルほど滑りながら体勢を立て直す。しかし、顔を上げた瞬間に、次の攻撃が来る。乱州は紙一重でかわすと反撃の拳を突き出す。しかし、その攻撃は回避される。そして、グライブが乱州のすぐ横を倒れるように過ぎていこうとする。乱州が攻撃のために左腕を構えた瞬間、わき腹に衝撃が走る。と同時に、乱州はその衝撃に耐え切れずに倒れこむ。
「ぐふぁっ・・・・・・!」
乱州は、左腕を振り上げた瞬間に見えた。グライブがその拳を胸の辺りで構えていたのを。そしてそれを一瞬で解き放ったのを。
グライブは、胸辺りに構えた拳を、乱州に向かって、まるで制御された矢を放つように突き出したのである。
「長腕打!」
乱州は右腕を伸ばしながら、立ち上がる。拳は、確実にグライブを捉えた。左腕を伸ばし、グライブを追撃する。
「長巨大腕打!!」
飛び上がった乱州は上空からグライブを叩き潰した。
着地した乱州は、動かないグライブを見た瞬間に膝をついた。
「乱州! 大丈夫!?」
的射がこちらへとよってくる。的射が乱州の下につき、乱州を支えようとしたとき、的射は吹っ飛んだ。乱州が振り向くと、グライブが的射を殴り飛ばしていた。
「俺の前で・・・・・・仲間に手ぇ出しといて・・・・・・」
乱州は立ち上がった。痛みはあったが、関係なかった。
「その足でもう一回立てると思うなぁぁっ!!」
乱州は、その腕を引く。
骨を全てへし折るつもりでいく。
「一気に決めるっ!!巨大腕連打!!!!」
巨大な腕で、何百ものパンチを繰り出す。その周辺だけだが、激しい地震が巻き起こった。かなりの揺れだ。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・これで終わりか・・・・・・?」
グライブは見るも無残な姿。というよりは、すでに原型をとどめいなかった。
大変だっただろう。グライブ。だがもう無理をする必要はない。お前はもう自由だ。ここにはもういれないが、あの世で、自由に暮らせばいい。おそらく、地獄いきだとは思うが。
グライブを倒したところで、乱州と的射はしばらく休むことにした。
また、その一方で、スピーロと戦っている秋人。いまだ交戦中。こちらのほうは、風のおかげもあって、スピードは勝っている。だが、攻撃を繰り出しても、すぐにかわされ、反撃を食らう。厳しい状況だ。敵は、こちらの動きを完全に見切ったようだな。そうなれば、こちらも、相手の攻撃を見極める必要がある。頭は悪くても、体で覚えれば問題はない。なにより、速さが中心のこの勝負で、負けるわけにはいかない。かわしては殴り、かわされては殴られる。そのうちに、相手はワンパターンで動いているのが分かった。あいつは、かわすときに、後ろにかわしてるから、一歩踏み込んで殴りかかれば、最悪でもかするはずだ。いままでと同じく、攻撃をかわす、そして、拳を構える。左足を大きく踏み込んで、今までよりも、強いパンチをおみまいした。顔面に直撃したようだ。立つのもやっとの状況か。
「くそ!負けてられるかぁっ!こんなやつにっ!来てください!ビーグルさん!」
その瞬間、頭上に大きな・・人!?まさか、でかすぎだろう。チェ・ホンマンの十倍はあるぞ!?
「僕は、八幹部の五部、力の使、ビーグル」
落ちてきた足をなんとかスピードでかわす。くそ、こんなでかいやつに勝てるのか?
山の頂上で休んでいた闘也は突然現れた大男を目にした。公園のほうには、秋人が向かっていたはず。やばいな。あいつのスピードで倒せる相手じゃない。
森の中で休んでいた乱州と的射は、山よりでかい大男を見上げた。で、でかすぎだろ。あそこに秋人や闘也がいる可能性は高いな。
「行くぞ、的射!」
「うん」
「ぶぉぉぉぉ!!」
ビーグルはかなりの大きさの腕を伸ばしてきた。
「当たるかよ!」
秋人は飛び上がり、伸びてきた左腕に飛び乗る。そのままその上を走り抜ける。顔が近くなってきたところで、またも飛び出す。スピードの勢いのままに殴りつける。右腕に降り、振り返りざまにまた殴りつける。しかし、何度もそうはいかない。二回目の振り向きに、回復したスピーロが邪魔してくる。その時、ビーグルの右腕が襲い掛かってくる。邪魔されて身動きが取れないところに、あの腕で殴られたら、重体じゃすまない。くそっ、ここが俺の死に場所か。
しかし、拳は途中で止まった。ビーグルはかなり力を入れて、押し込もうとしているが、微動だにしない。というか、押し返されている。押し返しているのは、闘也・・・・・・の魂だ。邪魔していたスピーロも飛ばされる。なんと闘也がジャンプしてここまで上ってきたのだ。さすがに一回のジャンプでは届かないだろうが、数回に分けてのジャンプによってここまできたらしい。
「なんか巨人が見えたから来てみた」
「そういうと思った」
次の瞬間、ビーグルの腹部にビーグルに劣らぬ巨大な腕のパンチが当たる。それによってビーグルが後ろに倒れる。闘也と秋人はなんとか逃げる。乱州と的射だ。これで四人が揃った。これならあいつらと互角、いや、互角以上の戦いができる。
それにしても、でかい。やはりこいつと秋人を一対一にしなくて正解だったな。と、闘也は一人思う。この巨大さから見れば、能力は巨大や、力といったところだろう。もう一人いるようだが、あれはスピードだけだろうから、秋人でもなんとかなるだろう。乱州のあの一撃をくらったのに、まだ起き上がるとはかなりの体力だ。まぁ、でかいから、それなりの防御はなにもしなくてもどうにかなるものだろう。もうこうなったら、一撃で倒せるほどの威力の技を出さなきゃいけない。
「よし! 全員、今使える攻撃をぶち込む! 属性も惜しまず使うぞ! いくぞ!」
「いつでもいいぜ」
「大丈夫よ」
「ぶちかましてやろうぜ! 闘也!」
四人は息を合わせ、それぞれの最強の技を使う。
「半永久高速竜巻!!」
秋人は巨大な竜巻を起こし、その周りを回って、さらに風を早める。それによって、ビーグルのバランスを崩す。
「水剣大切断!!」
的射はライフルの銃口から弾ではなく、液体でできた剣に変えた。
「近距離巨大腕打!!」
乱州は相手の懐に潜り込んで、巨大な腕を出現させた。
「双火炎魂連撃!!」
魂と分離した闘也は双方から、炎の攻撃を連続で繰り出した。四人の全ての技によって、腕は切り落とされ、足はひねられ、腹部をへこませ、顔がこげた。無残な姿だ。あまり見たくない。自分達はただの人殺しという認識をされないのを祈るばかりだ。ただの人殺しと認識されたとき、俺達の居場所はないだろう。一生人を殺しつづけるか、一生逃げ続けるか、捕まって死刑のほかにはない。だが、戦わなければいけない。例え、人殺しの認識をされたとしても、今は戦わなければならない。
明日、母は殺されてしまうのか。たぶん、どんなにあがいても無駄だ。事実を受け止めなければいけない。父が出て行ったあの日のように。
夜は、人目のつかない場所で、交代で見張りをしながら眠ることにした。人目のつかない場所とはいえ、戦場に変わりはないのだから。
見張りの番の間、星を眺めながら考えていた。なぜ父はこんなことをしたのだろう。こんなことでしか、世界を動かすことができないのだろうか。だとしたら、愚かな父だと思う。自分の意見を言うわけでもない。ただ、有り余る力を、認められない憎しみを、見捨てられた悲しみを、ただ一方的にぶつけているだけだ。なぜ、やめられない。
次の当番の的射を起こして、闘也は布団に潜った。かなり眠かったのだが、ソウリールのことが頭を駆け巡るせいで、なかなか寝付けなかった。