6、我家
あれから一ヶ月ほど経った。度々あらわれるエスパーを人目につかぬ場所で、闘也、乱州、的射、秋人の四人は戦い続けた。無意味な戦闘かもしれない。ゲームみたいに、ちょっと強そうなのが出てきたわけでもない。大魔王から挑戦状がきたわけでもない(実際、大魔王はいないが)。
しかし、昨日、定期報告に行ったとき、協会からある報告がされた。
「エスパーという謎の軍団が三日後に戦いをしかけると報告がありました。突然の奇襲にも対応できるようにしてください」
三日後、これは昨日の話だから、あと二日でくることになる。そうなれば、サイコストではないものを巻き込むことになるのは必至だ。敵の奇襲となれば、日本の自衛隊も動くはずだ。だが、自衛隊の歩兵とか戦車でも、エスパーには勝てない。それなりの力を持っているエスパー相手ならなおさらだ。たぶん主力は協会の募集したサイコスト兵だろう。並の実力や能力では勝てない。一等兵や二等兵くらいなら、まだなんとかなるだろう。だが、敵の幹部とか攻撃隊長とかが相手なら、間違いなく負ける。関係のない人や町を巻き込んで、日本は壊滅状態になるだろう。
それを止められるのは・・・・・・。俺たちだけだろう。いままで戦ってきた敵の武器は、一撃で相手を殺せるほどの殺傷能力はない。くらったことはないが、たぶんそうだろう。と、学校の教室の中の椅子に座って考えていた。窓の外を見た。もうすぐここは、灼熱の業火にさらされるのか。
授業が終わり、家に戻った。秋人は校門を出たところで道が違った。しばらく行くと、乱州とも別れる。的射といろいろと、世間話をしながら進めば、俺の家に着く。そこで的射と別れる。的射の家はもっと遠いらしい。
「おかえり」
たった一人だけが、そういってもてなす。母さんだ。夫の無謀な理想に呆れ、怒り、離婚した。そのころ三、四歳だった闘也でも、もう父とは会えないとは分かっていた。だが、多分また会うことになる。最悪の形で。
エスパーのことは話していたが、戦争を仕掛けてくることは、まだ言ってない。言うのは面倒だが、言わないのも心にひっかかる。だから、今日話すことにした。
「母さん。重要な話がある」
「なに?闘也?」
「エスパーが、戦争を仕掛けてくるらしい」
その瞬間、母さんの顔から、血の気が引いてる。みるみるうちに顔が青くなっていった。もう、戻れない。もう、引き返せない。悲しい運命というやつだ。残された道は、降伏か戦争。日本は戦争したくないだろうが、向かってくるものは、撃退しなければならない。防戦ばかりとなるが。そんな中で、唯一攻めることのできるのがサイコストだ。すでにもう、戦いに、戦争に巻き込まれ、やがて、関与した一人になるだろう。
「やっぱり、あの人とは別れてよかったのね・・・」
母の顔は、安堵の表情というよりは、恐怖に近かった。
「母さん」
闘也は目の前で、元夫の恐怖に怯えている母に向かって言った。
「怯えていたら、怖がっていたら負けるよ?」
それだけを言って、闘也は二階の自分の部屋へ上っていった。
闘也の母、魂波朝子。父が出て行った後、たった一人で、俺を育ててくれた。感謝している。これからもするだろう。だが、今闘也を揺るがすのは、母の恐怖の顔でなく、父の見下した目つきだ。あいつは絶対に、その目をする。その目を、二度とさせたくない。もう俺は、強くなるしかない。それが、俺に残された道、たどるべき跡。かばんをおろし、しばらくベットで、寝転がっている間に、「ごはんよー」と、母の声がした。闘也はベットから降りて、下へ降りていった。
次の日。いままでと、ほぼ全く、同じ時間が流れた。数学・音楽・国語・社会・体育・理科。掃除が終わり、家に帰る。ごく普通の一日。本当に明日、戦争始まるのか?と思うほどだった。だけど、実際そうだった。サイコストとエスパーの、歴史に残る、大戦争になるかもしれない。なにしろ、超能力者が、互いを傷つけあうのだから。昼休みのうちに、もし、敵が攻めてきたときに、どこに集まるかは決めておいた。学校にいる間なら、そのまま、集団行動とした。多分、もう、こんな風に、ゆっくり誰かと話し合う時間は、もうないかもしれない。人気歌手が死ぬかもしれない。大切な人が死ぬかもしれない。だが、戦うしかない。戦うことは、そのまま、生き延びるか、死ぬかの二択に絞られた状態になる。なら、生き延びるほうを成功させてみせる。絶対に死んだりはしない。そう決めた。絶対に揺るがない。諦めない。成し遂げる。




