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未来少年  作者: 織間リオ
第一章【目覚めるサイコスト】
5/30

5、疾風

 よく晴れた日だ。大抵の人はその澄み切った青空ですがすがしい気分になるだろう。乱州や的射もそうだった。そんな中、闘也に残っていたのはソウリールのことだった。いままでの仲間、もしくは信頼していた人が裏切り、敵となる。よく、マンガとかアニメとかでもそんな展開があったりするときがある。だが、それがいま自分自身に降りかかっている。父を尊敬していた。いい親だとも思った。だが、それは昔の話。今は、サイコストである闘也たちの敵だ。戦争をしかければ、世界中を敵にまわすはずだ。例えそうなってしまっても、父を止めることができるのは闘也しかいない。

 そうだ。俺しか止められない。俺しか倒せない。

 そんな決意のなか、学校に着いた。乱州も的射も闘也とは同じクラスだった。無論、そのほうがいい。テレパシーを無駄に使って体力を消耗したくはない。教室に入ると、乱州がようっ、と手を上げてきた。闘也も手を上げ、応答する。教室を見回す。いつもと同じ、何気ない風景。オーラをまとっている。乱州と的射以外はいつもと変わらないはずだ。はずだった。

 しかし、二人以外にもオーラをまとっているやつがいる。闘也ではない。昨日かえるまでは、僅かとしてオーラが見えなかったやつにオーラがでている。あいつ、誰だったっけ?髪型からして、確か、頭は闘也より悪かった気がする。でも、闘也より、足は速かった気がする。

曖昧な推理のまま、席に座る。隣の席の乱州に話しかける。もちろん、テレパシーで。

(なぁ・・・・・・あいつ・・・・・・)

少しばかりの間が空く。

(誰だっけ?)

(うわぁ、お前がボケるなんて初めてだなぁ)

どうやら、オーラがでてるな、とか、あいつ、サイコストじゃなかったよな、とか言ってくると思ったのだろう。

(俺はマジで言ってるんだよ。誰だったか教えろ)

(命令口調か、なんからしくないな)

(そうか?ていうか早く教えろ)

(あいつの名前は風見秋人かざみ しゅうと。頭悪くて足速い。頭隠して尻隠さずにかけたらしいな。その異名通り、成績は下から数えたほうが早いし、全国レベルの速さで、全県大会を優勝した。あ、あいつ陸上部だから)

(さすが、ストーカー並の情報力だな)

(それ、褒めてんの?けなしてんの?)

(褒めてる)

そこに的射も加わってきたが、すぐにチャイムがなった。

 その日の昼休み、闘也、乱州、的射の三人は屋上に出た。的射は付き合ってるとか誤解されるのがいやらしく、五分遅れて屋上に来た。別に闘也や乱州は恋愛感情があるわけではないのだが。

「やっぱり能力ならあのスピードだよな」

最初にそう切り出したのは乱州だった。

「だな。可能性としてはそれが1番考えられる。けど、問題はいつ、どのようにしてサイコストとして目覚めたかだな。俺たちのテレパシーには入ってこなかったけど、聞いてた確率は十分にありそうだな」

「ねぇ」

的射が話し始めた。

「闘也はいっつもそうやって推理してるの?」

「まぁ。だいたいくだらないことだけど」

「例えば?」

「そうだな。三階のガラスが割れたときに内側に野球ボールが落ちてたときとか、校長のヅラが消えたときとか、かな」

「ふーん」

それだけで、どう推理したのとか、真相はどうだったとかは聞いてこなかった。ちょっと拍子抜けた。乱州が話し始める。

「話を戻そうぜ、おふたりさん」

江戸っ子風に言ってきたが、そのリズムを完全無視して話を進めた。

「いつ能力を授かったのか分からないからな。慎重にやったほうがいいだろうな」

そのとき、屋上のドアが開いた。開けたというよりは、蹴破ったというほうが近いだろう。一人の少年が飛び込んできた。速い。進行上にいた、闘也と乱州はかわした。その少年は勢いのあまり手すりにつかまり、反動のように飛び出す。体が地面から離れ、宙に浮く。そしてそのまま手が手すりから離れる。

 危ない。このままだと落ちる。そして、そのとき屋上にいた俺たちが犯人っぽくみられてしまう。闘也はそんな推理を頭のなかで、コンマ数秒で浮かばせた。しかし、今はそれどころではない。闘也は叫んだ。

「乱州!手ぇ伸ばせ!」

乱州が動き出す前に、少年は止まっていた。宙に浮いている。そして、その背中には・・・・・・翼・・・・・・・。まさか・・・・・・こいつが・・・・・・?

「お前・・・・・・」

闘也は問いかけた。本人の話が聞ければそれこそ話は早い。聞けるときに聞いておいたほうがよいのだ。

「風見・・・・・・秋人・・・・・・」

乱州は背中に白い翼を生やした少年の名をつぶやいた。

サイコストのオーラ。髪型。そして先ほどのあのスピードからみて、こいつが秋人だと断定できるだろう。乱州が本人かどうか確かめた。

「風見、お前さ・・・・・・」

どうした。なぜ言葉を続けない、乱州。こいつが何かを言うのをためらうのは、初めて見た。大丈夫だ。乱州。例えサイコストじゃなくても、例えエスパーだったとしても、俺が記憶を消しておく。何も心配はいらない。だが、乱州はその後の言葉がでない。闘也はとうとう痺れを切らした。お前はサイコストか?といいかけた。だが、的射にテレパシーで止められた。

(乱州がためらっている理由、分かる?)

(・・・分からない)

そうだ。俺にはわからないことが多すぎる。ほぼ毎日乱州と一緒にいた。なのに、俺が分かる乱州は、ほんとに一握りなのだ。親しい人間ほど分からないことが多かったりする。灯台下暗しとはこのことか。

(分からないけど、あいつの気持ちなら、受け止める)

(それよ)

(え?)

(乱州は闘也にちゃんと受け止めてもらえるか心配なのよ)

(けど、今あいつの言葉を受け止めるべき相手は俺じゃない。秋人だ)

そのテレパシーが伝わったらしい。乱州がずっと閉じていた口を開いた。

「お前はサイコストか?」

乱州はようやく、話を持っていった。

「あったりまえじゃん」

質問もあっさりしていれば答えもあっさりしていた。

「こんな能力がサイコスト以外でなんだってんだよ」

「天性の授かりもの?」

「それを授かったものこそサイコストだろ?」

「え、まぁそうだな」

「サイコスト以外にこの能力が使えるものがいると思うか?」

「いる」

闘也はいつになくはっきりとした声で断定した。サイコストの対となる種族、エスパー。その頂点に君臨するソウリール・エスパー。倒さなければならない敵。止めなければいけない父親。

「エスパーね・・・・・・」

的射も言った。少なくともこの三人は知っている。協会が知っているとは限らない。だが、いずれ戦わなければならないのは、事実だ。

「話を戻す。お前はどこで、どうやってサイコストになったんだ?」

一番聞くべきことだ。こいつの全てが分かる。特別な人間の1人となったこいつのことが分かる。闘也は僅かに息を呑んだ。

 乱州は秋人にサイコストか?と聞くのをためらっていた。仲間は多いほうが良い。いつだか闘也がそういった。確か、的射を目覚めさせるあたりだったかな。これからエスパーとは戦うことになる。無論、協会も手を出さないわけはない。仲間が多ければ、戦うときに、戦略の幅が広がったり、なるべく早く敵を殲滅させられる。だが、仲間が多くなりすぎれば、やがて差別が起きる。学校の中の、クラスのなかと同じだ。結構な数の人間が同じ部屋の中で生活したとき、必ず人は仲間を作り、その者、もしくはその者達と行動を共にする。例えば、黒い三彗星とか。逆に言えば、そうじゃない人も出てくる。集団に溶け込めない人。仲間はずれにされる人。仲間が増えたとき、闘也は俺のことを構ってくれるだろうか。疑ってるわけであない。心配だった。だが、闘也の(テレパシーの)言葉を聞いて我に返った。そうだ。俺はあいつの相棒だ。つまりは、あいつは俺の相棒だ。相棒を信じなければ、自分も信じてもらえない。それだけは分かった。闘也は人の話を聞いている。ならば俺も、しっかり聞いておかないと、コメントもなにも、できやしないな。

「別のサイコストから?」

的射は聞き返した。どうやら秋人は、別のサイコストから、サイコストになるためのコツを教えてもらったらしい。

「そのサイコストって、誰なの?」

「うん。そりゃあまぁきれいな子だった」

「ってことは女だったのか?」

闘也は確認した。秋人はうなずいた。

「名前は聞いてるのか?」

「もしかしてその子に気があるのか?闘也は?」

「ないよ。そんなの。とりあえず教えろ。聞いたんだろ」

「俺は聞いたなんていってないけど。まぁ、向こうが話したんたけど」

「で、名前は?」

ちょっとイライラしてきた。焦らしたり、はぐらかしたりされるのは嫌いだ。やるのもやられるのも嫌いだ。単刀直入に一言で。闘也はいつもそうだった。

「その子の名前は、白鐘由利しらかね ゆり。なんでも、この辺では珍しい、属性タイプの能力を持ってるんだった」

属性の能力は確か、普通サイコストが持っている護身属性。闘也は火。乱州は雷。的射は水。他のものもあわせると、火・水・雷・風・土。全部で五種類。属性タイプの能力を持つということは、これら全ての属性の技を自由に使えるということだ。闘也の記憶の能力よりも高度なものだ。いったい、その女はいったいなんなんだ。第一、なぜ秋人に、そしてなぜ高速スピード飛躍フライの能力を授けたのか。

「そういや、そいつって、いくつぐらいだった?」

「お。もしかして乱州も気があるのか?」

「ないよ。見た目でだいたいでいいから」

「俺らと同年代だったけど、この学校にはいな・・・・・・」

チャイムがちょうどなった。その先の内容はだいたい読めてるが。四人は大急ぎで教室に戻った。


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