24、最終決戦
ソウリールは、ある作戦を考えていた。それは、自分一人ではどうあっても成功させることができないことである。そのために、ニワーダやゲルガー、ガルラにも協力を仰ぎ、ルシーラも完成させた。ソウリールの死後、その作戦は、ルシーラへと受け継がれ、ルシーラはその作戦を成功させた。ソウリールの作戦。それは・・・・・・。
エスパーの血を色濃く受け継ぎながらも死んでいったエスパーの神とも言える存在。自分達を生み、多くのエスパーを生み出した男。自分の父である一人の男を復活させるためだった。
その男の名は、キラー・エスパー。
その男をとうとう復活させたのだ。今までソウリールがエネルギーの回収をし続けていたのは、このエスパーを復活させるためのエネルギーを集めるためだった。もとより、四天王や八幹部は、彼によって生み出された。ソウリール達はキラーの『息子』であるために、そのエスパー生産能力という遺伝子を受け継いで生まれてきた。
キラーはゆっくりと空中を進み始め、闘也達の下へと進み始めた。
闘也は、すでに形もなくなったソウリールから目を放していた。もう何もすることはない。全てが終わったのだと感じていた。ソウリールとの決着から、かなりの月日がたった。ソウリールの死後、炎天におけるエスパーの進攻はほぼ完全に収まった。各地のエスパーもまた、ソウリールの死の報告を受けると、自ら命を絶つか、降伏するか、逃げ出すかのいずれかがほとんどであった。
どこか無力感に苛まれたまま、闘也達は未だに蔓延っているであろうエスパー捜索のために動き出した。しかし、その姿はここしばらくそうであったように、全く見なくなってしまった。
そんな静寂と平和が破られたのは、ソウリールとの対決から一ヶ月近く経ってからだった。
「闘也、あれは・・・・・・?」
乱州の声に振り返った闘也は、その方向を見て目を細めた。
光を放つ人間が空を歩いている。彼は闘也達の前に降り立った。かなりのエスパー反応。軽い頭痛がする。それほど強力なエスパー反応だったのだ。
「俺はキラー・エスパー。ソウリールの協力により、復活した」
だれだ、こいつは。それが率直な感想だった。あまり考える気力はない。敵であることは間違いない。だが、こいつはソウリールの協力でと言った。ということは・・・・・・。
「俺はソウリールの父だ。そして闘也。お前は俺の孫だ!」
孫・・・・・・つまり、血が繋がっている。エスパーの祖父と父ということは・・・・・・。まさか、俺は・・・・・・。
「闘也。お前もエスパーだ!!!」
自分もエスパー。その一言が頭に強く響いた。
――闘也・・・・・・おまえもっ・・・・・・。
一ヶ月前のソウリールの最期の言葉と、目の前の男の言葉が重なる。そんな闘也に構わず、キラーは話続ける。
「だが、お前は自らのエスパーの血を、自力でサイコストの血へと変貌させた。だからこそ俺達の敵となった」
俺に・・・・・・そんな力が・・・・・・。
「だが、世界を統べるのはエスパーなのだ。サイコストではない!」
「違う!!」
闘也は叫んだ。その目はキラーを睨みつけている。その瞳には、決意があふれていた。
「本当に世界を統べるのは、サイコストでも、ましてやエスパーでもない!」
闘也の言葉に、キラーが反論する。
「なら、誰が統べる?」
キラーの問いかけにも、闘也は動じていなかった。この戦争の中で、闘也はその答えを導き出していた。
「たった一人でいい。人の話を聞き入れ、それを世の中で提案していく力を持った「人間」なんだよ!!!」
闘也は覚醒した。黄色い魂の色が闘也を包む。もう、闘也の目に迷いはない。いままで自分の父親であるソウリールを倒すのが目的だった。だが、今は違う。戦いが生んだ力は、何者も従うことはないということを、エスパーに教えなければならない。それが、サイコストでもあり、エスパーでもある自分の使命のはずだ。
「戦うのはお前だけじゃないぜ、闘也」
闘也は後ろを振り返る。そこにいたのは、ともに戦ってきた仲間達だった。自分は一人ではない。一緒に戦ってくれる仲間がいる。五人とも覚醒していた。
「うおおおぉぉぉっ!」
キラーはさまざまな属性の玉を撃ちだした。かなり大きな玉だ。よけきれそうにないか。
しかし、その玉は途中で何かに飲み込まれた。黒い物体が目に映る。さらにその直後、何者かが、すばやい動きで自分達と全く同じ人間を作り出し、それをキラーに向かって突撃させている。
「おう、野郎ども!あのイカれた爺をぶっとばすぞ!」
え!?あれは黒い三彗星!なぜここに!
「お前ら・・・・・・なんで・・・・・・」
そんな五人の共通の質問をぶつけた乱州に、リーダーの黒田が答える。
「サイコスト協会とやらで、人工的にサイコストに細胞を改造する改造超能力者計画ってのが行われてて、それに俺達は参加したんだよ」
「守られっぱなしは俺達の・・・・・・彗星の血が騒ぐんだよ!」
黒田に続き、黒岸も付け加える。さらに黒谷が、能力説明をする。
「リーダーはブラックホールの力を転用して移動する黒動、黒岸はブラックホールの力を逆にして、放出しながら攻撃する黒撃そして俺はブラックホールの能力をそのまま使った黒吸の能力をもっている」
「無駄話はそこまでのようだ」
闘也が三人を戒める。キラーが再び球体を飛ばしてきた。しかし、それは別の闘也達に当たる。あれは偽者。ということは・・・・・・。
「兄貴!」
乱州が叫ぶ。偽者の能力を持つ明文も援護に来たようだ。明文はにっと口元で笑みを作ってこちらに視線をやると、すぐに目標へと視線を戻す。それと同時に黒い三彗星が融合する。
「カスタムは、融合もできるんだよ!」
そこから黒岸を先頭にしてその能力を使い、ブラックホールを逆流させて、飛び出させた。その瞬間融合は解けた。そう。黒岸は融合を瞬間的に戻すことで、自分も吹っ飛べるようにしたのだ。三人はキラーに向かって飛び出す。
「まずは俺が!」
そう言って黒谷はキラーをブラックホールに吸い込んだ。そして、黒岸の目の前に逆放出した。そこに黒岸のパンチが決まる。かなりの衝撃だったのだろう。動きが鈍る。
「まかせろ!」
そこに、リーダーの黒田が突っ込んでくる。黒田は何度も移動してキラーの目をくらませた。明文がさらに黒田の偽者を作り出す。もちろん、偽者も能力を使い、移動している。本物を見極めるのは難しいだろう。そこに本物の黒田が背後から殴りつけた。そのまま逃げるように地上に降りてきた。
「こういうのを、一撃離脱戦法って言うんだぜ」
聞いたことがある。一回攻撃したら、追撃せず、距離を取って、すぐに反撃されないようにする戦法だ。
皆、がんばっている。どんな理由であれ、何かのために戦っている。家族、友、仲間、自分、町・・・・・・。
黒田の目の前にキラーが接近し、黒田を斬り付ける。先ほど攻撃した黒田を狙っていたのだ。黒田は背中に切り傷を負う。
「この野郎!」
黒田が振り返ってブラックホールへと消えるとキラーの正面へと躍り出て、右拳を構える。
「攻撃が大振りだ」
キラーがその黒田を弾くように左手の剣で薙ぎ払う。それと同時にキラーの背後から黒岸が躍り出るが、右手の剣で黒田の二の舞を演じる。
「てめぇ・・・・・・只で済むと思うなよ!!」
黒谷がブラックホールを構える。キラーを吸い込むつもりであろう。しかし、キラーはその顔に不敵な笑みを浮かべると、黒谷へと告げた。
「戦う時は周囲に気を配れ」
告げられた黒谷の後ろには、僅かに白みがかったキラーがいた。この能力を使うことができる。これはもう、闘也やソウリールとの血の繋がりを象徴するものである。
魂。
黒谷が振り返ると同時に、キラーの魂が黒谷の両腕を切断する。体のバランスを失った黒谷は、そのブラックホールを消滅させ、仰向けに倒れる。
「ちっ・・・・・・数が多くてもこれは無理か・・・・・・」
そう毒づいた明文へと、キラーの魂が剣を投擲し、その肩を切り裂く。キラーが直進型雷の発射体勢に移る。それを見た乱州が飛び出す。
「兄貴ぃっ!!!」
乱州は明文とキラーの間に割り込むと、その腕に装備された盾を構える。乱州はどうにか雷からは明文を守りきったが、予想以上の電圧に膝をつく。
「乱州!!」
闘也が叫ぶと同時に、的射へと炎の弾が発射される。
的射は水の弾を作り出してそれを発射する。一発目を破壊すると同時に起きた水蒸気爆発の爆風に一瞬怯んだ的射へと、二つ目の炎の弾が迫った。
的射は二つ目の水の弾を作り出したが、それは目の前で水蒸気爆発を起こさせる要因となってしまう。水蒸気爆発の爆風を諸に受けた的射が吹き飛ばされる。
「的射!!」
次いで由利に水球が迫る。由利は水に対しての雷の壁を作り出す。しかし、その雷の防壁をも突き破った水球は、不幸にもその雷の効果を纏いながら由利に直撃した。由利が大した時間を掛けずに振り払うが、その勢いが大きすぎた故に、両膝と両手をつく。
「由利!!」
その後、黒い三彗星を吹き飛ばそうと風を吹き付けてくる。秋人がそれに対抗して風を吹き返すが、その風に負けて秋人は空中に吹き飛ばされる。そこに真空刃が襲い掛かる。そのうちのいくつかは、秋人の高速の能力で回避に成功するが、更に追撃してきた真空刃に、右足と左腕を突き抜けられる。幸いなことに、対してその傷は深くないが、その威力は計り知れない。
「秋人!!」
最後に闘也に向かって大量の岩石が投げつけられた。闘也はツインソウルソードを構えて対抗しようとしたが、強固な岩石を破壊するには、剣では余りに貧弱すぎた。
「くっ・・・・・・!」
闘也を大量の岩石が押し包む。
「闘也ァ!!」
「闘也!!」
自分を呼ぶ声がする。そうだ。まだ誰もこの戦いを諦めてはいないのだ。闘也はソウルハンマーに切り替えると、それに思いを乗せて岩石を吹き飛ばす。
「乱州、的射、秋人、由利。五人で融合するぞ」
闘也は四人の方を向いて言った。この一撃で、決める。終わらせる。本当の終わりなのだ。五人は、闘也を先頭に融合する。そして、キラーからそれなりの距離をとり、剣を作り出した。その剣はどんどん大きくなっていく。由利が先頭に出て、話す。
「大地の怒りを秘めた刃」
すぐに秋人に切り替わり、秋人も口を開く。
「幾億も切り刻む刃」
さらに的射が先頭になり、
「どんなものも捉える刃」
乱州が、的射の次に話し始める。
「悪しき者を一振りで打ち抜く刃」
闘也が先頭になり、決意をこめるように叫ぶ。
「その刃!!! 我にありっ!!!!!!!」
かなり巨大な剣ができる。巨大なため、乱州の剛力となる体にしてその剣を持った。五人が一斉に叫ぶ。
「超重魂剣!!!!!」
その剣を頭上からキラーに向かって振り下ろす。キラーは必死にかわそうとしていたが、その巨大な刀身と秋人の能力によって高速で降られる剣に対処できなかった。キラーがその光景に息が止まる。一瞬のうちに、キラーの頭頂部へとその剣先が触れる。真っ二つにした感覚が一瞬あった。さらに横から斬り、すぐに斜め上から斬る。キラーは最期の言葉を言うことも、最期の息をすることも叶わぬままにその体を切り刻まれた。
終わった・・・・・・戦争が・・・・・・。
闘也達は、全てを悟った。そして、サイコスト協会に足を運び、勝利報告をした。
全ての元凶であるキラーがやられたことによって、未だに諦めずに戦い続けていた各地のエスパーも撤退した。戦争にサイコストは勝ったのだ。沢山の犠牲を出し、嘆き、悲しみ、喜び、怒り、様々なことを経験することになったこの戦争を、闘也達は生き抜いたのだ。
「帰ろう。帰るべき場所へ」
闘也は、一言そう言った。