23、決戦
闘也はその男に向かって怒りが含まれた口調でその名を呼んだ。ソウリール・エスパー。この戦争を起こした張本人でもある。全ての戦いの原点にある者。そんな呼び名が一番似合いそうなほどだ。闘也は、ソウリールを心から憎んでいた。戦争を起こしたからでもあるし、母を殺させたからでもあるし、自分達の前から突然姿を消したからでもあるが、なによりも、自分の力を過信し、それを自分達に見せつけ、押さえ込もうとしていることだ。
だからこそ、絶対に許さない。俺が倒す。いや、俺しか倒せない。
「俺は・・・・・・貴様を討つ!」
闘也は一本の剣を作り出す。闘也が一歩前に出たとたん、後ろが塞がれた。電気の膜が張られている。その中にいるのは、闘也とソウリールだけだった。
「この電膜、貴様が逃げたときのものか」
「よく覚えているな! あれの強化版みたいなものだ」
ソウリールは一本の剣を取り出す。光を放っている。
「この剣はただ刺すための剣ではない。光でできた剣。そう、これぞ! 人類の最高傑作と言われた、鬼光剣、ビームソード!」
ビームソード・・・・・・。伝説に聞いたことがあった。古い昔の偉い学者が書いた予言書の中に、ビームソードのことが載っていた。
その伝説と言われたものが、今やつの手元にある。どんな能力を使ったのかは知らないが、強力な武器になることは間違いないはずだ。
「始めるぞ。闘也」
「・・・・・・」
沈黙が一瞬広がる。その後、すぐに闘也とソウリールが走り出す。二つの剣が、電膜の中心で交差する。互いに再び距離をとって、相手の出方をうかがっている。闘也は覚醒して戦っている。この戦いで、全てが終わり、全てが始まるはずだ。しかし、この戦いに勝てなければ、その終わりも始まりも、悪いものとして進んでいってしまう。だから、勝たなければならない。
「てえぇぇぇい!!」
闘也が剣を振り下ろし、ソウリールを攻撃しようとする。待ってましたとばかりにその剣を受け止めたソウリールは、右足を突き出し、闘也に蹴りを入れる。その攻撃をまともに受けた闘也は、五メートルほど後ろに下がる。闘也は片方の手に銃を作り出して、ソウリールに打ち込んだ。ソウリールはその弾丸を完全に見切り、剣ではじいたり、かわしたりしながら近づいてきた。
「その程度か?」
ソウリールのビームソードは、闘也の腹に向かって突き出された。闘也は飛び上がり、紙一重でなんとかかわした。あの剣で斬られたら、斬られた場所から解けていく。それによって、体が分断されたりしたら、戦闘どころか、一撃で死ぬ。
「ソウルッ!」
闘也はたくさんの分身を作り出した。これこそが魂の能力だ。今、怒りの感情を大量に詰め込んだ闘也の魂は、かなりの強さのはずだ。魂はそれぞれ、ハンマーやスティック、ガンとソードを片手ずつに持ったり、巨大な剣を両手持ちにしたりしている。闘也本体は、二つの剣を持っていた。闘也は、右手に持っていた剣の刃先をソウリールに向けた。
「やるぞぉぉぉっ!!!」
その瞬間、闘也の魂たちは一斉に走り出す。闘也は、なるべく自分に被害がないように、離れて様子を伺っている。この程度で簡単に敗れるとは思ってないが、無傷でいられるとは思わない。
そのとき、ソウリールが闘也に向かって突っ込んできた。なんとかかわした闘也はその光景に気がついた。向こうにも、ソウリールの分身がいる。ということは・・・・・・。
「あんたも魂の能力を使えるのか」
「お前にこの能力を教えるくらいだ。教える側が使えないわけないだろうに」
ソウリールがビームソードを横から振ってきた。闘也は片方の剣でそれを受け止めた。そして、もう片方の剣でソウリールを斬りつける。ソウリールは僅かにうめき声を上げ、後ろに下がった。闘也はこの期を逃すまいと、ソードをガンに変えて、弾丸を撃ちだした。至近距離で撃ちだされた弾は見事にソウリールに命中した。
「そこっ!」
闘也はハンマーに切り替え、ソウリールに突っ込み、腹部を殴りつける。ソウリールがよろめいたところにもう一撃を加える。闘也は、ハンマーを再び剣に変える。
「これでぇぇっ!!」
闘也はその剣の刃先をソウリールに向かって突き出した。何の躊躇も迷いもない。ただ一心にソウリールを倒すという思いで戦っていた。
しかし、その思いもむなしく、軽々と頭をよけられた。この程度はかわせるということか。
ソウリールは、この攻撃を一番のチャンスとみたのだろう。再びキックして闘也を自分から遠ざける。闘也は再び突っ込む。だが、すでに見切られていたのだろう。軽々とかわされ、ビームソードを頭上から振り下ろしてきた。
「まだまだ!」
闘也はスティックに変えて、腰の辺りに下ろされたビームソードを受け止めた。だが、その腰以外は無防備な状態となっていた闘也にとって、このままはやばかった。もちろん、そのすぐ後に反撃が来た。腹に膝蹴りをいれられる。体を起こされて、その拳で殴りつけてくる。闘也がよろめいているところに、ソウリールがビームソードを振り下ろし、闘也の腹部を斬りつける。深くはないが、焼け付くような、今までに味わったことのない痛みに負け、闘也は仰向けに倒れた。追撃を食らうまいと、ツインガンを作り出し、仰向けの態勢のまま、ソウリールに向かって撃った。
撃ちだされた弾は見事に命中した。もう闘也もソウリールもかなり体力を消耗していた。闘也は、分身している魂を戻す。ソウリールも、自分の分身を戻したようだ。
次が最後だ。
闘也もソウリールもそう感じていた。次の一撃で全てが決まる。闘也は片手持ちの剣を両手持ちにした。ソウリールも走り出す準備をしている。二人が睨みあう。闘也が走り出した。それとほぼ同時にソウリールも走り出した。魂剣は、黄色い魂の色を帯び、持ち主の感情に応えまいとしている。鬼光剣はその輝きをいっそうまし、持ち主のために全力を尽くそうとしている。それぞれが剣を振り上げ、それを目の前の敵にあてようと振り下ろした。闘也とソウリールがすれちがう。
一閃。その言葉が似合うような光景だった。お互いの表情は固くなっている。そのうち、片方の表情が、敗北の表情を浮かべ、倒れる。
しばらくの時間が過ぎた。ソウリールが、まさしく敗北の表情を浮かべてゆっくりと前に倒れていく。それと同時に、生命力を象徴していたかのように、ビームソードの光が消えかかる。
そのとき、闘也の心から憎しみの感情がその瞬間だけ抜け落ちていた。倒れた父を振り返る。もうほとんど動かない。ようやく肩で息をしているといったところだ。
「ソウリー・・・・・・ル・・・・・・父さん・・・・・・」
闘也はソウリールの元に駆け寄る。自分が父を殺したというのが、世間からの目。息子が憎しみという感情を武器に父親を殺害したという世間の目が自分を見ていたような気がしたが、今闘也の中に渦巻いていたのはそんなものではなかった。
「父さん! 父さん!!」
闘也は必死に叫ぶ。もう戻らないとは思っていた。それに、生き返ってもいいことはない。
「とう・・・・・・や・・・・・・」
「父さん・・・・・・」
ソウリールは最後の力を使ってその口を開いた。ひどく息が荒れている。
「こんな・・・・・・俺でも・・・・・・かなえられる・・・・・・ことを・・・・・・ひとつ・・・・・・かなえてやる・・・・・・」
「じゃあ・・・・・・」
闘也は、なるべく無理をさせまいと、すぐに口に出した。
「父さんの名前を教えてくれよ・・・・・・」
もう、本人以外から名前を聞き出すことができる人はいない。
「俺の・・・・・・本当の・・・・・・名前は・・・・・・ソウリール・・・・・・エスパー・・・・・・。すまないな、闘也・・・・・・おまえもっ・・・・・・」
そこで会話が途絶えた。ビームソードが、持ち主の命の消滅に呼応するようにその光を消す。すでに闘也の頭は真っ白で、ただ叫ぶことしかなかった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
力一杯闘也は叫んだ。もう息が戻ることはない人間が目の前にいる。それだけでも胸が苦しくなる。ましてや、それが自分の父親だということは、もう何も考えられない。
闘也を包んでいた電膜が消滅する。ソウリールが死んだからであろう。乱州達が闘也に駆け寄る。闘也の目からは涙があふれ、頬をつたって下へと流れていた。
「闘也・・・・・・」
乱州は、心配するように闘也の名前を呼ぶ。返事はない。ただ一人の男の前で泣いていた。もう彼に、血の繋がった者はいない。闘也はこれから一人で生きていく。たぶん、それは可能であろう。闘也は、戦闘的なところだけでなく、精神面でも、他の人よりずっと強い。たぶん大丈夫だろう。
乱州達は、ただ黙って、闘也のそばにいた。こうすることが、今自分達にできる、最良の行動のはずだと信じ、そうし続けた。
日本領空、炎天より南に五十キロ地点を、エスパー01が飛んでいた。その中には、ソウリールが残したエスパー達が未だに居続けていた。そして、その時に知らされたのが、ソウリール――彼らの指揮官の死であった。
エスパー01の乗員達は、皆、嘆き悲しんだ。もう自分達を率いてくれる者はいなくなった。もう自分達は終わったのだと思った。
『何ヲグズグズシテイル!』
嘆き悲しむエスパー達の後ろから、機械音声が聞こえる。振り返ったエスパー達の目の前には、機械があった。
「おい!あれってもしかして・・・・・・」
「ああ。「ESP」が作った軍兵生産機、ルシーラじゃないか」
ほとんどのエスパーがそれに驚いている。ルシーラという機械は、自立神経を兼ね備え、自らの意思で行動することができるとは知らなかったからだ。だが、そのうちの数人のエスパーは、驚いているエスパーを怒鳴りつけた。
「何をしているお前たち!この方は新しい指揮官、ルシーラ様だぞ!」
「はあっ!? 何を言っているんだ。お前は!」
「ソウリール様は、戦闘出発の前に、もし自分が死んだときのためにと、遺書を残されたのだ。それには、新たな指揮官をルシーラに任命すると書かれていた。その遺書を今私が持っている」
そういってそのエスパーは、一枚の紙を取り出し、順々にエスパーに見せていった。確かにソウリール様の字だな、と納得したものがほとんどだった。そして、その意味を理解した者はすぐにルシーラに向かって敬礼した。
「ではルシーラ様。最初のご命令を」
『ウム。マズハソウリールノエスパーエネルギーヲ回収シロ』
「ルッ、ルシーラ様!?」
『ドウシタ』
「ソウリール様を呼び捨てにするのですか!?」
『モウ死ンダ者ダ。ワザワザ様付ケスル必要ハナイ。文句ガアルノカ?』
「あ、い、いえ! 失礼しました」
その間にも、他のエスパーはソウリールのエネルギーを集めた。
「ではこの後はどうされるのですか。ルシーラ様」
集め終わったのを確認して、一人のエスパーが話しかけた。
『・・・・・・』
「ルシーラ様?」
『・・・・・・死ネ』
そういってそのエスパーを腰に装備していた剣で刺し殺した。
「ルシーラ様・・・・・・何を・・・・・・」
そういってそのエスパーはエネルギー体となる。
『貴様ラモ死ネ!!』
そう言うと、次々に殺していく。エスパーのほとんどは、ルシーラの行動に驚き、その驚愕に体を硬直させたままに死んでいったが、中には応戦体制を取る者も少なくなかった。
斬りかかってきたエスパーの剣を弾くと、その首筋に剣を滑らせる。背後から銃弾を浴びせられるが、そんなものは、特殊な合金で守られたルシーラの装甲を貫くことができるはずがなかった。
『無駄ナ足掻キダ!!』
ルシーラは左腕に内臓された銃から弾丸を連続発射して薙ぎ払う。
最後の一人が消え、そのエネルギーが回収されたころ、ルシーラはぼそりと呟いた。
『ソウリール。少シバカリ早ク作戦ヲ決行スル。許セ』
そういって、ソウリールの自室に入ると、赤いボタンを押した。その瞬間、警報アラームが鳴る。退避の命令だ。このボタンを押せば自動でそうなるのだ。まもなくこの船も爆発し、そして・・・・・・。
『完全ナル復活ヲ・・・・・・』
その瞬間、船は爆発し、一人の男がそこから出てきた。
その男の瞳は殺気に満ちていた。