21、悪夢
ゲルガーとニワーダの作戦により、再び軍兵の生産力を取り戻したエスパー。この作戦は見事に成功したが、ニワーダが、我がエスパー軍、最重要組織「ESP」の存在を教えてしまったため、やつらは、それを倒そうとさらに力を上げてくるはずだ。
「ESP」のメンバーは、戦闘技術専門、ソウリール。軍兵生産専門、ニワーダ。生態研究専門、ゲルガー。戦争が始まってから顔をあわせたのはこの三人だけだが、あと一人だけ、「ESP」のメンバーは残っていた。
偵察指揮専門、ガルラ・エスパー。それが彼の名だ。
今はどこで行動しているのかは分からないが、きっとどこかで、やつらの情報を得ているか、もしくは、直接尾行しているかのどちらかだろう。あいつはかなり破天荒なやつで、ときに、自ら偵察に出たりもするほどだ。
ソウリールは部屋でモニターを鑑賞していた。現在、ソウリールの所属のエスパーがどこで活動しているかが人目で分かるものだった。そのとき、脳内にノック音が響いた。誰かから呼び出されたのだろうか。・・・・・呼び主は、ガルラ!なにか報告があるのか?
闘也達は、ニワーダを倒し、しばしの休息をとっていた。しばらくして、無線に通信が入ってきた。
<こちら一号機。応答願う>
「こちら魂波。任務は終了。これより、帰還します」
<分かった。着陸地点は、海岸だ。五分で到着するから、準備しておいてくれ>
「分かった」
そこで無線は切れた。無線で応答するのは、闘也しかできないが、聞くだけなら、他の四人も可能だった。
「皆。聞こえたな。これから海岸に向かう。歩いて七分くらいだったから、走れば五分くらいで着くはずだ」
「よおっし!海岸まで競争しようぜ!」
「えー。秋人だけずるーい」
「秋人は四分待ちね」
「えー」
笑い声が起こる。秋人以外が一列に横に並ぶ。秋人が「よーい・・・・・・スタート!」と言い、四人は一斉に飛び出した。トップは乱州。その次に闘也、由利、そして的射だった。それぞれ、女子同士と男子同士で競っていた。
四分後、秋人は最高速で走り出した。周りの風景は一瞬にして移り変わっていく。闘也達が少しずつ近づいていると感じていた。さらに先に海岸も見えてきた。夜とはいえ、月明かりに照らされていて、道は明るかった。
闘也達は、海岸を目前にして、かなりのデットヒートだった。闘也と乱州は、追い越し追い越されの連続を繰り返し、的射と由利も必死にそれに食らい付いてきた。そんな中、後方から、大きな砂煙を上げて何者かが迫ってくる。誰かは分かる。秋人だろう。
「秋人が追いついて来たぞ!」
闘也が叫ぶように言うと、他の三人は後ろを確認した。
「スキあり!」
三人が後ろに気を取られている間に、闘也はラストスパートをかけて、スピードを上げた。かなりの速さだった。他の三人を引き離した闘也は、そのまま海岸に到着した。秋人はかなり近くまで追いついているようだ。
「俺が奇跡の大逆転をぉぉぉぉ!!」
秋人が三人を追い越す。そのまま海岸に突っ込み、ゴール。つまり秋人は、他の四人よりも、四分待ちしたのに、五位から二位まで上がったのが誇らしいんだろう。そのまま、乱州、由利、的射の順番で海岸に飛び込む。秋人を除いて誰もが息を切らしていたが、顔は笑っていた。
そこへ、ヘリが下りてくる。こちらにものすごい風をあてながら、ゆっくりと下りてきた。
「お疲れ様」
「ああ。ありがとう」
パイロットに軽く笑顔で語りかけた。
しかし、労いの言葉を言い放ったすぐ後にパイロットの表情は固くなり、こちらを見てきた。
「実は、たった今協会から連絡があった」
協会から連絡。この表情で連絡があったと言うってことは、たぶん、いい連絡ではないだろう。
「何があったんですか」
闘也はたずねるように聞き返した。パイロットは、まず全員を乗せてからと言って、五人をヘリに入れると、開きたくなさそうな口を開いた。
「炎天エリアがエスパーによって攻撃されているらしい。しかも、かなり苦戦しているようなんだ」
今までの笑いが一気に消え去った。攻撃された!?そこまで弱かったのか、炎天の軍は!いや、それとも、俺達が北朝鮮へ向かったというのを、誰かが誰かに知らせ、その隙を狙って攻め入ったというのか。
「ソウリールはいるか分かりますか」
「いや。協会からの連絡では、ソウリール、もしくはそれに匹敵するほどのエスパー反応はなかったらしい」
ということは、通常の兵、もしくは上級兵が数で攻撃しているということか。ということは、炎天に直接ヘリを下ろすのは難しそうだな。ということは、覚醒して降りていくしかないだろうな。
「これ、戦闘機にすれば、スピード上がるんじゃないんですか?」
「そうなんだが、変形する度にメンテナンスが必要なんだ。実際、このヘリは一度も降り立ってないんだ」
「そう・・・・・・ですか・・・・・・」
「到着まで二、三時間はかかる。それまでに仮眠を取っておけ」
しかし、そう言われてもあんなことを聞かされてそう簡単に眠りにはつけない。何か言いたそうな闘也へと、パイロットは言った。
「大丈夫だ。もっと炎天の皆を信じてやれ」
「・・・・・・はい」
闘也達は、言われるままに眠りについた。
・・・・・・ここは? 一体何があった? 皆は? 俺は? 夢だろうか。たぶんそうだろう。真下には、町がある。覚醒もせずに浮いているんだから、たぶん夢だ。
「おい」
正面から声をかけられた。はっきりしない声だが、男のような太い声だった、
「お前が町を出て行ったせいで、こうなった。これはお前が引き起こしたことなのだ」
口が開かない。はっきりしていることは、これは夢だという意識があることだけだ。
「お前だけでも残っていれば、こんなことにはならなかった。眠っているお前には、今は誰よりも非力だ。力を持たぬただの動物にすぎない!」
ショックがこみ上げてきた。通常なら言い返してやりたいが、口が開かないんだからどうしようもなかった。
「お前のせいでどれほどの人間が死んだと思っている! どれほどの住居を失ったと思っている! どれほどの人間の、生きる希望を奪ったと思っている!」
うるさい、うるさい、うるさい! 黙れ! お前にそれができるのか! くそったれ!
俺はいつだって仲間と共に戦ってきた。だからこそ、見捨てるわけにはいかない。例え侵略が免れたとしても、向こうで仲間がやられたなんて報せを聞きたくない。せめて、目の前で見届けたい。お前は仲間を信頼していないのかよ!
「信頼しているからこそ、私は見送るべきだったと思う。むしろ、お前の方が、よっぽど信頼していないように見える。自分の仲間は弱いから、自分がいないといけないと」
悔しいのはやまやまだが、確かにそうだった。信頼し、大丈夫だと思うからこそ、見送る。逆に付き添うのは、自分の仲間は非力だ。自分がいないと何一つ力を発揮できず、死に行く者たちだと決め付けるようなものだ。だけど俺はちがう。逆だ。仲間が後ろに、ただ突っ立っているだけだとしても、それが俺の力へと変わっていく。加勢したなら尚のこと。
「どうやらお前は、我と戦う資格があるようだな。いつか会えるのを、そして、お前と剣を交えることを、楽しみにしている」
その言葉を最後に、そいつは少しずつ薄れ、やがて消えた。
目が覚めた。息が荒くなっていた。外はまだ闇に閉ざされていた。パイロットに時間を聞くと、三時らしい。他の四人も、息が荒くなりながらも目が覚めた。
「もうすぐ日本の領空に入る。領空に入って、十分もすれば炎天につく。しっかり目を覚ましておいたほうがいい」
「・・・・・・はい」