20、潜伏
五人は北朝鮮の大地に降り立った。少し横暴なやり方ではあったが。隊長であろうものが話しかけてきた。
「「魂」隊。基本的に我々第二、第三部隊は、周辺の見張りを行うので、そちらは進行しつつ、エスパーがいたら殲滅してほしい。北朝鮮の軍が攻撃したら、反撃をしてくれ。北朝鮮の弾は、エスパーのようなものとは違う。当たったら死ぬ。その考えの上で行動してくれ」
「分かった。それでは、いってくる」
「気をつけて」
兵士全員が敬礼し、闘也達も、敬礼した。闘也は地図を開いた。北朝鮮の軍事施設の内部とその周辺の地図だ。かろうじて、自分達の場所も記されていた。方位磁針と照らし合わせ、方角を確認し、そちらに向かって足早に歩き始めた。
「乱州ぅ!」
正人が叫んだ。手を振っている。
「がんばれよぉーっ!」
乱州は足早なまま、振り返って手を振った。
北朝鮮の軍事施設が見えてきた。兵士に警戒され、攻撃されても面倒だ。だが、なにやら慌ただしい。自分達が見つかっていたら、撃たれるか、報告されるはずだ。
向こうの部隊が見つかっているはずもない。なのになぜ・・・・・・。いつもは聞き取れる会話も、残念ながら日本語ではないため、意味は理解できない。
そのとき、軍の戦闘機が、豪快なエンジン音を上げて十機ほど飛び立った。その先を見上げてみた。あれは! 先ほど、ヘリから戦闘機へと変化した自分達のものだった。なるほど。あれが標的か。それで慌ただしいというわけか。言葉が分からない以上、行動から理解するしかない。闘也は無線のスイッチを入れた。
<こちら一号機>
「こちら魂波。現在、軍事施設が見える範囲内のところに潜伏中。しばらくここで様子を見る」
<こちらもなにか・・・・・・うわっ! もうあったようだ! 敵の攻撃を受けている! 戦闘機が十機! 北朝鮮のものと思われる!>
闘也は、無線を切ると、横にいた的射に話しかけた。
「的射」
「なに?」
「あの戦闘機、一機残らず落とせ」
「分かったわ。やってみる」
的射は覚醒し、バズーカを構えた。バズーカは元々対戦車用だが、中には対空のバズーカもあるため、空に向かって打ちあげても問題はない。的射が、一機、また一機と撃ち落としていく。ここから撃つと、それなりの煙が発生して、潜伏がばれてしまうため、秋人に煙を吹き飛ばさせた。
しばらく待ち、夜になった。ここまでで特に変わった様子はない。強いて言えば、あれ以上、戦闘機は出撃されなかったことぐらいだ。
しかし、とうとう変化が現れた。黒い衣服に身を纏い、そいつはやってきた。人目を気にせず、どんどん進んでいった。闘也達もあとを追った。そいつから、多量のエスパー反応がしたからだ。
こいつが、例の複数人いるリーダーのうちの一人であろう。ソウリールがここに逃げてきたとは思いづらいが、少なくとも、こいつは、ソウリールと同等のエスパーのはずだ。さらに奥へと進むそのエスパーを、尚も追い続ける。エスパーは、一つの部屋に入っていった。近くの柱に身を隠し、再び出てくるのを待つ。やがて、なんの変わりもなく部屋から出てきた。だが、さっきより足取りは重い。何かを抱えているかのようだ。尚も後をつける。そいつが軍事施設を出たころには、外は暴風だった。そいつの姿が月明かりに照らされる。なんと!人を抱えている。しかも、一人や二人ではない。十人もだ。しかも、奪われている人間は、小さい。一日中見張っていても、あそこまで小さな兵はいなかった。つまりやつは、対象のものや人の大きさを変えることができるというのか。
「貴様ら」
そういって、そいつは振り向いた。いつから気づいていたのかは分からない。今気づいたのか、部屋に入るときや出るときに気づいたのか、もしくは、初めから気づいていたか。
「我のような身分の高いエスパーを尾行するとはいい度胸しているな」
「どのみちこうして対峙する。そんなのは関係ない」
「まあいい。俺ははやいとこ、お前らを、ありのような大きさにして、ひねり潰したいからな」
「闘也」
乱州が後ろから話しかけてきた。
「あいつの能力は、全長変形。俺の身体の能力の上位能力みたいなものだ。気をつけろ」
「ああ。言われなくてもそうするつもりだ」
闘也は覚醒した。黄色い魂の色が闘也を包む。右手に握られた剣にも、黄色い魂の色がうかがえる。
「そういえば、まだ名を言ってなかったな」
思い出したかのようにエスパーが話す。
「我の名は、エスパー軍、最重要組織「ESP」軍兵生産専門、ニワーダ・エスパー」
姓がエスパー。ソウリールもエスパーだった。エスパーは、やつらの言う「ESP」の者だからエスパーがつくのか、あるいは・・・・・・。
「名がどうであろうと、俺はあんたを倒す、それだけだ!」
「それでは、お手合わせ願おうか」
「臨むところだ」
闘也は、ニワーダの方へと走り出した。闘也はソウルソードで、斜めに斬りつけた。かわされる。その後も斬り続けるが、一向に当たらない。
「その程度か。なら、こちらから攻撃させてもらう」
ニワーダは両手を上に掲げた。
「暗黒鎌」
そこに巨大な鎌が現れる。黒いその鎌は、ニワーダよりもはるかにでかい。こんな巨大な鎌を扱えるのか。しかし、いとも簡単に扱ってきた。よくみると、やつの腕は鎌に見合った大きさになっている。なるほど、能力を使って、腕を大きくしたということか。だが、それはこちらにもある。乱州に呼びかける。
「乱州!融合だ!」
「分かった。一緒にやつを倒すぞ!」
二人は融合し、巨大な剣を構えた。
「ビックソウルソード」
乱州の能力を使い、腕を巨大化させ、そのビックソウルソードを軽々と振り回した。ニワーダの鎌と、闘也の剣がぶつかる。僅かに火花が散り、つばぜり合いになる。刃先がギリギリと音を鳴らす。闘也は、無防備なニワーダの腹部へと蹴りをいれる。ニワーダがよろけ、少し下がる。チャンスとばかりに斬りかかるが、かわされた。なんてやつだ。今まで戦ってきた八幹部や四天王よりも、はるかに感応力が高い。でも、かわし上手は、大抵は・・・・・・。
「脆い!」
闘也が、腕をめいっぱいのばし、腕のドームを作り出した。これで逃げられない。連続で斬りつける。狭いドームの中でさえ、すばやく動いていたが、当ててしまえばこちらのものだ。そう。かわすのが上手いやつは、だいたいは打たれ弱い。先ほどのキックであれほどよろめいたのだから、これだけ斬りつければひとたまりもないはずだ。ドームを開けると、ニワーダは、ほぼノックダウンしている。だが、また立てそうだ。ここで決めるか。
「ダブルソウルソード」
そういってソウルソードを二本作り出すと、大きくしていた腕を、長い腕へと切り替える。そのまま回転する。
「秋人!」
呼びかけられた秋人は、その中に飛び込み、融合した。秋人が入ったとたん、闘也達を中心に竜巻が起こった。闘也が回転することによって、さらに風速が早くなる。いつしか巨大になった竜巻は、ニワーダを飲み込んだ。
「高速竜巻回転魂剣斬!!!!」
巨大な竜巻に完全に身動きがとれなくなったニワーダに、回転しながら突っ込む。竜巻の真上に放り投げられたニワーダに、両手を伸ばし、その先に剣を持ち、高速回転をした闘也達が突っ込んでいく。見事命中し、連続で斬り続ける。
かなり上空まで上り詰めた。後は・・・・・・。
「ソウルハンマー」
ソウルソードをハンマーに変えた。しかも、片手に一つずつだ。つまり、二つ。
「重圧力棍!!!」
二つのハンマーを左右から押し付け、圧力をかける。ニワーダはいとも簡単に潰れた。かろうじて、僅かな意識が残っている。ニワーダは、最後の言葉のように、話し出した。
「わ・・・・・・我を倒したところで、サイコストに・・・・・・勝利はない・・・・・・。貴様らが、あがいたところで、もうエスパーは、戦力を下げることなく、戦い・・・・・・続け・・・・・・ら・・・・・・」
そこで、開いていた口が動かなくなった。その瞬間、ニワーダから、大量のエスパーのエネルギーのようなものが、あふれ出した。そして、それらは軍事施設の中へと入っていった。兵士達をエスパーにする気か。闘也たちは急いだ。エネルギーに追いつく。五人がそれぞれの属性を使い、それらを球体に封じ込める。そして、それを外に持ち出し、乱州の能力で、思いっきり遠くへ吹っ飛ばした。
月の光が、静まっている夜の日本海を照らす。ソウリールは、闘也達から逃げ切った後、日本海南側の上空を、エスパー01に乗って飛んでいた。あのままあそこにいても、どんどん兵士を失うジリ貧に陥る。それよりだったら、今、軍兵を大量生産しているニワーダがいる北朝鮮へ向かうのが最良の選択だったと思う。
そんななか、一つの球体が飛んできた。レーダーを確認させると・・・なんとそれは、ニワーダのエネルギーだった。まさか、ニワーダがやられたのだろうか。誰に、いつ。しかし、その見当はつく。誰かは、闘也達、いつは、ついさっき。そして、死に際にエネルギーを全放出したのだろう。
「闘也達に属性のお土産つきで飛ばされるとはな。回収しろ」
「イエッサー。回収作業に入ります」
そういって、エネルギーが回収された。ソウリールは、後は頼んだぞ、と言い放って、自室へと戻っていった。
自室で鍵を何重にもかけると、額をノックした。この間の額とは違う額だ。そこから、一人の男が出てきた。四十ほどの男は、がっちりとした体型だ。ソウリールはその者の名を呼んだ。
「お久しぶりだな。ゲルガー様」
「久々に会ってみれば、さらにたくましくなったな。ソウリール様」
「あんたほどじゃないさ」
「それで、今日は何ようだ。私は眠いのだ。手短に頼む」
「単刀直入に、ニワーダ様がやられた」
その一言で、ゲルガーが驚愕しているのは、その表情と言動から目に見えて分かった。
「なんと! ニワーダ様が!」
「ところで、ゲルガー様、ニワーダと計画していた例の作戦はどうなった」
「安心しろ。すでに完成済みだ」
「それはよかった。それで、その・・・・・・機械の名称は?」
ちょっとたじろぎながらソウリールはゲルガーに問うた。ゲルガーはそんなソウリールを「ふふっ」と笑うと、そこに続けた。
「おどおどするなんて、君らしくないな。名前は、RX-sira。日本語でルックス・シーラ。通称はルシーラ」
「ルシーラか。いい名前だな」
「だが、この名前をつけたのは、私ではなく、ニワーダ様なんだがな」
つい先ほどエネルギー体という死を迎えた者の名を出され、ソウリールは「そうか・・・・・・」と答える以外なかった。ソウリールはしばらく黙ったが、思い出したように口を開いた。
「まあいい。眠いんだろ? そろそろ、おひらきとさせてもらうよ」
「ああ。今日は、朝から一日中開発していたからな。では、よい夢を、ソウリール様」
「お疲れ様」
そういって、ゲルガーは額の中に帰っていった。部屋には沈黙が広がった。もちろん、ソウリールしかいないからだが。ソウリールは、時計を見上げた。大きな時計で、ふりこで動いている。どこから見ても古時計だった。現在時刻二十二時五十三分。俺の計画の成功まで、あと三日と一時間七分。
ソウリールは、作戦室へと戻っていった。