15、融合
超能力戦争が開戦し、次々と襲い来る八幹部。
闘也達は彼らに果敢に戦い、その中で、全員がサイコストとしての覚醒を果たす。
そして、闘也は、サイコストとしては稀な三つ目の能力を習得する。
あらゆる武器を生成し、操ることができる能力、武器。
それが、闘也の手に入れた新たな力であった。
そして四人は、最後の八幹部との一戦を交えるためにも、エスパーの攻め込む炎天へと乗り出す・・・・・・。
エスパーの攻撃による各地の被害の拡大はさらに大きくなっていた。サイコストの兵が昼夜を問わず戦っているのに関わらず、エスパーの数は一向に減らず、侵略されていった。これを終わらせることができるのは日本の軍隊ではない。サイコストだ。サイコストしか、この戦いを終わらせることができない。そのサイコストがやられてしまっていては、いつまで経っても、この戦争は終わりはしない。そして、その限られたサイコストの中で、本当に戦いを終わらせることができるのは俺だけだ。父であるソウリールを倒さなければ・・・・・・。戦争が始まる前、一人のエスパーからその名を聞いたときからそう考えていた。戦争が始まり、ソウリールと対面してから、その思いはさらに大きくなった。絶対に、必ず。断定的な答えを自分自身に出してきた。人から断定されるのは嫌いだが、自分で断定するなら、問題はなかった。
今日は、昨日捜索できなかった町のはずれの部分と、付近の山のふもととその周辺でエスパーを殲滅させることになった。残る八幹部は一人。いままで戦ってきた幹部よりも壮絶な戦いになることが予想された。作戦会議が終わると、それぞれ、朝食を食べたり、今日の荷物を確認したりしていた。昨日と全く同じ風景だ。昨日は、日中こそかなりすごい日だったが、夜はいたって普通だった。
作戦開始。五人は闘也を先頭に穴から出た。闘也は曇っている空を見上げた。頬に冷たいものが当たった。雨かと思った。前を向いたとき、小さな白い物体が目の前で落ちていった。
「わぁ、雪よ、みんな。今年の初雪ね」
「一年ぶりの雪ね。ちょっとうきうきするわね」
雪は一年おきに降るものだが。確かに、雪を見たのは、久しぶりな気がする。今まで、時は短いままに進み、すぐに雪を見ることができた。でも今年は、戦争をはじめ、さまざまなことが起こったせいで、かなり長いように感じた。闘也達は初雪に迎えられ、送られながら、その歩を進めていった。
住宅地のはずれの部分でも、それなりにエスパーがいた。拠点としているやつもいれば、そこの食料を奪っているやつもいた。闘也たちは、全ての家を見て周り、エスパーを殲滅させた。山のふもとまで来たところで、休憩をとった。この山からは、かなりの数のエスパー反応があった。五人で戦えば、そこまで苦戦することはないとは思うが、それでも、強力なエスパー反応もある。幹部ほど強くないエスパー反応だが、そこらのエスパーよりは強い反応を感じた。五人で、そこまで苦戦しなくても、結構時間がかかるかもしれなかった。休憩が終了し、闘也たちは、山の中へと進んでいった。
頂上に到達した。エスパーの殲滅なら、覚醒し、空を飛んで捜索すればいいのだが、そんなことで体力を使ってはいけない。万が一のことがあるかもしれないからこそ、地に足をつけて進んでいる。どうやら、ここにきて、その万が一が来たようだ。
「んなっはっは。いくら八幹部を倒しているおまえらでも、これだけの大群、しかも、そこらのエスパーよりも格段に強いエスパーである上級兵にかなうはずがないヨ」
「格段には・・・・・・」
乱州が腕を巨大化させて、その腕をエスパーに伸ばした。
「自重しろ、お前ら」
避けきれなかった十人くらいは吹っ飛んだが、ほとんどがその攻撃をかわした。なるほど、口だけではなさそうだ。
あれほどの大群を剣だけで対応するのは無理がある。全方向に対応でき、なおかつ攻撃範囲も広い武器・・・・・・。闘也はひらめいた。これだけの大群は一気に片付けたほうがいい。覚醒。
「ソウルスティック」
闘也は一本の長い棒を作り出した。棒といっても、枝のような棒ではなく、孫悟空の如意棒と形容しても問題ない棒だ。闘也はジャンプし、敵陣のど真ん中に着地した。
「数だけいたってな!」
闘也はソウルスティックを器用に振り回し、エスパーをなぎ倒していく。
「ええい!」
「やあぁぁ!」
的射と由利は水の球体を作り出し、その中にエスパーを封じ込め、おぼれさせた。どんなに泳ぎが速く、息が続くエスパーでも、そこに、弾が飛んできてはひとたまりもなかった。
「ほらほら、どうした、俺の動きについてこれないのか?」
馬鹿にしたようないいかたで秋人は走っている。エスパーたちからすれば、苛立ちを覚えるのは確かなのだろうが、動きが速いせいでなかなか攻撃をあてられないようだ。ならば別のやつにと乱州に狙いを変えたが、乱州お得意の「回転両腕薙払」でなぎ払われた。
それぞれの攻撃で、残りはあと二十人くらいとなった。そろそろ決め時だな。闘也は一言呟いた。
「カッタースティック」
その瞬間、ソウルスティックによく切れそうな刃が出現。闘也はそれを頭上でくるくると回した。そのスピードはしだいに速くなっていく。風を切る音がする。
「スロウスティック」
そういって闘也はソウルスティックを投げた。その回転によって、ソウルスティックは闘也の周りをこれでもかというほど、回った。突然自分によく切れる棒が飛んできたら、到底よけられない。エスパーを全て殲滅した。が、そこにエスパーが降り立ってきた。かなりのエスパー反応。幹部か。
「我は八幹部の頂点、一部。地の使、ゴード。いざ勝負だ」
五人はそれぞれ構えた。誰もが強いと感じていた。戦わなくても、感覚で分かる。サイコストとかエスパーとかいうのは、そういうもんだ。
「乱州!俺は左に回る。お前は右側を頼む!」
「OK牧場」
古いな。そう思った。OK牧場とかかなり前に流行った言葉だ(流行ったかどうかもあいまいだが)。と思ったのはもう少しあとのこと。今は目の前のエスパーに集中しなければ。
左右に回った闘也と乱州だったが、それはあっけなく崩された。ゴードは、周りにあった土で自分の体の周りに土の壁を作り出した。さすがにスティックでは歯が立たないとは思っていたが、乱州のあの腕でも壊せていなかった。それだけ頑丈な作りだった。しかし、それだけでは終わらなかった。周りと天井を塞がれる。ここまで頑丈な壁だと、ソードでも歯が立たないだろう。どうやら自分達は戦闘不能な状態らしい。
秋人はいったん山を下り、かなりの助走をつけてからゴードに体当たりをしかけた。が、やはり土の壁に、攻撃は吸収され、周りを塞がれて、闘也達の二の舞となってしまった。
とうとう残ったのは的射と由利だけだ。二人とも遠距離が主体のため、近接戦闘は不得意なのだ。ゴードは少しずつ二人に近づき、近くの土を大量の石にして的射たちにぶつけてきた。
「きゃあぁぁ!」
「ううっ!」
二人がうめきやら悲鳴やらをあげている。いくら石とはいえ、先がとがっている石を大量にぶつけられては、傷もつくし、出血もするはずだ。
的射が覚醒してバズーカとかでこの壁を壊してくれればいいんだろうが、それだと、その破片が当たったり、最悪の場合誤射の可能性も出てくる。そのせいで、的射は覚醒をためらっているのだろう。それをチャンスとばかりに、ゴードは石をぶつけ続ける。闘也も乱州も覚醒し、土の壁を壊そうとしていた。秋人は、体当たりの反動が大きいせいで、気絶していた。
「これで貴様らは終わりだ」
ゴードは石を作り出した。どんな手段を使っても、これから逃れることはできそうもなかった。
ゴードが石をぶつけてきた。しかし、的射たちには一つとしてあたることはなかった。守られたのだ。そこにいたのは、体は黄色で包まれていて、腕だけが、鋼の盾のようにグレーの少年が立っていた。石の壁は壊れていた。闘也と乱州が一つになっていた。
「これが・・・・・・融合・・・・・・」
由利はつぶやいた。
融合というのは、稀に覚醒するサイコストのなかの極稀に、心の通じ合う者にだけ起こる現象だ。
融合は覚醒状態のときにのみ発動可能で、その力は、ただ二人で覚醒して戦うよりも強力なものになるという。融合するときには普通、一人のサイコスト(仮にA)が表面の姿(簡単に言えば外見)となったときには、Aの方の力の方が強くなる。つまり、内部能力(簡単に言えば内面)のサイコスト(仮にB)はサポートになるような感じだ。しかし、Bの意識はしっかりと残っている。だけども、その能力を使うのはAなので、Bの能力も使いこなせるサイコストがAの立場になったほうがいい。そして今現在、Aの立場は闘也、Bの立場は乱州ということになっている。
「ほお、坊主。貴様はその女に恋でもしているのか?だからそんなドラマみたいな、アニメみたいな展開を作り出したのか?」
ゴードは馬鹿にしたような口調で尋ねてきた。
「ちがうな。例えそうでも、そうじゃなくても」
融合状態の闘也はゴードを睨んだ。いつも以上のきつい眼差しだ。
「こいつらは、俺の仲間だ。仲間を守ろうと思わないで仲間なんて語れないからな。守りたいという想いが、俺と相棒を一つにしたんだよ」
俺は一人じゃない。一人で今まで戦ってきたのではない。乱州じゃなければ、的射じゃなければ、秋人じゃなければ、由利じゃなければ、倒せなかったエスパーもいる。
「けりをつけるぞ。準備はいいか、乱州」
(ああ。いつでも大丈夫だ)
「巨大棘鉄拳」
その瞬間、闘也の両手に無数の棘が出現。実は、闘也の武器の能力で小さな剣を大量に作り出し、乱州の身体の能力を使って、剣と拳を合体させて、棘鉄拳となったのだ。
「うおぉぉぉぉぉ!!!!」
大量の棘を拳に込めて、がら空きとなっているゴードの腹部めがけて腕を伸ばした。ゴードは土の壁を作ったが、あっけなく崩され、ゴードももろに受けた。
「ぐふっ・・・・・・。見事な腕だった・・・・・・。だが、まだ我々の上には・・・・・・ソウリール様と、四天王がいる・・・・・・。これで終わりだと思うな・・・・・・よ・・・・・・」
そのまま、ゴードは消えていった。正々堂々と、正面から勝負を受けたあいつは、ある意味、自分達に勝ったのかもしれない。闘也と乱州は分裂し、覚醒も消えた。
それにしても、四天王か。八幹部よりも強力と考えれば、手ごわい相手だろう。なぜか、背中に悪寒が走った。まさか、四天王は一度に俺達をつぶすきではないのだろうか。つまり、四天王は四人いるとして、四人が一度に襲ってくる。かなり大変なことになる。融合を使わなければ、戦って勝つのは到底無理だ。・・・・まぁただの予感に過ぎないのだが。
闘也達は、しずみかけた夕日を見ながら、山を下っていった。