2、相棒
サイコストの移動予測なら、サイコストの初心者でもできることだった。もっとも数が多かったり、対象が速すぎたりすれば、それはかないり厳しいものではあるが。闘也の予測から2日後、とうとうそいつはやってきた。偶然にもA組の教室にやってきた。男。ちゃんとサイコストのオーラも出ている。こいつで間違いない。闘也は確信した。
「波気乱州と言います。これからよろしく!」
乱州はまるで新任の教師のように、気さくに喋った。そして、闘也の隣の席にゆっくりと腰掛けた。闘也はテレパシーで話しかけた。
(おまえ・・・サイコストか・・)
(ああ。波気乱州だ)
(いや、それは分かってる)
(うおっ。いつから知ってた!?)
(今。堂々と自己紹介してたじゃないか)
あんな気さくな喋りだから、たぶんわざと、うおっ、なんて伝えたんだろう。闘也は、昼休みに乱州を屋上に誘った。朝から大変なほど皆に質問されていた。血液型、誕生日、趣味、どこから来たか。転校生というのは大変なものだ。屋上には二人以外には誰もいない。もちろん、闘也にはそのほうがよかった。ずっとテレパシーというのは疲れるのだ。
「闘也、とりあえずお前の主体能力を言ってくれないか」
闘也は要求に応じ、話した。
超能力者相手ならば、気兼ねなく話すことはできた。昔からずっとそうだった。超能力者以外相手だと、壁が隔たってるような感覚になっていた。
「魂と記憶。護身属性は火だ。乱州は?」
「俺は身体と伝心。属性は雷」
「これは嫌なら答えなくてもいい。お前はなぜここに来た」
乱州はしばらく悩んでいるようで、黙り込んだ。
「具体的なものでいい。時間がないから」
「いや、今は言わないことにする」
「そうか・・。家族は、お前がサイコストだって知ってるのか?」
「ん?ああ。両親も兄貴も知ってる。ていうか全員サイコストだ」
「乱州って兄貴いるんだ。意外だな。兄弟いても1番上かと思った」
「まあ、この外見だと『面倒見のいいお兄さん』って見られてんのかな?」
「それ、なんかナルシストっぽい」
闘也はくすりと笑った。
「俺はナルシストじゃなくてサイコストだよ」
乱州が笑いながらも、おどけた風に返す。闘也は、それにまた笑みをこぼした。
「そうだな。そろそろ教室戻るか。時間がない」
「そーだな」
席に着いたところで、授業開始のチャイムが鳴った。授業後の休み時間も、乱州の周りの人だかりは絶えなかった。
そんな二人を尻目に、黒い三彗星は闘也がなぜ無傷だったのか考えていた。確かに、闘也に喧嘩を売ったのは、三人とも覚えている。三人で倉庫に集合したのも覚えている。しかし、そこから先は、いつもの日常の記憶しか残ってなかったのだった。三人の意見にはいろいろあった。闘也は逃げたとか、あんまり遅いから親に連れ戻されたとかの意見が出たが、一番通りそうなのは、実は闘也は先に来ていて、トラップをしかけられていた。そして自分たちはそのトラップにはまっていたということになった。
帰る途中、乱州が唐突に聞いてきた。周りに人影はない。闘也は普通に話した。
「教えてくれ」
「いきなり聞かれても困る。何を教えてほしいんだ」
「この町のサイコスト協会支部」
公にはむろんされていないが、各町ごとに、サイコスト支部というものが存在する。
サイコスト支部では、サポートや報告事項などを伝える役割を、サイコストに対して行っている。そのサポートがどれほど役に立っているかは、人それぞれではあるが、サイコストにとってはその身をのばすことのできる休息の場でもある。即ち、サイコストにとっては、不要のような気がしても、なんだかんだで必要不可欠な存在となっているのだ。
「そういえば、まだ定期報告に行ってないな」
「大丈夫かよ。もう九月の二十三だぞ」
「だから今ついでに行くんだよ」
「誰も今行くとは言ってない。で、どこなのか教えてくれ」
「案内するよ」
「結局行くんじゃねーか」
「細かいことは気にするな」
「んな事言って、ついでに定期報告行くつもりだろ」
「お前は行ったのかよ、乱州」
「引っ越してくる前にやった。今回は、この町のサイコストという証明書を発行しに行くんだよ」
しばらくの言い合いが続いたが、別に喧嘩の感覚は微塵にもない。そんなことを話しているうちに、地下へ続く階段にたどり着いた。
「この先がサイコスト協会炎天支部だ」
示された階段を、闘也を先頭に進んだ。その先は、きれいなフローリングの部屋である。
「ようこそ、サイコスト協会炎天支部へ」
受付の女性が対応した。二人は、サイコスト証明書を出した。受付が、炎天支部所属のサイコストではないことを、乱州に確認した。
乱州は、証明書を発行しに面接室に入っていった。
「あの、定期報告ですが・・」
「了解しました。それでは、あちらの報告室のほうへどうぞ」
手招きされるままに、闘也は報告室に入っていった。
報告室で話すのは他でもない、いつ超能力を使ったか、その後の体への負担はないか。目には見えないが、実は嘘発見器みたいなのがまとわりついている。つまり、嘘を言えばセンサーがことごとく反応し、真実を吐かされる。報告は、検査と、取調べを同時に行っているのだった。
実は闘也は黒い三彗星との喧嘩のとき以外には使ってなかった。嘘発見器も反応しないようだ。というわけで、闘也の報告は十分たらずで終わった。
待合室にて学校からの宿題をやっていたところに乱州が戻ってきた。あれから一時間は経っていた。
「遅かったな」
「証明書一枚にここまで時間がかかるとは」
「遅いから、宿題はもう終わった」
「おっ。俺のほうも終わってるか」
「見てもいねーよ」
「やってくれてもいいじゃねーか」
「時間的な問題だ。勘弁してくれ」
そういって闘也は帰り支度を始めた。「分かりましたよ」と乱州が諦めた。
「宿題の答えの記憶をいれるか?」
「マジで!?入れてくれ」
「記憶加入・・・・・・実行!」
指を鳴らすと乱州は騒ぎ出した。どうやら、記憶が入ったらしい。
「うおっ。苦手な社会の宿題の答えが脳に入ってくる!」
そのまま二人はそれぞれの家に帰ることにした。
次の日、闘也は乱州とテレパシー会話で、世間話をしていると、黒い三彗星が二人によってきた。黒田が喧嘩を売ってきた。
「おい闘也。こないだの喧嘩でのお返しをする。お前のトラップのお返しだ。おっと、波気も来てくれても構わない。」
黒岸が付け加える。
「今度はトラップにははまらない。黒い三彗星の名がすたる」
最後に黒谷が、
「じゃあ、このあいだと同じ場所と時間で」
「次こそは、必ずお前をひねり潰し、二度と体に戻れないようにしてやる。覚えとけ!!絶対に逃げるなよ!」
そう言って三人は去っていった。
(怖くね?あの・・黒いナントカって)
(あんな奴らよりも、サイコストの方が勝っている)
(すげー自信だな)
そこから、また二人は世間話になった。
午後八時三十分。闘也は乱州と共に倉庫へと向かっていた。
「あんた、おふくろさんに黙って出てきたんだろ」
「当たり。何で分かった?」
「もう秋なのに汗かいてたから。焦ってたんだろ」
「なんでも当てるな。でも大丈夫だ。兄貴が誤魔化してくれてる」
「おまえの兄貴は何使うんだ?」
「主に偽物だな。ほぼ毎日使ってる」
「そうか・・。分かった」
倉庫前に来た。闘也は腕時計を確認した。八時五十三分。間に合わせる必要はないが、時間には遅れなかった。倉庫の戸を開け、黒い三彗星を見た。その後ろには、二年であろう者が、四人居る。
「行け!目標は魂波闘也!もう一人はどうでもいい!」
後ろの四人が襲い掛かった。なるほど、あの二年は、黒田たちにやられ、部下となったわけか。どうりでしばらく喧嘩売られないと思った。闘也はしゃがんだ。それと同時に、太く長い腕が、四人の顎付近にラリアットを喰らわせた。四人は一気に吹っ飛ばされた。
「ひっでぇなぁ。どうでもいいなんて・・・・・・俺も混ぜてくれよ」
立ち上がった闘也と共に人差し指を使って挑発する。七人は二人の周りを取り囲んだ。闘也と乱州は背中合わせになった。闘也が話し始めた。
「七対二っていうのは卑怯だけど」
魂が囲んでいた二人を蹴り飛ばした。
「七対三なら、対等だ」
闘也もつづいて二人を蹴飛ばす。残るは黒い三彗星。魂は闘也に戻る。二人は少し下がってから走る。二人の声が重なる。
「エレキファイヤァァアタァァック!!」
闘也は炎のパンチ、乱州は雷のキックをお見舞いした。攻撃の後に見回した倉庫の中には、七人の不良たちが気絶していた。
「俺の記憶は消さないでくれよ」
「当たり前だ。力は抑えてある」
「それなら安心だな」
「記憶消去」
指を鳴らして記憶を消し、そして
「記憶加入・・・・・・実行!」
「しっかりと入れるんだな」
「次の日に記憶がない。なんてことになったら面倒だ」
「それもそうか」
二人は彼らを残し、裏倉庫を後にした。
しかし、その喧嘩を見ていた者がいた。




