4、咆哮者 四
目の前を塞いだ狼次に闘也は聞いた。
「狼次、何してるんだ。向こうはお前を狙ってるんだぞ」
「僕だって、探していたのはあいつだ」
そういうと、狼次に変化が見られた。闘也は驚愕した。狼次がサイコストのオーラを纏っている。今まで超能力者の感じを全くさせなかったのに、ここにいたっていきなり能力を習得したのか、それとも、ここまで能力を自ら封印したのか。どの道、このときになって能力を使うつもりになったのは事実である。だが、まだ狼次は小学生だ。
「狼次、下がってろ。どんな能力であっても、お前はまだ子供だ」
「僕がやる。僕がやる義務がある」
狼次が反乱してくる。戦う気は確かにあるのは分かる。しかし、それだけではどうにもならないことがあるのだ。
「お前はまだ子供だ。こんなところで命を・・・・・・」
「子供だからなんだよ!! 小学生だからなんだよ!! 僕は、子供でも小学生でも――」
狼次がここまで大きく反論してくるとは思わなかった。今まで脳内に構築されていた狼次のイメージが崩れていく。
「――男だ!!」
そうだ。彼にとって、何かに縁取られて自分のやりたいことができなくなるのが嫌なのだろう。自分も、中学生だからと戦うのを否定されても、彼のように、何かしら反抗するだろう。どんな理由であろうとも、自分のやりたいこと、やらなければならないことを抑えてはいけないのだろう。自分がやることが正義ではなくとも、躊躇わない。躊躇うだけの理由がないから。敗れて後悔はしなくとも、躊躇って、諦めたら後悔するのだろう。
「なら、俺も戦おう」
「駄目だ。これは僕の戦いだ」
「俺にだって義務はある」
そう、結局こうなったのは、最終的には自分の父親、ソウリール・エスパーの仕業、ということになる。父親が起こしたこんな戦争を止め、その責任を償うのは、息子である自分の役割。義務。自発的に行動しているこの戦いを、一日、一秒でも早く終わらせる為に、自分は敵を何としても食い止めなければならない。それが自分に課せられた使命であり、義務だ。
「分かった。いこう。一緒に」
狼次がこちらに一瞬微笑んで見せると、すぐにその顔を引き締め、息を吸い込んだ。その瞬間、狼次が爆音と形容するのに相応しい声を張り上げた。
「狼次も・・・・・・咆哮・・・・・・」
やはり、この二人にはなにかしらの因縁があるのだろう。闘也はソウルソードを構えると、狼次の咆哮が止むと同時に飛び出した。
乱州と秋人は、滝を相手にし始めていた。闘也に、滝の情報を求める。以前のような切断と透明のコンボで来るのか、別方法で来るのか。
(乱州。滝の能力は切断じゃなく、巨大剣だ。体質か能力暴走だろう。あいつの剣をはじけば、攻撃をある程度制限できるはずだ)
「了解!」
乱州は右腕を伸ばす。しかし、乱州の腕が到達する前に、滝が透明になって視界から消える。乱州は攻撃に備えて腕を剣へと変形させる。滝が真正面に出現する。乱州は振り下ろされた腕に腕をかざす。金属の感覚があった。乱州は左腕で押さえながら右腕で更に押し付けた。滝が弾かれ、その剣が出現する。
「秋人ぉ!」
「あいよ!」
秋人は飛び出すとほぼ同時に、滝の顔面へとその拳をぶつける。そこに乱州が飛び出し、滝の右腕を切断する。秋人が再び飛び出して胸部を殴りつける。しかし、滝が耐えた。滝は僅かにその顔をにやけさせると、左腕を振り下ろす。乱州が割り込み、その剣を受け止め、情報へと弾く。滝が左足を乱州へと回し蹴る。乱州がその進路に置いた腕剣と、ガチッという音を立てる。
「ここにも刃があんのかっ!」
滝が逆回転して乱州の気勢を削ぐと、足裏で蹴りを入れてくる。乱州はくぐもった声を上げる。と同時に、滝は弾かれた左腕の剣を空中で掴み取り、秋人へと振り下ろす。秋人も回避行動を行ったが、完全に回避するには至らなかった。
「痛いっての!!」
そういうなり、秋人は消える。いや、まるで消えるように高速で走り出したのだ。困惑した滝の左肩を腕剣で貫く。そのまま腕を滑らせ、左腕をも切断した。そこに秋人が高速で走りながら滝の後頭部を殴りつけ、そのまま自分は飛び上がる。
「さよならだ! 滝破羅!!」
完全に対応策を失った滝の胴を、乱州は腕剣で両断した。
一度は中断された由利の暴風と、狂の家の投擲は再開される。的射が狂を狙い撃って決着させようとするが、増援のエスパーを相手にしなければ、ならず、仕方なく近距離用のハンドガンを両手それぞれに持って応戦している。
「これでお前らを潰す」
「返風――超暴風!!」
狂が投げつけた家に、暴風を吹き付ける。止まらずにそのままこちらに家が突っ込んでくるが、由利は構わず風を吹かし続けた。
「横風――超台風!!」
その声と同時に風向きが変わり、的射と戦っていたエスパー達が由利を潰そうとする家の前へと持ってこられる。エスパー達は、持っている爆弾やロケット砲などでわが身を守るのに必死になり、家を破壊する。
「おい! 何をしている!!」
狂が怒鳴る。それもそうだ。味方の攻撃を無力化したのだ。たとえそれが無意識に自己防衛した結果であっても。
「長射程遠距離狙撃」
的射はスナイパーライフルを構え、狂へと狙いを定める。狂が瓦礫を的射へと投げつけ、その銃撃を阻止しようとしている。
由利が飛んできた瓦礫を雷で全て破壊する。その破壊作業の間に、的射の中で多くの計算が成される。目標との距離、およそ五百メートル。湿度、温度、風向き。風力。最大誤差、右に〇・五メートル。
「発射っ!!」
的射はその銃弾を放った。鉛の弾丸は、そのまま狂の脳を貫き、背後へと抜けていった。
闘也、狼次と銀との戦闘は、未だ始まったばかりであった。闘也は飛び出し、銀へとその剣を振り下ろす。銀がその斬撃をかわすと、咆哮を放つ。その声量は、衝撃となって闘也の体に襲い掛かり、吹き飛ばされる。覚醒していたために、地面に体が転がる前に、空中で体勢を立て直す。そのまま剣を握って直進する。狼次が銀の横から咆哮を浴びせかけている。闘也にも少なからず影響があるが、耐えられないほどではない。
闘也は潜り込むようにして脚部へと剣を滑らせる。しかし、その剣は銀を捉えることなくすり抜ける。銀が自らの拳に咆哮を浴びせる。
「何だ?」
闘也が疑問を抱いたときに、銀の拳が衝撃波のようなものを纏っていた。それはまさしく、咆哮の力を拳に纏わせているものであった。闘也は振り返って再び剣を振る。しかし、それをしゃがみこんで銀がかわし、そのまま、拳を闘也へと打ち付けてきた。強烈な打撃であった。そこから衝撃が一気に加速する。拳を相手に当ててから、一気に咆哮のエネルギーを放出する。集中的にその部分を攻め立てられるのは向こうの大きな有利要素だ。
「がっ・・・・・・」
闘也はその衝撃に耐え切れずに吹き飛ばされる。どうにか地面を転がることなく体勢を保つが、そこに再び銀の拳が突き刺さり、衝撃が押し寄せる。アッパーするように腹部に潜り込んだ拳の衝撃で、闘也は上空へと叩き上げられる。そこに狼次が突っ込む。狼次もまた、銀のように拳に咆哮を纏っている。それらを連続で銀へと振るっていくが、その全ては銀の華麗な身のこなしで何も捉えられなかった。銀が左拳で狼次の顔面を殴りつける。咆哮が纏われていなかったが、それでも十分な威力で、狼次が吹っ飛ばされる。それと同時に、銀が自らの拳に咆哮を浴びせる。
(一度放ったら再装填が必要ということか)
闘也は、そこに勝機があると感じた。向こうが再装填、もしくは咆哮を纏っていない時に攻撃するのがいいだろう。しかし、今現在その両拳に咆哮を纏っているため、まともな攻撃ができない。
「これでっ!!」
闘也は握っていた剣を投擲する。高速回転しながら銀へとその剣は向かっていく。銀はその剣の方を見やると、咆哮を放って剣の勢いを抹消した。
「くそ・・・・・・咆哮が強いな」
「その程度で突き抜けられると思うな」
銀がこちらを睨みつけながら言い放ってくる。
闘也はツインソウルソードを構える。狼次がその咆哮を銀に浴びせると同時に接近する。闘也が剣を振る。銀がそれに応じるように、咆哮を纏わせた右手を突き出してくる。拳を切り裂けるかと思ったが、その考え諸共、衝撃によって剣が砕かれる。
「音は、気体よりも、液体や固体の方が早く通れる」
闘也は砕かれた剣を尻目に、左手に構えた剣を突き出す。しかし、その攻撃をあっさりとかわしてみせた銀が突き出された剣に拳をぶつけ、いとも容易く砕く。
「音は振動だ。内部で揺さぶれば、意思のない物体は壊れる」
先ほど投擲した剣の勢いをとめたのもその原理だろう。爆音を利用して空気を大きく振動させ、空気運動の流れを強制的に変更することにより、剣には不規則な力が加わる。そうなれば自ら動く意思を持たぬ剣はあっけなくその勢いを失う。
「お前の武器など、俺の前では無力だ!」
闘也は、左手にソウルソードを形成する。銀が咆哮の体勢に入り、息を吸い込む。その咆哮が吐き出される前に、闘也は開いている右手で素早いストレートを銀の顔面へと繰り出す。銀が咆哮しそこね、体勢を一時的に崩す。闘也はその機を見逃さなかった。瞬間的な加速で銀の眼前に躍り出ると、銀の胴を袈裟懸けに切り下ろす。しかし、距離が僅かに足りずに、両断とまではいかない。
「うおぉぉぉぉぉっ!!」
狼次が両手それぞれに咆哮を纏った状態で銀へと突進する。銀は拳に咆哮を再装填すると、狼次へと向かう。狼次の左拳と銀の右拳がぶつかり、互いの咆哮を殺す。しかし、銀はすでに次の行動を起こしていた。銀が突き出した左拳の衝撃が、狼次の顔面を捉えた。
狼次が、その衝撃に耐え切れずに吹っ飛ばされる。
「狼次ぃぃぃぃぃぃっ!!!!」