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未来少年  作者: 織間リオ
アナザー編 咆哮者
17/30

3、咆哮者 参

 戦闘の三日後。銀滝シルバーウォールが間もなく、全軍で攻め込んでくることは、闘也達はすでに掴んでいた。向こうの狙いは恐らく狼次。そして、こちらを徹底的に潰すこと。ここで決着がつけられればいいのだが。

「狼次」

闘也は後ろにいた狼次に振り返った。その目には一点の曇りもなく、こちらをじっと見ている。ここに残る気は恐らくないだろう。向こうの狙いの一つが狼次である以上、彼を戦闘の中に置くわけにはいかない、というのが本音ではある。闘也は駄目もとで口を開いた。

「お前はここにのこ・・・・・・」

「いやだよ!」

強い口調で否定される。何が彼をここまで動かすのかは分からない。能力がないであろう狼次が、超能力者同時の戦いの中にいては、いつかその身を滅ぼすことになりかねない。

「僕だって、探し人がいるんだ」

その視線は、小学生とは思えないほど真っ直ぐで、全く揺らぐ気配がなかった。何かを訴えているのはよく分かる。だが、それが何なのかは分からない。子供の考えることは分からない。どうであれ、狼次はまだ小さい。闘也達よりも年上の相手とやりあって勝てるとは思えない。

「・・・・・・」

数秒間、狼次をじっと見続けた。体は背を向けているが、その目だけは狼次を見続けた。彼の覚悟を、その決意がどれだけ丈夫であるかを確かめる為に。

「・・・・・・行くぞ」

そう言って闘也は視線を外し、ゆっくりと歩き出した。一段ずつ踏みしめながら段差を上る。他の四人も上ってゆく。最後尾の狼次も上っていくが、その途中で段差につまずいて転んだ。

「ぐふぅ・・・・・・」

「大丈夫か!?」

そんな他愛も無い会話も、それが最後であったのは、言うまでもなかった。


 銀滝シルバーウォールとの戦闘が近づいてきていた。三方からsエスパー反応がある。三方全てから一つずつ大きな反応がある。先日、乱州と戦った狂という男、滝、そして、銀。誰がどの反応なのかは分からない。

「左側から攻め込む」

狼次を含む六人で左側のエスパー反応へと向かう。その反応が近く、大きくなっていく。肉眼で確認できるころには、それが誰であるのかが、六人全員が確認できた。

 滝破羅。銀滝シルバーウォールのトップ。

 闘也は覚醒して臨戦態勢を整える。乱州、的射、秋人、由利もまた、それぞれ覚醒し、滝を迎え撃とうとしていた。

「おそろいのところではじめましょうかぁ!!」

滝が威勢良く声を上げると同時に、彼の背後のエスパー達が飛び出す。的射が上空から狙いを定める。正確な射撃は、走り続けるエスパーの頭部を確実に貫き、一人、また一人と、着実にその数を減らしている。

「まぁ、雑魚じゃ相手にならないよねぇ・・・・・・」

そう言って滝が透明ステルスの能力を発生させ、視界から消える。地面を蹴る音が聞こえる。その音が的射の下で消えた。

「的射! くるわ!」

由利が叫ぶとほぼ同時に、滝が的射の背後に出現し、腕を引く。闘也は慌てて魂を呼び出して的射の背後に向かわせた。間一髪で切断されたのは魂であった。焦りの感情が働いたために、その攻撃一つを受けて魂は消滅した。

「闘也!」

「油断するな、次が来る」

その言葉通り、滝が再び腕を引く。秋人が突撃し、その腕が突き出される前に怯ませる。闘也がそれに引き続くように滝に接近し、追撃を試みる。しかし、飛び出して間もなく、腕を掴まれ、そのまま地面に投げつけられる。

 闘也が地面にたたきつけられて間もなく、一人の男が地面に着地する。

葉桜狂はざくら きょう!!」

乱州が闘也を叩き付けた男の名を叫ぶ。投擲スロウの能力を持つ男。

(闘也。狂には近接戦は不利だ。掴まれたらほぼ確実に投げられる)

乱州が狂についての情報をテレパシーで伝えてくる。それなら、遠距離戦の方が確実に有利であるはずだ。

(由利! こいつを頼む!)

闘也は由利をテレパシーで呼び、狂の相手をしてもらうように頼んだ。由利は快く承諾し、闘也は滝の方へと向かう。

 闘也は上空で的射への攻撃を外した滝へと接近する。滝は闘也の接近に気がつくと、透明ステルスを発動させてその視界から消える。当たり前のように、闘也の攻撃はかわされる。地面に着地する音を聞いた闘也は、そこに剣を投擲する。しかし、手応えは無かった。恐らく回避したのであろう。足音を頼りに、一箇所を横なぎに剣を振るう。しかし、全く手応えはなく、闘也は着地する。背後からした気配に振り返って右手の剣を振る。出現した滝がその剣を紙一重でかわしてその腕を突き出してくる。

「ぐっ・・・・・・」

後方にステップするが、切断カットの能力が闘也を捉える。深くはないが、確実に攻撃が当たった。滝が左手を振り上げて、それを勢いよく振り下ろしてくる。もちろん、狙いは闘也であり、その闘也との間にも間がある。

「それなら・・・・・・」

闘也は予測のままに剣をその腕の進路と同じ場所にかざす。そこに、確かな感覚があった。これは・・・・・・金属の感覚。闘也のソウルソードとぶつかったときの音はまさしく金属のそれである。

「防がれた!?」

滝の驚きに追い討ちをかけるように、剣を押し返して反撃の突きを繰り出す。しかし、二本に分割し、その手数を増やすツインソウルソードでは、その刀身が短いせいで、滝の体まで届かない。闘也は左手のソウルソードで滝の腕を切断しにいく。しかし、その腕に到達する前に、何かに剣の進路を防がれる。またも金属音。腕の横にも、その刀身がある。よほどの大きさか、複数の剣がなければ不可能だ。

「それでもっ!!」

闘也は入れるだけの力を入れてその腕を弾いた。滝の右手腕から何かが現れる。それは巨大な刀身であった。

「あんな刀身ものがあったなんて・・・・・・」

しかし、引っかかることはある。切断カットの能力は人の目には基本的には視認不可能な刃を使って攻撃する能力である。だが、その正体がこんな刀身であるとは聞いたことがなかった。

「滝、お前、能力は切断カットじゃなくて・・・・・・」

闘也が漏らした疑問、そしてその答えは当たった。滝がゆっくりと闘也の質問に答える。

巨大剣ラージソード

巨大剣ラージソード。所有者の腕よりも太い刀身を持つことができる能力である。腕を剣のように振ることができるので、イメージトレーニングや戦闘のための筋トレなどもしやすいのが特徴である。

 それが通常時になぜ見えないのかは、もう一つの能力、透明ステルスにあるだろう。恐らくは、その能力の体質に剣の方が勝手に反応して透明になっていたか、もしくは、滝が透明ステルスに関して能力暴走スキルオーバーを起こしたかのどちらかだろう。しかし、後者では能力制御が不安定になるため、先ほどまでのように、任意で消えたり出現したりするのは難しいはずだ。

「とにかく、能力が分かった以上、こちらが貰う」

「目の前の相手にばかり集中して、大事なことを見失ったらお終いだぜ、魂波闘也君」

その瞬間に闘也に襲い掛かったのは、鼓膜が破れるほどの巨大な、それは巨大な、まるで核爆弾の爆発のような、文字通り爆音であった。


 闘也と滝が戦闘に突入したころ、由利、的射は狂との戦闘に入っていた。闘也達が考えた通り、向こうは物を掴み、それを任意の場所に投擲できることができる。だが、それは実体のあるものであり、由利の起こす雷のような、はっきりとした形のないものは掴みようが無い。掴もうと腕を伸ばせば、その雷の餌食になるだけなのだ。

 由利と的射は、確実に狂を追い込んでいた。向こうはまともにこちらの攻撃を掴めないのだ。瓦礫などに寄り付こうとすれば、的射の銃弾がそれを拒み、そのまま追撃に移るものであったが、いまだ決定打は与えられていなかった。向こうは、こちらの雷の進路予測を立て、それを的中させて回避する。狂の背後にある金属棒を時折こちらに投げつけ、避雷針の役割を行ったりもしている。しかし、狂がそれを防いだところで、的射の銃弾は対処のしようがないのだ。

「由利、一気にこれでなぎ払う!」

的射がスナイパーライフルの銃口から高圧の水を噴射させる。そして、それをそのまま狂へとなぎ払う。

 しかし、的射の行動は裏目に出た。

 狂がその迫る水を掴んだのだ。実体のある、確かに握れるもの。その瞬間、的射が放った水は全てが狂の下に集約される。由利が向こうの攻撃阻止のために雷を放つが、避雷針を投げられて上手く攻撃が届かない。

「的射!!離れて!」

由利が叫ぶと同時に、その水球が発射される。的射は狂から距離を取る。そこに由利が火球を作り出し、それを水球へと飛ばす。

 由利の予測どおり、水球と火球は接触した後、盛大な爆発を行う。由利と的射はその爆風の大きさを想定に入れておらず、予想外の大きさに、大きく吹き飛ばされる。その時、二人の攻撃は完全に途絶えていた。その隙を狙って、狂が大量の瓦礫を投げつけると同時に、その瓦礫で覆われた家を持ち上げる。

「まさか、あれを投げつける気!?」

的射の驚愕はもっともである。由利と的射はそれぞれが瓦礫の処理に追われてそちらに攻撃する暇がなかった。

「こうなったら、吹き飛ばすしかない・・・・・・」

由利は、向こうが投げつける前に、その風を少しずつ呼び寄せ、溜め込んでいく。一発に台風の比にならないほどの暴風を巻き起こせば、すでにその地面から離れているものは容易く飛ぶというものだ。

 しかし、由利が暴風を起こそうとしたのも、狂が家を投げようとしたのも、一時的にであっても行われないこととなる。

 彼女らに襲い掛かったのは、まるで狼がその爆音を誇張したような音だった。


 闘也が聞いた爆音が収まったとき、闘也はその方向を見た。そこには、一人の男がいた。銀のジャケットを着た男は、闘也を見ると僅かにその口を綻ばせたが、すぐにまた引き締まった。

「あんたが、銀か」

「お察しの通り、俺が雷狼銀らいろう ぎんだ」

丁寧な自己紹介の後、銀は更に続けた。

「俺の能力は今ご披露したとおり、咆哮バインドだ」

咆哮バインド。確かに、先ほどの爆音も納得がいく。しかし、何故、咆哮バインドの能力者がリーダーを勤めているのだろうか。闘也には、咆哮バインドによる攻撃方法が、その爆音のような声しか思い当たらない。

 闘也は、銀の方へ向かおうとしたが、それを別々のやり方で二者が妨害する。一人は、先ほどまで戦っていた滝。その剣を拾い、すでに見えなくしていた。闘也を進ませんとしているのだろう。しかしそこに、先ほど他のエスパーを殲滅させた乱州と秋人が加わる。闘也の前に立ち、滝と対峙する。

「闘也、この透明野郎おくびょうものは俺達がなんとかしとく」

「分かった」

闘也が進み出て、ゆっくりと銀の方へと向かっていく。滝がこちらに右腕を突き出してきたが、すでにその対処法を心得ている闘也を左足に体重をかけ、ソウルソードで滝の透明な剣を受け流した。追いすがろうとする滝を、乱州と秋人が攻撃する。


 進み出た先に、闘也の進路を拒んだのは、自らよりも背の低い少年。こちらに背を向けたまま、銀と対峙する狼次であった。


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