2、咆哮者 弐
闘也の推測は始まった。
「さっきの狼次の探していたやつは銀髪という話だったな」
「それと関係が?」
「銀滝のもう一人の銀かもしれない」
「まさか」
秋人が否定的な意見を上げる。
「あくまで推測だ。そして恐らく、銀滝も、狼次を狙っていた」
「はぁ?」
秋人が声を上げる。あまりに馬鹿馬鹿しい考えだと思ったんだろう。それでも仕方ないのは分かっている。どう考えても自分の考えは筋が通っていないのだ。
「そして、俺達と行動を共にすれば、いつまでも銀とはめぐり合わない、と思って抜け出した」
「まぁ、筋は通っちゃいないが」
乱州が切り出した。
「とりあえずは、その線でいこうぜ」
乱州が上手くとりまとめてくれたことにより、五人の意見は一致し、その方向での考えで行動を開始することにした。
「銀!! 噂の覚醒クンとやりあってきた」
少年の姿を見るなり、滝はいきなりその話題を切り出した。銀と呼ばれた少年は半ば呆れ気味に感想を聞いた。
「どうだった?」
「覚醒するときは五人一斉にしたけどな、その前は大したことなかったな」
「で? 目標は?」
「・・・・・・あ」
滝はそのことについてはすっかり失念していた。闘也達を弄ぶのに夢中で、結局そちらのことを完全に忘れていた。
目の前の銀が明らかに怒りに震えているのが目に見えて分かった。どうにかしてこの状況を打破し、これからの時間をゆったりまったり過ごせるようにしなければ。
「滝・・・・・・」
「あ、いやぁ・・・・・・ちゃんと見つけはしたんだけどぉ・・・・・・その・・・・・・ガードが堅いというか・・・・・・」
「貴様というやつは・・・・・・」
まずい。このままでは確実に雷が落ちる。自分は任務を果たせなかったのだ。銀は強くて魅力的だが、ガミガミと説教垂れるところは自分と合わない。
諦めかけたその時、銀の端末が呼び出し音を鳴らす。助かった。あわよくばこのまま逃げ出せることもできなくもない。
「そうか。分かった」
ゆっくりと後ずさりをしていたところで銀がこちらを睨みつけた。
「狂が発見したようだな・・・・・・」
「え・・・・・・ああ・・・・・・そうなんだぁ・・・・・・」
「滝!!!」
「ひぃぃぃぃっ!!!!」
闘也達は別行動をとり、闘也、秋人と、乱州、的射、由利の二つに分かれて行動していた。
狼次を見つけたのは、乱州達であった。見れば、すでに何者かと接触している。狼次が後ずさりしている。明らかに嫌がっているのが目に見えていた。狼次を追い詰める男の後ろには、ただのお供のように、四、五人のエスパーがいた。狼次が嫌がっているところを見れば、狼次が銀を探しているという面での闘也の予想は外れていると見える。その逆は当たっていると思われるが。
「おい、待てよ!」
「なんだ、お前」
その顔には表情という者が無かった。
「ら、乱州!」
狼次が驚きの顔を見せている。
「命令は達成しなければならない」
「お前、銀滝か!」
「それがどうした」
無表情のままに、男は狼次に近づいていく。乱州は狼次の前に立ち、静止を呼びかけた。
「お前、やめなさいな、こんなのはよ」
「この方をお前呼ばわりするな! この方は銀様の側近たる葉桜狂様だぞ!」
近くにいたエスパーが乱州に向かって言い放ってくる。
「言葉をつつし・・・・・・」
「うるせー!!」
そう言って腕を伸ばして狂の両脇にいたエスパーを殴り飛ばす。しかし、その瞬間に狂に掴まれる。そのまま乱州はどうすることもできずに投げ飛ばされる。腕なり脚なりで反抗できたはずなのに、それができなかった。
「出た! 狂様の投擲!」
残っている二人のエスパーが歓喜の声を上げる。乱州は空中で覚醒する。的射と由利も覚醒する。狂が近くにあった瓦礫に手をつけると、片手でそれを鷲掴み、こちらへと投擲してくる。乱州は腕に装着した盾でそれを防ぐ。狂が連続で瓦礫を投げつけてくる。乱州は飛んできた瓦礫へと腕を伸ばし、日と一つ砕いていく。
「くそっ、きりが無い!」
腕を伸ばして、それを引いてからまた伸ばす間のタイムラグが問題で、じきに限界が来る。だが近づきすぎれば、幾つか通らせてしまう可能性が高くなる。
「乱州! 左!!」
由利の声が聞こえて乱州が振り向いたときには、瓦礫が高速の回転を持ちながらこちらに弧を描いて向かっていた。
「つっ・・・・・・!」
乱州に瓦礫が直撃する。乱州は瓦礫に吹き飛ばされ、地面に着地する。狂がまた瓦礫を投げる。
「巨大長距離双腕打!!!」
乱州は両腕を巨大化させ、右腕を突き伸ばす。その巨大な腕は、瓦礫を一気に破壊する。それと同時に、乱州は左腕を狂へと伸ばす。狂が乱州の拳を受け止め、投げ返そうとしている。乱州は振り投げられぬように耐える。乱州はもう一方の腕も狂へと向ける。
「これで、終わりだっ!!!」
しかし、乱州の腕は、狂を捕らえなかった。
乱州の右腕は、別の者が受け止めていた。しかも片手である。
「静儀、遅いぞ」
「すまない、靴下選ぶのに手間取った」
片手で受け止めている。完全に受け専門と思える能力。
「捕捉か・・・・・・」
「そこっ!!」
乱州がその能力名を呟くと同時に、的射が銃弾を発射する。静儀と呼ばれた少年に当たると思われたが、鮮やかな腕の動きでかわされる。
その時、狂が乱州の右腕を弾く。乱州が再び狂へと腕を持っていくまでに、狂が掴めるだけの瓦礫を掴み、こちらへと投げつけてくる。乱州だけではない。狼次にも迫っていた。
「狼次!」
「拡散雷」
由利がその杖を振って雷を広範囲に拡散させる。全ての瓦礫に雷が命中し、ばらばらと崩れ去る。
「こいつはどうだっ!!!」
乱州は腕剣に変えて再度静儀へと振り下ろす。静儀が白羽取りでその腕剣を受け止める。
「的射!!」
「了解!」
的射がその体を地面に水平にした状態でスナイパーライフルを構える。その銃弾が発射され、静儀の頭部を撃ち抜く。乱州は更に力を入れて、静儀を切断した。
「おっと・・・・・・逃げられたか・・・・・・」
乱州は一つため息をついた。
「とにかく、狼次連れて闘也のとこいくぞ」
今度は狼次はいなくなったりはしていなかった。まああの戦闘の中を潜り抜けられたとは思えないが。
銀はゆっくりと腰を上げた。滝が嬉しそうに顔を上げた。それも無理はない。何故なら、滝は今までずっと説教を聞き続けていたからだ。
「雷狼様、滝様、静柔静儀がやられました」
一人のエスパが状況報告を行った。銀滝の守り手、静儀がやられた。おそらくあのサイコスト達によってだろう。大方の予想はつくし、恐らくは当たっているだろう。
「滝、出るぞ」
「は?」
滝は分けの分からない表情で銀の顔を見つめた。何を始めるつもりなのか全く分からない。
「な、何をするつもりで・・・・・・?」
銀は呆れた様子でため息をつくと、いまだに状況が理解できていない滝に向かって一言、指示を出した。
「銀滝、全軍出撃だ。奴らを一気に叩く!!」
「おお! やってやろう!!」
滝は勢いよく立ち上がり、そのやる気を見せた。