1、咆哮者 壱
※このシリーズは読まずともストーリーとは直接関係いたしませんのでご安心ください。
超能力戦争の中、ライラーダとの一戦までで、闘也達全員が覚醒を果たした。
それぞれがそれぞれに強くなり、全員の覚醒からそう日をおかずに、この話は始まる。
超能力戦争の真っ只中、先日全員が覚醒を果たした闘也達は、エスパーの殲滅の中に一人佇む少年を見つけた。年齢としては小学校高学年あたりの年齢だろう。しかし、その目はどうみてもはぐれた家族を探している、といった目ではなかった。それは確実に憎しみの篭った目。
「君、どうしたの?」
的射が少年に話しかける。少年は、先ほどまでの憎しみの篭った目をどこにも残さずにこちらを振り向いた。探している対象の声ではないと判断してだろうか。
「ちょっと、人を探してる」
先ほどの憎しみの篭る目でなければ、このきょとんとしたような表情を含めて愛くるしいと思うかもしれない。そう思うほどの表情であった。
「どんな人?」
由利も近づいていって少年に聞く。
「銀髪で、目つきの鋭い、お姉ちゃんたちくらいの人」
「ふぅん・・・・・・あ、君、名前は?」
「日中狼次。今十一なんだ」
「そうなんだ。私は遠藤的射」
「白鐘由利よ。よろしくね」
狼次の周りに闘也達も近づき、それぞれが自己紹介する。
「みんな、よろしく!」
狼次はにっこりと笑った。そこに少なからず和気藹々とした空気が生まれた。
しかし、その空気もそう時をおかずに崩れ去ることになる。
「団欒としたところ悪いが・・・・・・」
「!?」
闘也達はその声の方向を見やった。そこには、十五人ほどのエスパーを従えた男がいた。男の左目の下には、斜めに切り傷が入っている。
「なんだ、お前ら・・・・・・」
「俺は滝破羅。銀滝の頭をやらせてもらってる」
「用がないなら、とっとと立ち去ってくれないかな、銀滝とやらの皆さん?」
滝はそれを聞いてふっ、と軽く笑うと、闘也を睨みつけていった。
「俺達は命令で動いてるんでな。その命令を実行するだけだ!」
そう言いながら滝が指示を出すと、後方で今か今かと出番を待っていたエスパーたちが動き出した。
「上等!!」
闘也と乱州が真っ先に飛び出す。闘也は三人の魂を出現させ、自らは剣を握る。進路を塞ぐ二人のエスパーが繰り出す拳を、姿勢を低くしてかわすと、その二人の心臓へと剣をそれぞれ突き刺す。そのまま剣を滑るように抜き取ると、更に前進していく。先行していた魂が二人のエスパーと戦っている上を飛ぶ。そこに一人のエスパーが躍り出てくる。そこにもう一つの魂が飛びついて堕ちる。間髪いれずに眼前に躍り出たエスパーを左手の剣で切り裂くと、両足で着地し、また走り出す。
六人ほどのエスパーが前方を塞ぐ。そのうちの端の二人が、的射の銃弾によって頭を撃ちぬかれて崩れる。
更に接近したところでまたも塞がれた進路を、秋人が吹き飛ばす。前方を塞ぐエスパー三人を余裕の体でかわし、最後の関門のように迫る一人のエスパーへと右手の剣を突き出す。エスパーはその攻撃をかわしてみせる。闘也は振り向きざまに左手の剣を投擲する。完全に意表をつかれたエスパーの体が両断される。
「邪魔すんなよっ!!」
闘也は滝に向かって剣を突き出したが、それを華麗にかわされる。追撃に出ようと剣を振る。しかし、その瞬間に滝は消えた。
「何っ!?」
真横に気配を感じる。滝が姿を現し、手刀の形にして腕を突き出してくる。
「だがっ!」
闘也はその攻撃を容易に回避してみせる。だが、かすりもしなかったはずの場所から血が流れる。
「なんだこれはっ!?」
滝の口元がにやけている。闘也は剣を振ろうとしたが、その瞬間に滝が消える。今度は背後からの気配。しかし間に合わなかった。背後から滝の蹴りが入る。まるでなぎ払うように繰り出されたそれは、そのまま闘也の切り傷になっていた。闘也はそのまま転がりながら倒れる。
「どうした?その程度か?」
滝が不敵に笑う。闘也はゆっくりと立ち上がる。そして、その口を開く。
「瞬間移動か・・・・・・」
「残念。俺の能力の一つは、透明だ」
闘也はどうにか体勢を立て直す。滝がその顔に不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと歩を進める。
「そしてもう一つは・・・・・・」
そう言いながら消えた滝が、すこしばかり距離のある場所で腕を振り下ろした。振り下ろしたのと同様の場所から血が流れる。腕は直接触れてはいない。
「切断」
「闘也ぁ!!」
乱州腕を上空から伸ばしてくる。滝は伸ばされた腕の先の拳をかわすと、その手首部分に重なる場所で腕を振る。乱州がすでに腕を縮めていたため、ダメージは防いだ。
闘也は覚醒し、その体に魂の黄色を纏う。
「ほぉ・・・・・・お前が噂の覚醒者か。つーことは、他の奴らもかな・・・・・・」
滝がそう呟いたときには他の四人も覚醒して今にも攻撃を開始するところであった。
「いいもん見せてもらったし、今回はおいとまさせてもらいますか」
そう言って滝は姿を消し、闘也達に攻撃をしかけてはこなかった。
「げほっ・・・・・・がほっ・・・・・・」
「闘也! 大丈夫か?」
血を吐き出した闘也は覚醒が解け、膝をついた。
「あれっ?」
的射が異変に気づいた。
「狼次君は?」
戦闘が始まる前まではいた狼次はすでにどこかにいなくなってしまった。戦闘に集中しすぎたせいであろう。
「それより・・・・・・滝の言葉、覚えてるか?」
闘也は苦し紛れに全員の意識を集中させた。
「自分達は、命令で動いていると」
「命令されるとしたら・・・・・・ソウリールじゃないのか?」
乱州の予測は最もだ。だが、何か引っかかる感じがあった。
「組織名の銀滝。滝が頭ということは、銀の方にも頭がいるんじゃないか?」
「銀っていう名前のやつとの双頭?」
「そして、ここからは俺の推測に過ぎないが・・・・・・」
そう言って闘也は、自らの推測を話し始めた。