11、対面
地下で一晩過ごした闘也達。今日は何日だったかと、腕にはめていた時計を見た。この時計はカレンダーの役目も果たしている。十二月四日。こんな時期になるまで、戦っていたとは思わなかった。ついこの間までは、秋だったのに、もう冬の風が、頬を凍りつかせて吹きすぎていく時期だった。この寒さのおかげで、五人とも目覚めは早かった。さっそく今日のブリーフィングだ。
今日は、住宅地一帯の捜索だ。エスパーとしては、現地調達の食料も必要になってくるはずだ。そうなれば、目をつけるのは、誰もが逃げていって捨ててしまった住居だ。金のありそうな家や、食料が多そうな住宅に侵入して、食べ物を根こそぎ奪うのが敵の魂胆だろう。一応安全のため、五人で行動する。これが今日の作戦。ちなみに、物音のする家は、中にエスパーがいる可能性があるため、入って様子を見る。
ブリーフィングが終わったあと、それぞれが、今日持っていく食料や水などの確認をした。闘也もそうしていた。なにせ一日戦う。食料が多すぎても、動きが鈍って、戦闘しづらいし、少ないと一日持つか分からない。用はバランスだ。
「よし、そろそろ出撃するぞー」
闘也は他の四人にそう呼びかけた。午前八時。作戦開始。
住宅の中に、エスパーはいた。しかも一軒や二軒じゃない。ほぼ全部だ。中には、そこでそのまま食事についている者もいた。それだけ腹が減ってるということか。闘也たちは、なるべく、住宅に被害が及ばないように、戦闘し、エスパーを殲滅した。だいたい一軒に三、四人のエスパーがいた。それらを全て殲滅した。体力の消耗も抑えながら戦う。それでも、完全に消耗しないわけではない。それなりに疲れた。だが、戦うしかない。他の四人も、疲れているのに戦ってくれている。自分が戦わなければ、だれも戦ってくれない。二時間ほど殲滅作業が続いた。ようやく最後の一軒を調査し終わると、すぐ近くにあった公園で休むことにした。焚き火をしようという乱州の意見に皆が賛成し、落ちてた木切れに、闘也が火をつけ、それを五人で取り囲んだ。全員とも温かな火に喜んでいたが、闘也は嫌な予感がしていた。
なんだろう。妙に胸騒ぎがする。たぶん、エスパーが来た、もしくは近づいているからそんな予感がするのだろうが。もしかしたら、エスパーの幹部でも近づいているのだろうか。もしくは、かなりのエスパーの大群が近づいているのか。どっちにしろ、悪いことには変わりはないし、戦わなければならない。敵なのだから。この戦争で、敵を作らないことはできないだろう。逃げ回る一般人はエスパーが敵になるし、エスパーの軍に入っても、闘也達サイコストが敵になる。戦争とは、そういうものなのだ。小さくなった火に、乱州が枝を足した。
炎天の街中に、廃墟として佇むビルがあった。そのビルの中には、無数の兵士達と、その中で無表情に状況を聞く男がいた。
「やつらの場所は特定できたか?」
「はい。焚き火ののろしが上がっている場所があり、そこから、サイコスト反応も出ています。そこが一番怪しいと思われます」
「ご苦労だった」
一人の男はそう一言言い捨てて立ち上がった。結構スレンダーな体型。毎日ここにいるのも飽きてきた。そろそろやつらの様子を生で見たいな。そう思った。
「では、私はやつらの様子を伺ってくる。くれぐれも、ここを落とされるようなことにはなるなよ」
「イエッサー」
今まさにその強さを養いつつある五人の少年達。男が目指すのは彼らであった。
その男の素顔を知っているのは、五人の中でたった一人だ。しかし、自分の名前くらいは五人とも知っているだろうな。男は誰にも分からぬほどの小さな笑みを不適に浮かべた。彼は、反重力バイクに飛び乗ると、それを発進させた。
男が発進して、一分もしたころには、すでに、全員が、何者かが近づいていることは、予想できた。全員が、それぞれ違う方向に身構える。予感が当たったな。相手が、大群でも、幹部でも、倒さなければいけないのは事実だ。戦うことでしか、もう生きる道はない。
(この感じ、幹部・・・・・・それ以上・・・・・・。これだけの反応するのは・・・・・・)
しばらくすると、一つのそら飛ぶバイクがこちらに向かってきた、全員がそちらに身構えた。そこから、一人の男がバイクから降りた。だが、男は浮いていた。その瞬間。その顔を見た瞬間に、頭に血が上り、怒りが、ほぼ爆発していた者がいた。それは闘也だった。
「ソウリール・・・・・・!!!」
闘也はその名を呟くと、瞬く間に覚醒し、黄色い魂に包まれる。怒りに後押しされるように、地面を蹴り、飛び立つ。
「え!?あれがソウリールなのか?」
「でも、なんで闘也がソウリールの顔を知っているの!?」
「っていうか、その前に!」
「相手は、敵の大将よ!一人じゃとても勝てないわ!」
しかし、止める前にすでに闘也は、ソウリールに突っ込んでいた。覚醒状態のパンチは、並じゃない。大抵のやつは怯む。だが、ソウリールは怯まなかった。いや、パンチを、受け止めている。かなりの力で殴りかかったのにかかわらず、片手で受け止めている。あいている左手で殴りかかっても、やはり受け止められる。そして、払われる。闘也は、ソウリールの周りを、かなりの速さで回った。秋人ほどではないが、速いと思えるほどの速さではあるはずだ。後ろから、ソウリールの真上にジャンプし、右手と左手を絡ませて、急降下する。しかし、ソウリールは後ろにかわし、がら空きになった闘也の腹にアッパーを叩き込んだ。闘也は、うぅっ、とくぐもった声を出して、ゆっくりと地上に落ちていく。秋人が受け止め、元の位置に戻る。闘也を下ろすと、闘也は、秋人の肩に右手を置いたまま喋った。
「なぜ一人で俺達の様子を見に来たんだよ。父さん」
「えっ、とっ・・・・・・え!?」
秋人は状況が半分理解できず、言葉につっかえている。
「あいつ・・・・・・闘也の親父さんかよ!」
乱州は驚きを隠せないようだ。
「そんな・・・・・・じゃあ、ソウリールとは・・・・・・」
的射は、両手で口を覆っている。乱州以上に驚いているようだ。
「闘也とソウリールは、親子!?」
由利も半ば唖然している。ともかく全員、闘也とソウリールが親子だということに驚いているらしい。
だが、闘也は誰の驚きも耳に入らなかった。今はただ、目の前にいる父に負けたことが悔しかった。嫌だ。このままで終わりたくない。このまま逃がしたくない。今ここで決着をつけて、この戦争も、あいつの生涯も終わらせて、平穏の日々に戻したい。もう、こんな男になんか関わりたくない。そして、こいつの言いなりになるような世界にはいたくない。サイコストの絶滅。地上に立つエスパー。その頂点に立つソウリール。そんな世界、俺は認めない。この命の代わりにあいつも命を落とすなら、安いものだ。一人の人間が死ぬだけで、この意味のない戦いを終わらせることができるのなら。だが、今の自分には、そんな力も権力もない。ただ、仲間の肩に掴まりながら、悪あがきでもするかのように、ただ見つめている。いや、睨んでいる。
「闘也!懐かしき我が息子よ。私のすばらしい計画、エスパー計画に協力しないからそうなるんだ」
「うるせぇよ! なにがすばらしい計画だ! なにが我が息子だ! 一人で勝手に世界を治めようとしているやつなんかに、世界の統治者は務まらねぇよ! そして、俺はもうあんたのことを尊敬した父親とは思ってない! この・・・・・・バカ野郎!」
自分でも制御できないほどに、怒鳴っているのは分かっていた。自分でもここまで怒鳴ったと感じたことは一度もなかった。一度でいいから自分の父親に言ってみたかった。バカ野郎と。あんなやつは、俺が殺す。例え重罪になったとしても、こいつは俺が・・・・・・
「言いたいことはすんだか、闘也。言っておくが、私に素手で勝てると思うな。その程度の拳で私に勝てるわけがない。断言する。実際、今おまえは、私に、一分足らずで、やられた。私がおまえを殺す気でやったら、今のお前と私なら、十秒足らずで決着がつく。自分が未熟だということを、ちゃんと肝に銘じておけ」
そういうと、ソウリールは、またバイクに飛び乗り、エンジンを発進させた。
「くそ・・・・・・待て! 待てよ! ・・・・・・がはっ・・・・・・」
追いかけようと秋人を振りほどいて歩こうとした闘也がひざをついた。
「闘也!」
「大丈夫か!?」
絶望的だった。確かに、今本気でぶつかりあえば、少なくとも、負けるのは闘也だ。もし、全員でソウリールにぶつかっていっても、闘也は戦力になりにくい。先ほど殴られた腹が、鈍い痛みとなって伝わってきた。