1、超能力少年
この小説には、戦闘等の際の出血など、グロテスクな表現が含まれています。
また、この小説はフィクションであり、登場する人物、地名、設定等は、
同一名であっても、一切関係はありませんのでご了承ください。
六時間目の英語が終わる。闘也は、ずっと動かしていたシャーペンを置いた。黒板に書かれたことを書き続けていたのだ。夏ももうすぐ終わるというのに、暑い日が続いていた。闘也は、特に部活には所属していないため、すぐ帰ることができたし、居残る理由もなかった。家路に着こうと歩いていた廊下で、通路をふさがれる。いじめを頻発している三人組。教師さえ手を焼いている、黒い三彗星だ。リーダーの黒田が話し始める。
「魂波。今日の午後9時、学校裏の倉庫に来い」
闘也は、黒田を睨む。隣にいた黒岸が、はっ。と笑った。
「何も言わない=来るってことだろ?」
黒谷が闘也の肩をぽん。と叩く。
「じゃ、待ってるぜ。魂波闘也君」
三人は笑いながら去っていった。
闘也は前から黒田たちが気に入らなかった。いじめと言っても、やることは小さい。鉛筆や消しゴム隠し、筆箱キャッチボール、場所や物の三人占め。小さいことだが、しつこい。闘也はしつこいのは嫌いだ。闘也は思った。
(今日あたり、やるか・・)
闘也は、誰もいなくなった廊下を歩き始めた。
闘也は、超能力者だ。そして、そのような超能力者の彼らは、自らをサイコキネシスト、略してサイコストと呼んでいる。そして、殆どの一般人は、彼らの存在を知らない。なぜなら、サイコストは、自ら名乗ったりはしないからだ。闘也は、もし名乗ったとしても、自らの持つ記憶の能力で、聞いた者の記憶を消すこともできる。
闘也は、今夜、超能力を使う気だった。そして、それを見た黒田たちの、超能力の記憶をきれいさっぱり消し取る。それが、闘也が、もし超能力を使った時に、取る作戦だった。
約束の午後九時ちょうどに闘也は倉庫についた。倉庫といっても、殺風景で、物も殆どなく、全くといってもいいほど使われていない。三人がかりで、拷問状態にするには、うってつけの場所と時間だ。正面から入ったときは、黒田一人しかいない。多分、黒谷が、後ろの巨大なドアを閉め、力自慢の黒岸が襲い掛かってくると予想した。予想どおりに、ドアを閉められ、黒岸が殴りかかってきた。闘也はそれをなんなくかわす。久しぶりに超能力が使えることに、心馳せていた。三人が闘也の前にずらりと並んだ。
闘也の心臓が、魂が、ドクンと音をたてた。
黒田が正面から向かってくる。闘也は軽くかわす。そこに黒谷がパンチを出した。しかし、止められた。だが、止めたのは闘也でも、他の奴でもない。わずかに白くぼやけている。
「誰だ。お前は!」
「俺? 俺は魂波闘也の魂だ」
手を振り払い、三人の後ろにすかさず回り込んだ。そして、魂は人差し指を立て、挑発する。黒田と黒岸は、そちらに向かうが、黒谷は魂が出ているなら本体は蛻の殻と見た。黒谷は、本体を襲う。しかし、そうではない。闘也は攻撃をかわし、足を払った。黒谷は転ぶ。闘也は追撃しなかった。隙をつかれ、腕を押さえられる。
「なにも喋らないから、助けを呼べないだろう」
しかし、見事に振り払い、またしても倒れこむ。
「べらべら喋りながらの喧嘩は趣味じゃない」
闘也は初めて口を開いた。
「てめぇこの野郎!」
性懲りもなく殴りかかってくる。その腕を掴み、振り回し、投げる。それに気づいた闘也の魂は残りの二人を着陸地点に倒して逃げる。3人は見事に激突した。闘也と魂は、隣り合わせで、手をかざす。声が重なる。
「ファイアエンド」
火の玉が彼らを直撃する。熱いが、火は出ない。人間が熱いと感じる、摂氏五十度ほどの火球だ。
魂が闘也と重なり、一つになる。そして、腕を上げ、言った。
「記憶消去」
そして、指を鳴らした。その瞬間、彼らの今の喧嘩の記憶が消された。
「記憶加入」
そして、今度は彼らの日常の記憶が入れられる。そのまま闘也は帰った。
その3日後、なぜか学級新聞には闘也が本当は強いのではないかという記事が載っていた。黒い三彗星に喧嘩を売られたのに、無傷で登校した。という内容で、一面の殆どを取っていた。闘也は、関係ない。という態度で席に着いた。それとは裏腹に学級新聞の周りには人だかりができていた。休み時間ごとに、闘也の周りには人が集まったが、闘也は知らないふりをして1日を過ごした。次の日も人だかりは絶えなかったが、闘也はそのこと以外で胸騒ぎがした。
サイコストがこの学校に来る・・・・・・。感覚的なものである。そのサイコストが味方となるのか、それとも敵になるのか、それは闘也すらも分からなかった。