好きになる可能性はゼロじゃない
ミュージアムグッズの企画を担当する俺たちは、社内プレゼンを行う事になった。
会議室でプロジェクターを用い、部長や課長などを前に俺はプレゼンを行っていた。要所、要所で座っている仁さんの方を見ると、満足気に頷いてくれた。俺は安心して次々と提案していった。
一通りプレゼンが終わり、質問に答えたり、部長の要求を聞いたりして、お開きになった時の事だ。片づけようとした俺はプロジェクターにぶつかり、なんとプロジェクターが台から落ちてガシャンと大きな音を立てた。
「あ!すみません!」
と言って機材の方に手を伸ばそうとしたら、なぜか持っていたレーザーポインターがボキリと折れた。
「何やってるんだお前は!」
部長の大きな声が飛んできた。
「どんだけ力が有り余ってるんだ。彼女はいないのか?」
部長がそう言うと、周りにいた人たちが笑った。
「部長、それはセクハラですよ。」
仁さんが言った。その場がシーンとなる。課長がオロオロと、
「金子、お前何を……」
と言いかけたが、それに被せるようにして、
「セクハラ?こいつは男だから別にいいだろう。」
と、部長が俺の方を指さして言った。しかし仁さんは引き下がらない。
「男女は関係ありません。成海が部長を好きになる可能性はゼロではありませんから。」
仁さんがそう言うと、部長は嫌そうな顔をして俺の方を見た。すると仁さんは、
「僕が、部長を好きになる可能性もゼロではありませんよ。」
と付け加えた。部長は仁さんの方を見た。仁さんはじっと部長を見ている。部長は口をパクパクさせた。心なしか顔が赤い。
「成海、庶務課に連絡!」
急に仁さんは俺に言った。部長に視線を合わせたままで。
「は、はい!」
俺は慌てて返事をした。すると仁さんはこちらを振り返り、
「そのポインタを持って説明しにいけ。」
と、優しく言った。
「さ、みんな片づけ、片づけ。」
そして、第二係の面々にそう言った。部長は、課長や他のお偉方になだめられながら、その部屋を出ようとしていた。俺はそれを待たず、先にぴゅーっと部屋を出て庶務課へと向かった。
庶務課から戻ると、第二係のみんなはもう各々の仕事に戻っていた。俺は仁さんのデスクの前に行った。
「あの、先ほどはありがとうございました。」
俺が頭を下げると、仁さんは顔を上げ、
「みんなの為だよ。ああいうのはその場で指摘しないとね。」
と言ってウインクをした。なんて様になるのだろう。
それにしても、部長を好きになる可能性はゼロじゃない、か。まあ、仁さんがあのデブでハゲのおっさん(おっと失礼!)を好きになるとは思えないが、ダンディで優しくて仕事の出来る上司だったら、あるいはそういう事もあるのだろうか。どうやったら俺の事を好きになってくれるのだろう。
「どうした成海、俺の顔をじっと見つめて。そんなに俺の顔がカッコいいか?」
仁さんにそう言われて、俺が仁さんの顔を見つめてしまっていた事に気づいた。思わず赤面。何を言ったら……。
「仁さん、それもセクハラですよ。」
女子社員の吉沢さんから、そんな声が上がった。
「えっ、そうなの?成海、ごめん。今夜奢るからゆるして。」
仁さんが両手を合わせて言った。また一緒に飲みに行ける!




