仁の悪い癖
付き合うってどうするのだろう。何をするのだろう。連休の間中、悶々と考えた。あのかっこよくて美しくて可愛らしい仁さんが、俺のこ、恋人になるなんて……。控えめに言って奇跡だ。
とりあえずプライベートな連絡先を聞かなくては。会社から支給されているスマホでもメールや電話は出来るが、それをプライベートな連絡(こ、恋人との会話)に使うわけにはいくまい。
翌営業日の火曜日、どんな顔で仁さんに会えばいいのかとソワソワしながら出社した。仁さんは相変わらず美しく、明るく元気だったが、いつもと同じだった。
俺の方に特に目線を送るでもなく、至って普段通り。まあ、仕事中だから当たり前かもしれないが……。とにかく昼休みにはちゃんと話したい。
午前の仕事が終わり、昼のチャイムが鳴るや否や、俺は仁さんのデスクへと向かった。
「仁さん、一緒にご飯、いいですか?」
すると仁さんは面食らったような顔をして、
「お、おう。いいぞ。」
と、ちょっと体を引き気味に答えた。俺の鼻息が荒かったからかもしれない。
社食でプライベートな話はできないし、どこかの食堂だとしても、知人に話を聞かれてしまうかもしれない。俺たちはキッチンカーに並んで弁当を買い、近くの公園のベンチへと向かった。ここならば、真後ろに会社の人がいる可能性はない。
「いい天気だな。暖かい。」
仁さんがそう言ってベンチに座った。
「そうですね。」
俺も座る。弁当を開けながら、
「それで?何か話があるのか?」
と、仁さんが言う。話って……付き合っていたら一緒にお昼を食べてもいいのでは。
「えっと、その……」
とはいえ、そうはっきりとは言えない俺。
「そうだ、あの、プライベートな連絡先、教えてもらえませんか?」
俺がそう言うと、
「何で?」
意外な反応が返って来た。快く、当然のように教えてくれるものとばかり思っていたのに。
「ダメ、ですか?」
俺が急に自信を無くしてそう言うと、
「いや、いいよ。また飲みに行く時に必要だしな。」
そう言って、仁さんがスマホを出した。俺も出してLINEの交換をした。
そして、黙々と弁当を食べる二人。どうもおかしい。連絡先の交換に、また飲みに行く時に必要だなどと名目が必要か?付き合っているならば当然ではないのか?つまり……俺たちは付き合ってはいない?!
「あの、仁さん、金曜日の事、覚えてます?」
俺は恐る恐る聞いてみた。
「ん?金曜日?ああ、もちろん覚えてるよ。お前と一緒に飲みに行って、カラオケに行ったよな。」
よかった、と思ったのも束の間。
「でも、カラオケに行って歌い始めたところまでは覚えてるんだけど、どうやって帰ったかは覚えてないんだよなあ。俺、飲み過ぎてたか?」
ガーン。ということは、別れ際のあのシーンも当然覚えていないという事か。
「ん?どうした?俺、何かしたか?」
仁さんが真顔になって聞く。ちょっと青くなっているとも言える。
「あ、いえいえ。だいぶ酔ってましたよね。でも、ちゃんと独りで帰ると言って、地下鉄の階段を下りて行きましたよ。俺が知っているのはそこまでですが。」
笑顔を作って言った。精一杯何でもない様子を装って。
「そっか。良かった。迷惑かけてたらごめん。」
「いえいえ。」
そこで話は終わった。
後日、休憩所で仁さんに会った時にふと聞いてみた。
「仁さん、酒を飲んだ後に恋愛トラブルになった事、ありません?」
すると仁さんは、コーヒーを口に運ぶ手を止め、こちらを向いて言った。
「ある。付き合おうって言われたって女性がいた。」
やっぱり。
「三人くらい、いたかな。」
ちょっと考えた仁さんは、そう言ってコーヒーをすすった。俺はショックで、その後の会話が全く頭に入って来なかった。




