連れておいで
「仁さん、最近週末に出かける事が多いわよね。それってつまり……彼女が出来たって事かしら?」
家に帰った途端、玄関先で待ち構えていたかのような母に言われた。
「え、いや違うよ。会社の部下だよ。気が合うやつがいて。」
ちょっと、まごついてしまったかもしれない。何と言えばいいのか。彼女ではないが、ただの部下ではないという成海の存在を。
「部下?女の子?」
母はまだ目をキラキラさせて聞いてくる。
「男だよ。」
俺は逃げるように水道場へ行って、手を洗った。それでも母はまだ追いかけてくる。
「なんだ、男の子か。あ、もしかしてあの子?前に言ってたじゃない、ほら。」
ドキッとした。俺、成海の事を話した事があったか?
「すごく仕事が出来る部下が入ったって。」
そんな昔の事を!
「よく覚えてるね。」
「その子なのね?ねえ、今度うちに連れてきなさいよ。凛がいる時がいいわぁ。」
「は?」
何を言ってるのだ?
後日、母から予定を聞かれた。
「今週の土曜日、出かける?」
「うん。」
成海と約束をしていた。
「どこ行くの?」
「えっと、都内の美術館。」
隠す事もあるまい。
「そう。それじゃあ、帰りに連れてきなさい。」
「え、成海を?」
「成海さんて言うの?その、部下の男の子。」
「うん。」
「じゃあ、成海さんを連れてきて、うちで夕飯食べて行ってもらいましょうよ。お母さん、ご馳走作るから。」
「あー、成海に聞いてみるよ。」
「絶対よー。」
まだ諦めてなかったのか。
成海には予め言っておいた方がいいだろうか。いや、母には断られたと言って、成海には言わずにおこうか。しかし、後でバッタリ会ってしまうかもしれないのに、成海の印象を悪くしては良くないか。別に俺たちが結婚するわけではないが、やはりいつも一緒にいれば会う可能性も高い。
『成海、明日の美術館の後、うちで夕飯食べるってのはどうだ?母が家に成海を連れてこいって言ってるんだけど』
メッセージを送ると、しばらくして返って来た。
『喜んで!あ、でもちょっと緊張するっす(笑)』
そして、また少ししてから、
『ご両親にご挨拶、なんか照れますね。俺、がんばります!』
とも。照れる?ああ、恋人の両親に挨拶って事は、結婚を前提に、みたいな?でも、俺たちは結婚なんてできないし、考える必要もないだろうに。いや、でももしかしたらもうすぐ同性婚も認められるかもしれない。そうなったらあるいは、俺と成海が結婚するという事になるのか?え?そうなのか?
動揺してか、しばらく自分の部屋の中を歩き回った。結婚、両親に挨拶、同性婚、という言葉がぐるぐると頭の中を回り続けた。だが、結局結論は出ないし、とりあえず遠い話だ。俺たちはまだ、やっと軽いキスを交わしただけなのだ。
俺はいったんベッドに横になり、やっぱり起き上がって明日の服を吟味してから寝た。デートだし、少しはオシャレをするかな。




