大好きな貴方のために歌ってあげる
あたしは今日も貴方のために歌う。
「歌っておくれ、私の可愛いこ」
貴方があたしにそう望むから。
ちょっと疲れた顔の貴方が部屋の扉を開けて、そっとあたしの喉を指で擽る。
「最近は忙しくてね。なにせ祝祭に併せて国の慶事が発表されただろう?」
「そうなの?あたしは貴方の今の言葉で知ったわ」
首を傾げたあたしに貴方は苦笑して、それでも教えてくれる。
「王女殿下が誕生なさったんだ。そりゃあ私の小さな商会だって書き入れ時というものさ」
「そうだったのね。あまり忙しいと貴方が心配よ。ご飯はきちんと食べてね」
「けれどこの商機に乗れれば、もう少し大きな店に出来るかもしれないからね」
窓際のいつもの椅子に座った貴方。あたしは貴方の膝の上。
「疲れているようだから、優しく歌うわ」
「あぁ、私の可愛いこ。君の声はいつでも素敵だね」
あたしが一頻り歌い終えると、貴方は両手で抱きしめて頬擦りしながらうっとりするの。
「ありがとう。これでまだ私は頑張れるよ」
「どういたしまして。貴方の為ならいくらでも歌えるわ」
「名残惜しいけれど、仕事に戻らなくちゃ。良いこでいてね」
「あたし、いつでも良いこよ。失礼ね」
貴方の髪を一房、つん、と引っ張る。
「ごめんね。今度、君の好きな果物を用意するよ」
「本当!?嬉しいわ、きっとよ」
「喜んでくれたようで良かった。じゃあ私は職場へ戻るよ」
あたしは部屋に戻りながら、少し元気になった貴方を見上げる。
「またね。私の可愛いこ」
「またね。お仕事がんばって」
部屋の扉を閉めて、貴方は去って行った。
この暮らしはご飯も美味しくて、大好きな貴方と居られてとても良いけれど、お部屋がもう少しだけ広いと嬉しいわ。
お店を大きく出来るかもって言っていたから、そうしたらあたしのお部屋も広くしてくれるかしら。そうならうんと羽を伸ばすの。
やっぱり止まり木の上では、お部屋の壁に時々ぶつかってしまうもの。
ぴちちち……ぴるるる……
早く貴方が会いに来てくれないかしら。さっき別れたばかりだけれど、ちょっぴり寂しくなってしまったわ。
ぴちちち……ぴるるる……
ひとりぽっちで待っているのよ。約束の果物はあたしを寂しくさせた分、沢山くれなくちゃあ嫌よ。
ぴちちち……
ぴちちち……
会いに行けないのは、良いこって褒めて欲しくて我慢しているのよ。
ぴちちち……
早く会いたいな。
仕事の隙間時間に癒やされる、やり手商会長(三十代独身)の部下には見せたくない一面。デレデレ。




