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大好きな貴方のために歌ってあげる

掲載日:2026/02/05

 あたしは今日も貴方のために歌う。


「歌っておくれ、私の可愛いこ」


 貴方があたしにそう望むから。

 ちょっと疲れた顔の貴方が部屋の扉を開けて、そっとあたしの喉を指で擽る。


「最近は忙しくてね。なにせ祝祭に併せて国の慶事が発表されただろう?」

「そうなの?あたしは貴方の今の言葉で知ったわ」


 首を傾げたあたしに貴方は苦笑して、それでも教えてくれる。


「王女殿下が誕生なさったんだ。そりゃあ私の小さな商会だって書き入れ時というものさ」

「そうだったのね。あまり忙しいと貴方が心配よ。ご飯はきちんと食べてね」

「けれどこの商機に乗れれば、もう少し大きな店に出来るかもしれないからね」


 窓際のいつもの椅子に座った貴方。あたしは貴方の膝の上。


「疲れているようだから、優しく歌うわ」

「あぁ、私の可愛いこ。君の声はいつでも素敵だね」


 あたしが一頻り歌い終えると、貴方は両手で抱きしめて頬擦りしながらうっとりするの。


「ありがとう。これでまだ私は頑張れるよ」

「どういたしまして。貴方の為ならいくらでも歌えるわ」

「名残惜しいけれど、仕事に戻らなくちゃ。良いこでいてね」

「あたし、いつでも良いこよ。失礼ね」


 貴方の髪を一房、つん、と引っ張る。


「ごめんね。今度、君の好きな果物を用意するよ」

「本当!?嬉しいわ、きっとよ」

「喜んでくれたようで良かった。じゃあ私は職場へ戻るよ」


 あたしは部屋に戻りながら、少し元気になった貴方を見上げる。


「またね。私の可愛いこ」

「またね。お仕事がんばって」


 部屋の扉を閉めて、貴方は去って行った。

 この暮らしはご飯も美味しくて、大好きな貴方と居られてとても良いけれど、お部屋がもう少しだけ広いと嬉しいわ。

 お店を大きく出来るかもって言っていたから、そうしたらあたしのお部屋も広くしてくれるかしら。そうならうんと羽を伸ばすの。


 やっぱり止まり木の上では、お部屋の壁に時々ぶつかってしまうもの。

 

 ぴちちち……ぴるるる……

 早く貴方が会いに来てくれないかしら。さっき別れたばかりだけれど、ちょっぴり寂しくなってしまったわ。


 ぴちちち……ぴるるる……

 ひとりぽっちで待っているのよ。約束の果物はあたしを寂しくさせた分、沢山くれなくちゃあ嫌よ。


 ぴちちち……

 ぴちちち……


 会いに行けないのは、良いこって褒めて欲しくて我慢しているのよ。


 ぴちちち……

 

 早く会いたいな。


 

仕事の隙間時間に癒やされる、やり手商会長(三十代独身)の部下には見せたくない一面。デレデレ。

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