準備
離れのカギを使い、中に入る。
錬金釜、魔炉、各種のガラス瓶、調理道具、魔導板、それに、異空間収納箱、簡易鑑定メガネ。
いい感じのレイアウトで、並んだそれらを見るとやはり心が踊る。
灯羅兄さんからもらった、マジックバッグの中身もチェックする。
拳を守るグローブに、剣が3種類、斧に槍、小盾、杖も3種類、それに、鎧2着。
切り傷用の軟膏と、ポーションいくつか。
19時には、家族で食事をし、妹の灯花の相手をする。
「アカル兄、探索科に行くの?」
「ああ。」
「私も研究科やめて探索科に行こうかな…。」
「灯花は、俺より強いもんな。無理はしないで、慎重にな。…。」
俺は、父と同じことを言ってることに気づき、少しおかしく思った。
探索科への入学は次の日、すぐに決まった。
30日後の4月5日が入学式となる。
家庭講師の授業しか受けてこなかった俺は、少しの不安と少しのわくわくを感じつつ、準備を進める。
家庭講師の座間さんは、俺に最後の指導をしてくれた。
「魔法も技もスキルもないアカルさんは、モンスターとの戦いは厳しいものとなるでしょう。無理はしないように。」
「座間さん。俺は、魔法とか使えるようになりますか?」
「魔法を使うには、魔力、技を使うには、体力、スキルを使うには、精神力が必要です。それぞれの力のエネルギーを使用して、行使に至ります。呼吸だって、体力を消費している。つまり、呼吸も技と考えることもできる。だったら、他の技を使うことだって理論上は出来るはず。そう思いませんか?」
「…先生。うまくはぐらかしてませんか?」
「さあ、どうでしょう。でも、そうやって考えれば、気も楽だと思いますよ。案外、覚える時は、すぐに覚えられるかもしれません。そんなものなんです。」
「俺、15年覚えられていないんですけど…。」
「悲観的にならないでください。あなたの努力はあなたを裏切らないはずです。だから、大丈夫です。」
「はあ…。わかりました。前向きにってことですよね。」
「概ね、その通りです。」
座間は、アカルのこの状況について、アカルの父母とも相談している。
アカルが一向に魔法も技もスキルも覚えられないこと。
あれだけ、剣に打ち込んでも剣術スキルが身につかないこと、基本のスラッシュの技さえ覚えられないこと、クリエイトウォーターや、着火の魔法すらできないこと。
努力はできるが、不器用で、効率も悪く、記憶力も弱いこと。
座間は、彼を落ちこぼれとは見ていない。
普通だ。
普通の15才の少年だ。
生まれが良家でなければ、認められていた。
そんな少し残念な少年。
それが、四条アカルなのだろう。
「彼自身に向上心があるのが、可哀想なところです。」
座間は最後の指導を終えて、自身ではどうにも出来なかったアカルに申し訳なさを感じながら、用意していたアカルへの入学祝いをアカルの父へ渡しに行った。




