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筋肉質な人間湯たんぽを召喚した魔術師の話  作者: 陽花紫


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ゴウとユウの話(完)

 陽の光が塔の周囲を照らし、花々の香りが風に乗って部屋の中まで流れ込む。

 ゴウは今朝も、力強く庭の花壇を耕していた。


 その姿は、以前と変わらず。いや、これまで以上に輝きを増していた。

 思わずしなやかな筋肉の動きに見惚れていると、爽やかな声がかかる。


「ユウ!こっち、手伝ってくれないか?」

「ゴウの方が、体力があるだろう。私では役不足だ」

「そうかー?二人でやる方が、楽しいぞ?」


 そのような笑みに抗うことができず、私は仕方がなく、渋々手袋をして外に出た。

 ゴウと共に汗を流す時間は、もはや冬を越えて初めて感じる穏やかな日常の一部となっていた。


「そうそう、上手いな!」


 土を掻き分け、石を避ける。

 それは以前の私からは、考えられないような姿でもあった。

 しかしゴウの姿を間近で目にすることができるのであれば、このような苦労も厭わない。


 作業の合間、ゴウがふと立ち止まり、顔を私に向けて言った。


「なあ、……。ちょっと、話があるんだ」

 私は手を止めて、土がついた顔を見つめ返した。

「なんだ?」

 開く気配のない口を不思議に思えば、ゴウは少し照れたように笑い、次第に頬を赤らめていく。


「……急がないって言ったけどさ、俺、何回でも言いたいんだ」

「何の話だ?」

「好きだ」


 その言葉は、まるで春の光の中に落ちる小さな花びらであるかのように、柔らかく、そして確かに私の胸を掠めていく。


「もちろん!返事は、ゆっくりでいいんだ。でもさ、毎日思うんだ。俺はユウのことが好きなんだって……」


 ゴウはそう言って、静かに顔を近づけた。

 その瞳が、太陽よりも強い輝きを放っていた。

思わず、目が眩みそうになるほどに。


「……ごめん、気にしないで」


 しかし次の瞬間、その顔は遠ざかってしまう。

 ゴウのその優しさに、思わず胸が締めつけられる。

 戸惑いながらも、私はただ作業をする手を動かすことしかできなかった。


 魔力を失ったことで、この感情はより生々しく、日々の心の揺れは鋭く感じられていた。


「私のほうこそ……、すまない。どう返事をすればいいのか、考えているところであって……」

 そう小さく呟くと、ゴウは肩をすくめて笑っていた。

「いいんだよ。急がなくていいって、言っただろう?」

「……ああ」


 その日の夜、ゴウは私の肩に頭を乗せて穏やかな寝息をたてていた。

 月灯りの下、彼の寝顔を見つめながら、胸の奥がじんわりと熱くなる。

 それは魔力によるものなどではなく、確かに、私の心から生み出された熱でもあったのだ。



 翌日、無理をして庭仕事を続けたせいか、私は急に体調を崩してしまう。

 熱と倦怠感で動けなくなった私を目にして、ゴウはすぐさま駆け寄り、額に手を当てて顔に眉を寄せていた。

「大丈夫か?」

「……体が、熱い」

「ごめん。俺のせいで、長い時間外にいたせいだ」

「いや、君のせいではない」


 私が弱っている間も、彼の存在はまるで春の日差しのように優しく、この身に静かに寄り添った。


「人間の体とは、厄介なものだな」


 つくづく、そう思う。

 魔力があった頃は、病にかかるようなことなどなかった。

 稀に怪我をするようなことはあれど、その都度魔法で治癒していた。


 しかし魔力がない今となっては、その治癒の過程でさえももどかしいものであったのだ。


「それが人間だよ、ユウ。……ゆっくり休んで、それからまた元気になればいい」


 その言葉に、また、胸の奥が熱を持つ。

 弱っている私を責めるのではなく、ただ気遣い、そっと寄り添う。


「ほら、寝よう。ぐっすり寝れば体力も回復するから」


 その体温と鼓動が、魔力ではなく確かな現実として私の心を満たしていく。

 弱っているからこそ、彼の温もりが、私にとって何より大切で甘いものへと変わっていく。



 翌日、少しずつ私の体調は戻り始めていた。

 しかし心の奥では、戸惑いや不安と共に、ゴウへの愛が日々増していくのを感じていた。


 彼が笑えば思わず笑みがこぼれ、その手が触れれば胸が高鳴る。

 以前にも増して、感情がより鮮明に、強く、私のこの身を支配していく。


「大丈夫か?ユウ、無理はするなよ?」

「わかっている」


 手ずから粥を口にして、その味に胸を落ち着かせる。

 料理もいつの間に上達したのか、無意識のうちに私はその全てを平らげていた。


「よし、全部食べたな。えらいぞ!」


 その手が、髪を撫でつける。

 思わずこの身を委ねれば、ゴウは穏やかな笑みを浮かべていく。


「眠い?寝ててもいいぞ」

「ああ、そうしよう……」


 再び目が覚めたとき、体調はすっかり元へと戻っていた。

しかし心は、以前よりもずっと温かかであった。


***


 あれから数日の時が流れ、その日私たちは、庭で花の手入れを行っていた。


「あ、あそこ!花が咲いたぞ!」

「赤か。……春らしい色だな」

「俺たちの春、ってかんじだな」


 その言葉に、思わず頬が熱くなる。

 ゴウはにこやかに笑いながら、私の手をそっと握った。


 ――今しか、ない。


 そう思った。

 これまでに、何度も胸の内で復唱した言葉を呼び起こす。

 日に日に募るこの想いを打ち明けるのは、今しかないのだと。


 意を決して、私はその手を強く握り返していた。


「ゴウ。……私も、お前と同じ気持ちだ」

「えっ?」

「私も、お前のことを好ましく思っている。……その、愛している……」


 わずかに掠れてしまったが、それでもこの告白はゴウの耳に届いたらしい。


「俺も……!愛してるよ、ユウ」


 すかざずその顔が近づき、ゴウの形のいい唇が私のものへと重なった。


 思わず目を見開き、私は硬直してしまう。

 これまでこのような行為をしたことが、なかったからだ。


 そのような私の顔を見て、ゴウは声を上げて笑っていた。


「こういう時は、目を閉じるんだよ。……もう一回、いいか?」


 二度目にそれが行われた時、私は目を閉じることができていただろうか。


「ダメだ、嬉しい!俺、嬉しすぎてどうにかなりそう!」

「……それは、私もだ」

「これからも、ずっと一緒にいような」


***


 翌日からの日々も、私たちの時間は甘く、穏やかに流れていく。

 幾度季節が巡っても、この春は、決して消えることはないだろう。

 この身も、心も、もう寒くはない。

 ゴウが隣に在り続ける限り、私はこの温もりから逃れられないでいるのだから。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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