第8話 封印室リース
重厚な扉が、鈍い音を立てて開いた。
その先は静寂――まるで時間さえ凍りついたかのようだった。
冷気が流れ込み、カナの髪がふわりと揺れる。
青白い光が床の紋様を照らし、その中央には透明なカプセル。
中に眠るのは――自分と同じ顔をした少女、リース。
セフィが低く呟いた。
「……コード:リース。プラス値の完全体。
君と同じ遺伝測定子から造られた、もう一つの“基準”だ。」
カナは静かに歩み寄る。
その瞳には恐れではなく、深い悲しみが宿っていた。
「……これが、私の“もう一つの結果”なんだね。」
カプセルの周囲に、無数の数式とシンボルが浮かび上がる。
セフィが警告を発する。
「ダメだカナ! 封印解除の反応が――!」
だが、カナは手を伸ばした。
指先がカプセルに触れた瞬間、光が弾け、空間が反転する。
──そして、聞こえた。
> “カナ……来てくれたんだね。”
リースの声。
彼女はゆっくりと目を開けた。
同じ瞳、同じ顔。けれど、その微笑みはどこか儚かった。
「どうして、私を……?」カナが問う。
リースは答えるように、胸の前で手を組んだ。
「私はね、カナ。『完全な数値』として創られたの。
王家協会は、あなたの“マイナス”を消すために私を生んだ。
けど……あなたの声が、ずっと聞こえてた。」
リースの瞳が揺れる。
「あなたは私の“欠けた部分”。
でも、本当は……あなたこそが“完成”だったの。」
カナは一歩、彼女に近づいた。
二人の間で、光と影がゆっくりと混ざり合う。
セフィが小さくつぶやいた。
「共鳴が始まる……二つの数値が、一つになろうとしてる。」
リースの手が、カナの手に重なった。
温もりが伝わる。
そして、世界の“測定線”がひび割れ始めた。
> “もう誰も、数値で縛らない世界を――作って。”
その言葉とともに、カプセルが崩れ、
光が二人を包み込んだ。
眩い閃光の中で、セフィだけがかすかに声を上げる。
「カナ! リース! まだ早い、融合すれば――!」
だがその叫びは、光の奔流に呑まれ、消えた。
やがて、静寂。
光が収まった後、そこにはひとりの少女が立っていた。
その髪は銀と黒の混じる色。
そして、その瞳には“∞(無限)”の紋章が輝いていた。
セフィが呟く。
「……君は……どっちなんだい?」
少女はゆっくりと微笑む。
「私は、カナであり――リース。
“測れない者”の始まり。」
そして、彼女は一歩、世界の光の中へと踏み出した。




