第7話 数値の墓所
王都の地下深く――誰も立ち入ることを許されない層。
そこは“数値の墓所”と呼ばれる場所。
過去に失敗した測定実験の記録と、“封印された数値たち”が眠る地。
カナとセフィは、静まり返った通路を進んでいた。
足音が響くたび、古い壁面に刻まれた無数の数式が淡く光り、彼女らを導く。
「……ここ、空気が違うね。」
カナが呟く。
セフィは小さく頷くように光を震わせた。
「この層は、“測定以前”の世界に近い。数値がまだ“形”を持つ前の記録――。
カナ、君のマイナス値の源も、きっとここにある。」
その時、低い唸り声が響いた。
闇の奥から、無数の黒い影が浮かび上がる。
人の形をしていながら、顔も声もなく、ただ数字だけが宙に漂う――「−1」「−7」「−64」……。
セフィが声を荒げる。
「実験体……廃棄された“負の測定者”たちだ!」
カナの手のひらが、無意識に光を帯びる。
青白い光が広がり、影たちはその場で立ち止まった。
> “……助けて……わたしたちを……閉じ込めないで……”
その声に、カナの胸が痛む。
「……リースの声と、同じ。」
セフィが焦ったように言う。
「カナ! 彼らに触れたら、君の数値が崩壊する!」
「大丈夫。私……もう、逃げない。」
カナは一歩、影の中へ踏み出した。
そして両手を広げ、光を解き放つ。
眩い光が墓所全体を包み、数字たちが空へと溶けていく。
消えていく影たちの中から、かすかな声が響く。
> “……ありがとう、カナ。
でも――まだ、彼女は下にいる……”
光が収まったあと、地下の最奥に続く扉が現れた。
黒い金属でできたその扉には、ひとつの言葉が刻まれている。
《コード:リース 封印室》
カナの表情が強張る。
「……やっぱり、ここにいるんだね。」
セフィがそっと隣に浮かび、静かに告げる。
「この扉を開ければ、戻れなくなるかもしれない。それでも行くのかい?」
カナは微笑んだ。
「うん。だって――“もう一人の私”を迎えに行くって、約束したから。」
そして彼女は扉に手をかけた。
冷たい金属の感触が、確かに彼女の決意を試すように震えた。
──その奥で、何かが目を覚ます音がした。




