第6話 共鳴の夜
夜の空気が重く沈んでいた。
風も止み、森の奥に立つ廃墟の屋根に、月の光が薄く差し込む。
カナはその光の下で、静かに目を閉じていた。
体の奥にまだ残るリースの思念が、かすかに脈打つように響いている。
――助けて。
――もう、閉じ込めないで。
その声が何度も繰り返されるたび、カナの胸は締めつけられた。
セフィが小さな光球の姿で肩に浮かび、慎重に口を開く。
「……カナ、数値の揺らぎがまだ収まっていない。これ以上“共鳴”を続けると――」
「セフィ。」
カナはその声を遮るように、ゆっくりと立ち上がった。
瞳の奥には、迷いのない光が宿っていた。
「私、今から――リースを迎えに行こうと思うの。……ダメかな?」
その言葉に、セフィの光が一瞬だけ揺らぐ。
「……それは、つまり……王都の地下へ戻るということだよ?」
「うん。」
カナは小さく頷いた。
「リースは、私を呼んでた。
あの声を無視して進むくらいなら、追われた方がマシ。」
雨の名残が地面に染み、月の光にきらめく。
セフィは沈黙のあと、小さくため息をつくように光をゆらした。
「……君は本当に、測定不能だよ、カナ。」
「でしょ?」
カナが笑う。その笑みは少し寂しく、けれど確かな決意を含んでいた。
セフィが淡く輝きながら応じる。
「わかった。なら、僕が道を示す。君の数値が導く“真の測定地点”へ。」
カナは森の奥――王都の方角を見つめた。
そこには、自分と同じ顔を持つ少女。
そして、数値の歪みに封じられた“もう一つの真実”が待っている。
「リース。待ってて。今度は、私があなたを助けに行く。」
月明かりが二人を照らす。
静かな夜が、嵐の前の静寂であることを、まだ誰も知らなかった。




