第4話 境界の外で
風が、頬を撫でた。
冷たくて、痛いほど新しい風。
「これが……外の空気……」
隔離区を越えた先――
そこには、私が想像していた“世界”とはまるで違う景色が広がっていた。
空は濁った灰色。
地平線の彼方まで、崩れかけた建物と黒い塔が並んでいる。
草も花もなく、風が吹けば灰が舞い上がるだけ。
「セフィ、ここは……?」
「昔は“王都”だった場所だよ。
でも百年前の《測定戦争》で、ほとんどの都市は焼かれた。
残ったのは、協会が支配する“内側”の世界だけ。」
「じゃあ……私たちは、外側にいるの?」
「そう。ここは“神の目”が届かない領域。」
セフィの声はいつになく静かだった。
彼の小さな体が、風に吹かれて微かに揺れる。
私は崩れた壁の上に腰を下ろした。
十年ぶりに感じる“自由”。
でもその自由は、あまりに空っぽで、少し怖かった。
「ねぇ、セフィ。」
「なに?」
「私、本当に人間なのかな。」
セフィは答えなかった。
ただ、優しく羽根のようなコードで私の肩に触れた。
「カナ、君の中には“数値化できない何か”がある。
だからこそ、君はここまで生きてこられた。
でもそれは、君だけじゃない――」
セフィの瞳が、一瞬だけ夜空の向こうを見た。
「この世界のどこかで、もう一人、君のような存在が目を覚まそうとしている。」
――もう一人?
風が、再び吹いた。
遠くで、鈍い光が夜空を裂いた。
それはまるで、誰かが“境界”の内側からこちらを覗いているようだった。




