第3話 王家協会からの逃亡
警報が鳴り響く。
赤い警光が廊下を染め、鉄の扉が一枚ずつ閉じていく。
「カナ、右だ!」
セフィが叫ぶ。
その小さな身体から伸びる光の線が、進むべき道を示していた。
息が苦しい。足が追いつかない。
十年間、閉じ込められてきた身体には、走るという行為があまりにも重かった。
それでも――立ち止まったら、終わりだ。
背後から、金属靴の音と、無機質な声が追ってくる。
「対象:カナ・リース。拘束を許可する。」
黒衣の兵士たち。
彼らの胸には、金の紋章――王家協会の印。
この世界の秩序を統べる“神の代行者”たち。
「セフィ! あの人たちは……!」
「捕まれば、君は“処理”される。説明はあと! 走って!」
角を曲がると、金属の扉が塞がっていた。
行き止まり――。
私は絶望的な気持ちで立ち尽くす。
「……もう、ダメだ……」
「カナ、手を出して!」
セフィの声が響く。
反射的に、私は右手を前へ突き出した。
次の瞬間――
空気が、震えた。
私の掌から黒い光が溢れ出し、鉄扉を一瞬で飲み込む。
光の中で金属が溶け、風のように散った。
「……い、今の……」
「君の力だよ。抑えきれなくなってる。」
セフィの瞳が淡く光る。
「王家協会は、君のその力を“禁忌”と呼んでる。
だけど、君が何者なのか――私にもまだ、すべてはわからない。」
遠くで再び警報が鳴る。
逃げなければ。
でも、もうどこにも“帰る場所”なんてない。
「セフィ……私、どうすればいいの?」
「まずは、外へ出よう。この世界の“境界”を見せてあげる。」
夜空を裂くように、隔離区の外壁が見えてきた。
高く、果てしなく伸びる光の壁――その向こうが、自由なのか、それとも――。
少女と小さな測定器は、光に包まれながら駆け抜けた。
その瞬間、世界の“記録”がわずかに歪んだことを、
まだ誰も知らない。




