* エピローグ *
王宮の上段テラス。
白く輝くヴェールが、夕暮れの風にふわりと揺れる。
黄金の髪をなびかせたアレクシスが、聖女の衣をまとうヴェルとともに、民の前に姿を現す。
広場を埋め尽くした人々が、次々と歓声を上げた。
「この世界を守り、すべての命に平和をもたらします!」
ヴェルが真っ直ぐに声を上げると、民の歓喜が空へと昇っていった。
その中で、アレクシスはヴェルの前にひざまずいた。
「この命ある限り、ずっと君を守り続ける。
どんな運命も、君と共に生き抜こう――」
その瞳には、誓いを超えた深い愛が、確かに宿っていた。
彼はヴェルの手を取り、その甲に、そっと口づけを落とす。
それは忠誠でも、使命でもない。
ただ――心から愛する、たったひとりの人に捧げる、魂ごとの誓い。
彼の人生そのものだった。
ヴェルは、小さく微笑んだ。
そして、そっとその手をアレクシスの頬に添えると――
静かに、彼の額へ額を寄せた。
「……私も、アレク様と共に歩みたいです。
何があっても、あなたの隣にいたい――それが、私の願いです」
ふたりの視線が、深く、やわらかく重なり合う。
穏やかな陽射しに包まれて、ふたりの絆が確かに結ばれた。
* * *
二人は今、各地を巡っていた。
魔物から人々を守るために、村や街の周囲へ結界を張る旅だ。
その夜。ヴェルはひとり、街の高台にある岩の上に座っていた。
穏やかな風が、ふわりと髪を撫でる。
眼下には家々の灯りがきらめき、まるで星を敷き詰めたように、美しい夜景が広がっていた。
「お待たせ」
背後から声がして、ヴェルが振り向く。
そこには、串焼きを二本手にしたアレクシスの姿があった。
香ばしい匂いが風に乗って届く。
「はい、君の分。」
「ありがとうございます!」
ヴェルはぱっと笑顔になって、串焼きを両手で受け取った。
そして、ひとくち。
香ばしさと肉の旨みが口いっぱいに広がって――
「……おいしいっ!」
まるで宝物を見つけたような顔で、目をきらきらと輝かせる。
「くくっ……相変わらず、美味しそうに食べるね」
「はい、すごく幸せです!」
ヴェルは満面の笑みで頷いた。
その無邪気な笑顔に、アレクシスも思わず口元をほころばせる。
二人は旅の思い出を語り合いながら、ゆっくりと食事を終えた。
やがて、ヴェルは星空を見上げ、小さな拳をぎゅっと握りしめる。
「早く皆さんのところへ行って、防御壁を張らないと……。安心して眠っていただけるようにしなければ」
「そうだね」
二人は、静かに、街を見下ろす。
「こうして……美味しいものを食べて、綺麗な景色を見て、楽しくお話して……」
ぽつりと、ヴェルが呟く。
「アレク様……私を拾ってくださって、ありがとうございました」
その言葉は小さいけれど、深い想いが詰まっていた。
「空っぽだった私に……
嬉しいことも、楽しいことも……
たくさん詰め込んでくださいました。
苦しい時も、ずっとそばにいてくれて……
一緒に乗り越えてくれて……
すごく幸せです!」
ヴェルは目を細めて、静かに微笑んだ。
アレクシスは少し驚いたように目を細め、そして――そっと頷く。
「……ありがとう。けれど、感謝してるのは、俺の方なんだ」
「え……?」
ヴェルが思わず声を漏らし、きょとんとした顔でアレクシスを見上げる。
その仕草があまりにも愛おしくて、アレクシスはふっと微笑んだ。
「君のまっすぐな心にふれた日から、世界の色が変わった。
喜び、怒り、戸惑い――心が毎日揺れ動く。
何でもないはずの時間が、隣にいるだけで、特別に思えてくるんだ」
そう言って、優しくヴェルを見つめる。
「こんなふうに、誰かを想って胸が震える日々があるなんて……知らなかった。
――君に出会えて、本当に、幸せだ」
その声は、真っ直ぐで、ひたすらにあたたかかった。
アレクシスはそっと手を差し出し、ヴェルの手を包み込む。
「……願うなら、この幸せな日々が、ずっと続いてほしい。
だから……そばにいてくれる?」
ヴェルは目を細め、微笑む。
「はい。この命の尽きるその日まで、ずっと……あなたのそばにいます」
視線が重なり合い、やわらかな想いが静かに満ちていく。
そして――唇が、そっと触れ合った。
それは、ぬくもりと誓いを交わす静かな口づけ。
過去の痛みも、未来の希望も、すべてがその一瞬に融けていく。
ふたりの周りで、街の灯りがまたたく。
まるで奇跡を祝福するかのように、あたたかな光が、夜空に優しく溶けていった。
――世界は守られた。
そして、ふたりは共に生きていく。
これからの光を、共に照らしながら。
おわり
最後までご覧いただきまして、誠にありがとうございました。




