* プロローグ *
※暴力・残酷な描写あり
※文章の執筆に、ChatGPTを使用しています。
暗い石壁に囲まれた、冷たい牢獄の塔。
その片隅で、小さな少女が膝を抱え、震えていた。
髪は埃にまみれ、服は裂け、あらわになった腕には、無数の刃痕。
声をあげることもなく、ただじっと耐えていた。
目の前に立つ兵士の顔は、どこか壊れていた。
血走った目に浮かぶのは、理性のかけらもない熱狂。
剥き出しの歯は黄ばみ、口元には、獲物をいたぶる前の獣のような笑みが張りついていた。
「……もっとよこせ。どうせ、お前は死なないんだろう?」
嗜虐に満ちた声とともに、男は少女の細い二の腕に容赦なく剣を振り下ろした。
鋭い痛みが、細い体を容赦なく貫いた。
少女は声もなく目を閉じ、ただ耐える。
「どこまで切れば、お前は壊れるんだ……?」
耳に焼きつくその声が、脳裏を締め付けた。
男は剣を握りしめ、さらに一歩、二歩と詰め寄る。
その瞬間――
少女の胸の奥で、何かが弾けた。
空気が震え、見えない壁が彼女を包み込む。
突如として、兵士の体は弾き飛ばされ、石壁に叩きつけられた。
「……っ!」
鈍い音とともに、男はその場に崩れ落ち、動かなくなった。
訪れた静寂の中、少女の淡い水色の瞳が、怯えたように揺れる。
目を覚ませば、また何をされるか分からない。
今度こそ、壊されるかもしれない。
恐怖に突き動かされるように、少女はふらふらと立ち上がった。
開いたままの扉が、そこにあった。
彼女は迷わず駆け出した。
腕からは血を流し、
瞳からは涙を流し、
冷たい夜風に晒されながら、
ただ必死に、逃げた――。
* * *
「全員、配置につけ! 聖女様に――傷一つつけるな!」
若き騎士の声が、戦場に鋭く響き渡る。
その瞬間、何もないはずの空間が歪み始めた。
黒い裂け目から、牙と爪をむき出しにした魔物たちが次々と這い出してくる。
その数、六体。
「下がれ! 俺が行く!」
騎士は剣を抜き放ち、聖女の前に立ちはだかった。
太陽のように輝く金髪が風に揺れ、
澄み渡る碧の瞳が敵を射抜く。
凛とした額に流れる髪は、粗野とは無縁の気品を纏い、長身の鎧姿はまるで伝説の騎士そのものだった。
鋭い剣筋が最前列の魔物を一閃で斬り裂く。
だが、その刹那――魔物の爪が右腕を裂き、鮮血が弧を描いて飛び散った。
「くっ……!」
痛みを押し殺し、騎士は再び敵に向き直る――
その時だった。
「下がりなさい」
静謐な声が戦場を切り裂き、聖女は杖を高く掲げた。
次の瞬間、世界が白く染まる。
眩い聖なる光が炸裂し、魔物たちを焼き尽くした。
残る五体も一瞬で塵となった。
聖女は静かに息を吸い込み、迷いも恐れも見せない瞳で戦場を見渡す。
だが――空間がさらに深く裂けた。
「……またか!」
叫びも間に合わぬまま、黒く蠢く裂け目から八体の魔物が飛び出した。
牙を剥き、唸り声をあげて突進してくる。
兵士たちが一斉に剣を構えた――その刹那。
「恐れることはありません!」
冷たくも揺るがぬ声で聖女は杖を振り上げる。
空気が張り詰め、時間が一瞬止まったかのように静寂が訪れる。
そして、爆ぜるように光が解き放たれた。
轟音、閃光、焼き尽くされる影。
その場に居合わせた全ての者が息を呑み、目を閉じる。
開けた時、そこに残っていたのは静寂だけだった。
魔物の姿は跡形もなく消え、骸すら残っていない。
「わたくしがいる限り、何も通しませんわ」
聖女は凛と微笑む。
兵士たちは息を呑み、その姿に見惚れた。
騎士は剣を収め、深く頭を垂れる。
「……お見事です、聖女様。
お言葉通り、誰一人命を落とすことなく、魔物を退けられました」
その声には、敬意が込められていた。
聖女はわずかに微笑み、優雅に応える。
「当然のことですわ。
わたくしの務めは、この世界を守ること――
民を、そしてあなたたちを救うことなのですから。
あなたも、ご苦労様でしたわ、――アレクシス。
その身を挺して、わたくしを守ってくださったのですね。頼もしいわ」
「もったいないお言葉です、聖女様。
私の命など、貴女を守るためにあるものです」
「ふふ……では、これからもずっと、わたくしの傍で尽くしてくださるの?」
「はい、永遠に」
二人の間に静けさが降り、
アレクシスは敬意を込め、まっすぐに彼女を見つめた。
* * *
――思い出すのは、七歳の頃。
ルミナリア王国の城内、中庭。
春の日差しがやわらかく降り注ぎ、花々がそよ風に揺れる静かな庭園――
その穏やかな時間を、突然引き裂いたのは、女性の悲鳴と闇から現れた一匹の魔物だった。
護衛の少年は一瞬で吹き飛ばされ、意識を失う。
逃げる間もなく、魔物はアレクシスに襲いかかった。
右腕に鋭い痛みが走る。
噛み砕かれる骨の感触。
血がほとばしり、恐怖で体が凍りついた。
「もう、終わりだ――」
そう思ったその瞬間、世界は光に包まれた。
まばゆい輝きの中、魔物は一瞬で塵となり消えていった。
ぼんやりと目を細めると、
長い髪の少女が静かに立っていた。
顔は霧に包まれたみたいに曖昧なのに――
その声だけは、やけにはっきりと残っている。
「だいじょうぶ?」
小さな手が、傷ついた腕にそっと触れる。
不思議な温もりがじわりと広がっていった。
「……いたくない」
少女は、かすかに微笑んだ。
「よかった」
その笑顔を見た途端、アレクシスは安心に包まれ、深い眠りに落ちていった。
――あの温かさ、あの優しさ。
今も胸に刻まれている。
俺は、聖女様に救われたのだ。
だから、今度は俺が彼女を支え、守る番だ。
たとえ、命に代えても。
ご覧いただきまして、誠にありがとうございました。
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8/1 一部、文章表現を変更しました。
(冒頭の少女の外見。ルクレツィアの台詞。七歳回想シーンの、少女の顔見えなかったを覚えていないに。)