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リヴィアーナ異世界転生記  作者: 梵天丸
第一章:暁のリヴィアーナ
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剣の構えはまだ重い

春の朝、ベルモーシア公国の東端、ハーハム村。

 陽が昇ると、村の家々や畑にはやわらかな光が差し込む。土と緑の香り、パンとハーブの香り、子供たちの無邪気な笑い声。

 村の外れ、小高い丘の上で、僕――アリストル・リオンコート(8歳)は父さんから剣の稽古を受けていた。


「戦いの最中に考え事をするな!」

 

 父さん(キーヴァル)の声は、朝の冷たい空気に響く。

 父さんはかつてベルモーシア公国の長槍騎士団の副団長だった人だ。村でも若者たちの憧れで、昔話になるとみんなが目を輝かせて聞いている。

 だけど僕は、剣の重さや構えの難しさに、つい頭で考えすぎて動きがぎこちなくなる。


 ガツッ! 父さんの一撃を木剣で防いだつもりが手首で受けてしまった。

 手首の痛みに思わず顔をしかめた。


 木剣が手から滑り落ち、地面に突き刺さった。


(この世界じゃ7歳から学院に入学するし、5歳くらいで剣を持ち始める子も珍しくない。これでやっとみんなの仲間入りだ。と思っていたけど――やっぱり、僕には無理かもしれない。)

 ふと、心の奥で別の自分が囁いた。


 僕の中には“前の世界”の記憶がある。

 鏡 秋成――かがみ あきなり、という名前の孤独で後悔ばかりだった人生。誰とも繋がれず静かに終わった。

 (今度こそ、誰かと繋がる人生を生きたい)

 その思いが、僕の毎日を支えている。


「ほら、アリー」

 父さんは落ちた木剣を拾い上げ、もう一度僕の手に握らせる。ごつごつした大きな手。

「肩の力を抜いて、まずは自分の身体を信じろ。憶えた剣は、お前自身のものだ」


 言葉は厳しいけど、その奥にある優しさを僕は知っている。


 稽古が終わると、母さん(サリス)が家の戸口から顔を出す。

「朝ごはんが冷めちゃうわよ。手を洗っていらっしゃい」


 焼きたてのパンと野菜のスープ、チーズとベリーのジャム。

 母さんは静かで芯が強く、家族みんなをあたたかく包んでくれる人だ。


「今日の稽古はどうだった?」

 母さんの優しい声に、僕は首を横に振る。


「うーん、全然ダメだったよ。父さん、すっごく強いんだ!」


「焦らなくていいのよ。アリーはアリーのペースで前に進めばいい」

 母さんがそっと微笑んでくれる。その温もりが、前世にはなかった“家族”の幸せなんだと毎朝感じていた。


 食後、村の広場では、「ダリウス雑貨店」の前に子供たちが集まっていた。

 店を切り盛りしているのは、村長リューベンの息子、ダリウス。

 武具や子供用の木剣、鍋や桶などの日用品から農具まで様々なものを扱うこの店は、村の中心のような存在だ。


 雑貨店の前を父さんが歩けば、村の若者や子供たちが尊敬の眼差しで声をかける。

「キーヴァルさん、また剣の話聞かせて!」

「いつかキーヴァルさんみたいに強くなりたい!」

 その度に父さんは少し照れたように笑い、僕の肩をぽんと叩く。


 父さんに連れられて、僕は村長の家へ向かった。


 最近、村の畑が何者かに荒らされていて、自衛団が調査へ行くことになった。

 かつて長槍騎士団の副団長を務めた父さんは、調査への参加を村長から頼まれていたようだ。

 明日はその様子を見学させてもらえることになったんだ。

 村の外に出るのは、これが初めてだ。


 村長のリューベンさんは、みんなから信頼されている優しい人だ。

 実は、父さんが僕のために“訓練用の剣”を村長に頼んでくれていたらしい。

 ちょうど今日、その剣が仕上がる頃なんだ。

 リューベンは村で唯一の鍛冶師でもある。


「アリー、これが君のために鍛えた剣だよ。重さも扱いやすいように工夫してある。しっかり役立ててくれ」

 僕は受け取った剣を両手で抱え、思わず感動で胸が熱くなった。

「ありがとう、村長さん……必ず、大事に使うよ」


「初めての調査だから危険はないと思うが万が一がある。何かあればすぐ大人に頼りなさい」

 村長が優しく微笑む。


 そんな村長の傍らで薬師のセリーヌおばさんが、僕を手招きする。

「アリー、あなたその手首どうしたの!?アザが出来てるじゃない!こっちへいらっしゃい!……キーヴァル、アンタの訓練ね?まったく、昔から乱暴なんだからっ!……でもちょうどいいわね、こないだ教えた薬草の種類と使い方、ちゃんと復習しておきましょうか」

 セリーヌおばさんはリューベン村長の奥さんで、村長の家で診療所を開いている。薬屋の無いこのハーハム村では有難い存在だ。


 僕は何度かセリーヌおばさんに薬草での治療法を教えてもらったことがある。


 前回は、薬草と毒消し草を間違えちゃったんだよな……。


「セリーヌおばさん、薬草の種類はあの後しっかり覚えたよ!」

 セリーヌおばさんはニコっと笑って、「あら!アリーはやっぱり賢いねぇ……じゃあ今日は初級の回復魔法、ヒーリアを使ってみようか」


(ヒーリア……?やっぱり前世で僕が書いた小説に出てくる回復魔法だ……)


 セリーヌおばさんが、すり潰した薬草の汁を僕の手に塗ってくれる。ひんやりしてるけど、すぐに指先がじんわり温かくなる。


「癒しの風よ、痛みを退け、命の流れを戻したまえ――《ヒーリア》よ。痛みのない普通の状態を思い出して……さ、唱えてみて」


「癒しの風よ、痛みを退け、命の流れを戻したまえ――ヒーリア」


 僕が唱えると、手のひらがかすかに光る。光は思ったより強く、セリーヌおばさんの目が一瞬大きくなる。


「アリー……あなた、なんて強い魔力なの……」彼女は少し息を呑んで、僕の手をじっと見つめた。「ヒーリアはね、初心者でも熟練者でも同じ効果しか得られないの。ちょっと、信じられないくらいよ。」


 驚きで目を丸くする僕に、セリーヌおばさんは慌てて笑顔に戻る。「でもまぁ、この調子なら、すぐに習得できるわね。」


 家に戻ると、母さんが庭でハーブを摘んでいた。

「アリー、おいで」

 母さんが小さな青い石のついたチョーカーを取り出す。

「明日は初めて父さんと村の外に出るんでしょ?村の外では何が起こるか分からない。これは“身代わりの石”っていってね、お母さんの故郷では大切な人の無事を願う御守りなの。村の外に出る時は、いつも身に着けているといいわ」

 僕はその石を手に取り、そっと胸に当てる。

 温かくて、なぜか心が落ち着いた。


 夜になると、家族で食卓を囲む。

 父さんが育てた野菜や、母さんが焼いたパン、今日の出来事をみんなで話す時間。

 僕は「今日は治癒魔法が使えるようになったんだ!」と伝え、父さんが「それはすごいな」と頭を撫でてくれる。


 眠る前、窓から星空を見上げる。

(……今度こそ)

 僕はそっと、手にしたチョーカーの石を握りしめた。


 ――これが、僕の“リヴィアーナ”での、新しい一歩の始まりだった。

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