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8:【きらきらぼし】

 るりは駅と反対方向に歩いていく。その間もずっとるりは私の手を握っていた。手を繋いでいるわけではない。ぎゅっと握りしめられている。痛いほどに。

「ねえるり、急にどうしたの?」

 パンケーキが美味しいと人気のあるカフェに、半ば強引に押し込まれる。                                                                                       

「めっちゃ甘いもの食べたくなって。ここ、種類あるからいいよね」

 でも、るりの声からは少し棘があるような気がした。

 店内にかかる落ち着いて耳馴染みの良いBGM。それとは裏腹に、るりの表情は堅い。

「…ねえ、なんでそんなに機嫌悪いの?」

「そんなことないよ。ちょっと考え事してただけ。気にしないで。好きなの頼んじゃって。あ、予算千円以内ね」

「選べないじゃん」

 カフェのメニューを見ると、一番安いのは980円の小さめなケーキセットだった。もはやパンケーキですらない。

「すみませーん!」

 るりは注文をするために店員を呼ぶ。

 何でもないように振る舞うるりだが、やはり何か心に引っかかるものがある。

 この違和感は何だろう…。

 幼馴染だからこそ感じるその漠然とした違和感。

 何故か、心がざわついた。


 その次の日、放課後の帰り道。るりは古典の小テストに引っかかって放課後課外行きになっていた。

 いつもの駅にたどり着く。駅の広場からまたピアノの音が聴こえた。「あの子」だ。きらきら星変奏曲、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの作品だ。軽快なリズムで奏でられるその音はとても楽しそうだった。私が聴いた二曲のショパンからは感じられなかった純粋で無垢な音が伝わってくる。

 それが気になって駅の広場に足を向けた。

 近づいていく、そのたびにピアノの旋律とは違う旋律が乗っている事に気がづいた。

 子供の声だ。

 あの子の周りには、幼稚園くらいの子供たちが数人集まっていた。子供たちは楽しそうにきらきら星をハミングする。

 彼女は子供たちのハミングに合わせてリズムや音階を調節しながら弾いていた。アドリブを巧みに入れながら飽きさせない展開。少し距離を置いたところで立ち止まって聴いている人もいた。とても和やかで温かい音だった。

 演奏が終わると、子供たちは喜びながら続きをリクエストする。

 私も、もっと聴きたいと思う。

「あ!」

 彼女は突然こちらを見て声を上げた。

「!?」

 私は反射的にまた背を向けて走り出す。

「…待って!」

 そんな声が背後から聴こえた。

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