7:【その気持ち】
琴音とは幼馴染で、ずっと一緒にすごしてきた。小学校、中学校…。
ピアノを弾く琴音はとても輝いていた。奏でられる音楽から無数の「楽しい」が浮かび上がってくる。だけど、それは少しずつ変わっていった。ピアノの技術や知識なんてないわたしでも分かるくらい、形式張ったものを正確に再現する、それを「音楽」だと感じさせる音色。
琴音がピアノで壊れていく…そんな時、わたしは何もできなかった。だから、琴音が音楽を拒絶した時、わたしは正直嬉しかった。これで、琴音は自由になれる。どこか悲痛な面持ちでピアノを弾く琴音を見ないで済む。
高校も無理して同じところを受けた。琴音が音楽系の高校に行くのをやめて、他の国公立の進学校に行くと分かってから猛勉強をした。元々勉強は苦手だし、要領も良くない。家に帰ったら即今日習ったところの復習をする。英語は先々にまで文章を訳してノートに書き込む。数学が特に苦手だったので、一年の内容から全部やり直した。
幸い、国公立なので私立より授業料は安い。その分両親のサポートもあり、何とか合格できた。
これでまた、三年間一緒に過ごす事ができる。それが本当に嬉しかった。
中学三年生、それは卒業式の日だった。
同じテニス部の男子から告白された事がある。後輩にあたる子だった。特に繋がりはなかったが、卒業してしまうから、と勇気を出してくれたんだろう。それはとても伝わってきた。
「ごめん…私、好きな人がいるから」
なんでそんな事を言ったのか、それは嘘なのか本当なのかその時は分からなかった。
でも。
私の頭に浮かんだのは、楽しそうに微笑む琴音だった。