6:【代償】
いつもの帰り道、夕日に照らされながら歩く。交差点で信号が赤になり、足を止めた。
「あーお腹減ったー!」
放課後、るりは背伸びしながら言う。
「あんなに赤点取りまくってたのに、よく全部取り戻したよね」
「うちの姉ちゃん、今大学行きながら家庭教師やってるんだ。ついでに教えてくれってすがりついたらケーキバイキング連れて行ったら教えてやるって言うから頼んだ」
「その代償結構高くない?」
「いや、どうせわたしも行きたかったしね。なんだかんだでいっつも心配してくれてるし」
るりは楽しそうに語る。姉妹仲がいいのは昔から変わらない。
「それにさ、あんまり赤点取りすぎて琴音が先輩になっちゃうの流石に嫌だったから」
「…実際危なかったよね」
「まぁねー、でも結果オーライでしょ。姉ちゃんに金輪際こんな事しないから自分で勉強しろって言われちゃったよ」
「当たり前」
私は言いながら、るりの額をつつく。
「痛った」
「今度は琴音に手伝ってもらおうかなー」
「じゃあ私は高級フルーツ店の大盛りパフェだね」
「うわ絶対嫌だ」
言いながらるりは笑う。…そんな余裕のある成績ではないのだけれど…。
そんな事を話ながら、学校の最寄り駅につく。
「…ん?」
るりは何かに気づいたような顔をした。
「ピアノ…の音?」
「最近なんだけど、駅の広場にピアノ置かれてるんだよね。なんで突然現れたのか分からないけど…」
「だよね、そんなの前にはなかったし」
「…!」
あの子だ。
ピアノはまだ見えてこないが、間違いない。この音はこの前ピアノを弾いていた、あの派手な子だ。
「あ、ちょっと琴音!」
私が足早に歩き始めると、るりは慌てて追いかけてくる。
…やっぱりだ。
またあの子が弾いている。幻想即興曲嬰ハ短調…またショパンだ。前にも感じた甘く囁くような音。そして感情の豊かさ。少し切なげな音…。彼女は美しい運指で鍵盤の上を踊る。
「…」
思わず私は立ち止まり引き込まれてしまう。
すごい。やっぱりこの子は「音楽」が好きなんだ。どこまでも。
私が立ち止まって耳を傾けていると、追いついたるりは何故か私の手を掴んだ。
「るり?」
「行こ、私お腹減ったから喫茶店でパンケーキ食べたい。次の赤点分奢るからさ」
「ちょっと!」
るりは何故か私の手をぎゅっと握って離さない。ぐいぐいと引かれる形でその場から立ち去る事になった。




