29:【新しい想い】
私は塞ぎ込んで、しばらく学校を休んでいた。るりに合わせる顔がない。どんなふうに接すればいい?大切な友達にひどい事をしてしまった。
るりではなく、美音だった。
るりはそれを知っていた。気づいてしまった。だから私に言ったんだ。友達に戻ろうと。でも、私にはそのビジョンが浮かばない。どうしたらいいんだろう。
そんな事を考えていると、玄関のチャイムが鳴った。
誰だろう?
そう考えて玄関の扉を開ける。
「るり…」
そこにはいつものような、無邪気な笑顔があった。
「体調大丈夫?」
「…う…ん…」
「るりが好きなフルーツタルト、買ってきたよ。一緒に食べよ?」
私はキッチンで二人分のお皿を出す。
「わたしね、新しい夢ができたよ」
私はそっとお皿をテーブルの上に乗せた。
「…声楽、やろうと思って」
「声楽?」
確かに昔から音感はいいなとは思ってはいたけれど…。
「美音の伴奏でね、歌ってみたんだ。そしたら結構人集まってきて、癖になっちゃいそう。あの感覚」
「ソルフェージュもね、始めたよ。わたしんち、そういう専門的な習い事ってできないから、美音に見てもらってる」
二人がそんな関係で結ばれている。私は驚いた。
「だからね、気にしなくていいよ。わたしはわたしで、ちゃんと考えてるから」
るりは穏やかに微笑む。でも、その瞳からは新しいものに対する期待と不安が感じられた。それでも、前に進もうとする強い決意。
「…なんで琴音が泣いてるの?」
言われて気づく。
「なんでだろ…すごく、酷い事をしちゃったのに、嬉しい…。るりが、前を向いてくれて。私ね、やっぱり音楽は大嫌いだと思ったよ。誰かを傷つけてしまう音色なんて要らない」
でも、と琴音は続ける。
「…逆に、誰かの背中を押すこともできるんじゃないかって」
「優しいけど時に厳しいような…」
「琴音は、そういうふうな音を作りたいんだね」
るりは微笑む。
「琴音らしくて、いいと思うよ」




