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21:【ずっと待ってた】
背後から追いかけてくるるりを振り払うように全力で走る。
その音ですぐに分かった。
「美音!」
私は演奏中の美音の手を無理やり取り上げた。
やっぱりだ。
「あれからずっと弾いてたの?」
美音の親指の付け根が熱を帯びている。
美音は視線を逸らせた。
「腱鞘炎になっちゃうよ」
こんな事をしていたら、ピアノが弾けなくなってしまう。
美音は無言でその手を振り払った。
「もう最後でいいから、聴いて」
美音は鍵盤に手を置く。
…ピアノ・ソナタ第14番「月光」…。
深い、想い。悲しくてたまらない。それでもずっと想ってる。ずっと奥底にあった気持ちを載せて。
これは、私に対しての想いだ。
一瞬で分かる。ピアノの側で聴いていると、その想いが強引に心を動かす。
美音はその曲を弾き終わったあと、私の表情を伺う。
私は言葉にできなかった。
続けるように、美音はもう一曲弾き始めた。
…これは…連弾だ…。




