14:【告白】
夕日が眩しい音楽室。わたしは琴音を巻き込んで、音楽の追試の勉強をしていた。
「1791年、ドイツ語で描かれたモーツァルトの三大オペラ…」
琴音が教科書をめくる。
「…フィガロの結婚?」
「惜しいかな。魔笛ね」
琴音はまた教科書をめくった。
「…ねえ琴音…」
「何?」
「わたしね、好きだよ。琴音のこと」
何でもないふうに私は言った。
「え?」
琴音は弾かれたようにこちらを見る。
「…ありがとう、るり…」
琴音はそれだけ言うと、優しく微笑んだ。夕日に照らされた琴音はとても綺麗だと思った。
それは、友人として?それとも恋愛対象として?
尋ねようとして、わたしは琴音の瞳を見つめた。
琴音は一度わたしから目線を逸らすと、机に教科書を置き教室に置いてあるグランドピアノに向かった。少しずつ、一歩ずつ、噛みしめるように。
椅子に腰掛けて、そっと鍵盤の上に指を乗せようとする。琴音のその指はわずかに震えていた。少し呼吸を整えて琴音は旋律を奏で始めた。
「琴音っ―…」
中学を最後に一度もピアノに触らなかった琴音が…。
わたしは息をすることも忘れるくらい、その旋律を追った。
優しくて温かい音。ゆっくりな旋律が時に熱く、時に静かに、私の心に訴えかけてくる。
これは、さっきの告白の答え?
とても静かに、それは空気に吸い込まれていった。
わたしは、琴音を取られたくない。誰にも…。
「…ねえ、わたしのものになって…琴音…」
わたしは声を震わせながら言う。
グランドピアノの椅子に座ったままでいる琴音を抱きしめる。
わたしの胸の中で、琴音は小さく頷いた。
「この曲は何ていう曲?」
「…フランツ・リストの「愛の夢」だよ」
少し紅潮した頬をして、琴音はわたしを抱きしめ返した。




