13:【恋をするということ】
「るり!るりってば!」
「何ー?ゆう…」
「何じゃない!」
「夕飯できたって!早く降りておいで」
自分の部屋の階下から姉であるゆうの声がした。
「はーい」
それだけ言って部屋を出る。
「今日何?」
「ハンバーグ」
「やったー!ゆうナイスチョイス」
ハンバーグは私わたしの一番好きな料理だ。
「…ていうかあんた手伝いくらいしなさいよ」
「えー私いたほうが邪魔じゃない?料理全然できないし」
わたしの家の両親は共働きで、夜遅くなることが多い。夕飯はたいていゆうが作っていた。
「これ何の風の吹き回し?」
「…」
ゆうは少しだけ真剣な目で私を見てきた。
「…あんた最近おかしいよ」
「え?」
「なんかぼーっとしてたり機嫌悪そうだし…」
「…そんな事…」
私は思わず目をそらしてしまった。
「…琴音ちゃん?」
どきりとした。
「…何かあったんだね」
「…」
やっぱりゆうの前ではごまかせない。
わたしはため息をついた。
「どうしよう…ゆう、琴音が取られちゃうかもしれない」
「あんた昔っから琴音ちゃんのこと大好きだもんね」
「…ずっとずっと、側にいたのに…。どうして…わたしじゃ駄目なのかな」
まだ琴音が「音楽」を愛していた時、その表情が目に浮かぶ。キラキラとした瞳で鍵盤に感情を共鳴させる。その姿は誰が見ても琴音が「音楽」に恋していたのかが分かった。
でも、あのピアノを弾いていた子に向ける琴音の瞳…。それはまさにそれだった。きっとわたしにしか分からない。わたしだから分かる。
「なんで、わたしじゃないの…?」
わたしは泣きそうになるのを必死に堪える。
「知ってるよ、あんたの好きは恋だもんね」
「琴音ちゃんには何か言ったの?」
わたしはうつむいたまま首を左右に振る。
「言ってもないのに諦めるんだ?」
「でも…」
「拒絶されるのが怖い?」
今度は首を縦に振った。
「…そんな事伝えたら、きっと重たいって思われるよ。友達でもなくなっちゃう」
わたしは声を絞り出す。
「あんたね、何年琴音ちゃんと一緒に育ってきたと思ってるの。今更そんな事告白されてもびっくりしないよ。たかがそれくらいで友達じゃなくなるなんて、そんな浅い関係じゃないでしょ?」
「勇気、出してみたら?」
ゆうは私の頭をポンと撫でた。
「じゃ、姉ちゃん特製のハンバーグ食べよっか」
ゆうは明るい声で私のわたしを押してくれた。




