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12:【嫉妬】

 その日も駅の広場からピアノの旋律が聴こえてきた。

 琴音はそちらを向いて興味深そうにその演奏を聴いている。

 わたしはため息をついた。

「…聴いていきたい?」

 琴音は逡巡したあとに言う。

「うん…いいかな…」

 今まで音楽に対して複雑な気持ちを持っていた琴音が積極的にその音に耳を傾けようとしている。わたしは驚いた。そして、やはりその演奏に嫉妬する。

 やはり琴音の眼差しはどこか熱を帯びているように感じる。

 ピアノを弾いていた子は手を鍵盤から下ろすとこちらを向いて近づいてきた。わたしは琴音の手を取ってそこから立ち退こうとしたが、琴音は一歩も動かなかった。

「聴いてくれてたんだ。ありがとう」

 派手な茶髪をした女の子は無邪気そうな笑顔で私達に言う。

「まだ、名前ちゃんと言ってなかったよね。わたしは坂口美音」

 その子は私の方を見ながら、その先を促す。

「…わたしは白谷るり」

「そっちの子は藤岡琴音…であってるよね?」

 琴音は小さく頷いた。

 ものすごい勢いで距離を詰めてくる美音に少し苛立つ。

「ねえ…琴音の演奏、聴きたいな」

「…もう琴音はピアノ辞めてるんだってば」

「琴音はどう思ってるの?…ピアノの事」

 美音は興味本位で聞いたのか、何か意図があって聞いているのか分からない。

「嫌いだよ。好きっていう気持ちがひっくり返ったみたいに」

 それだけ言うと、琴音は急に踵を返した。

「あ…待って!」

 その声を聞きながらわたし達は足早に改札に向かった。

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