11:【30番】
「革命…」
私はつぶやくと吸い込まれるようにピアノに近づく。
またショパン。12の練習曲作品10第12番ハ短調「革命」。
派手なフレーズが印象的だ。彼女の周りにはそれなりの人だかりができていた。
出だしから始まる激しい音の海。力強くも繊細な左手の動き。一瞬クライマックスで静かになると、また激しく最後のフレーズを残してその余韻を作る…。巧みなテクニックを感じた。その演奏に釘付けになってしまう。
周りからはパチパチと拍手がちらほらと上がっていた。
私も思わず手を鳴らそうとする。
するとその女の子はいきなりこちらを見た。
まるでずっと待っていたかのように。
そして観衆をかき分けてこちらに近づいてくる。
「ねえキミ、ピアノを聴かせて」
唐突に言うと私の手を取ってピアノの前に立たせようとしてきた。
「やめなよ!」
そこに追いかけてきたるりが止めに入る。
「琴音困ってるじゃん」
棘のある言葉は、いつも明るくて無邪気なるりの声ではなかった。
「名前、藤岡琴音であってるよね。30番の子…」
「30番?」
るりの声はもっと棘のあるものになる。
「中学最後の時のコンクール、最優秀賞の子…。エントリーナンバー30番、キミの事だよね?」
「…なんでそれ…」
「覚えてないか…わたし2位だった53番だよ」
「あれっきり見かけなくなったから…ピアノ、やめちゃったの?」
「…」
それを聞いて私は固まってしまう。
「だから、困ってるって言ってるじゃん!」
るりは私の手から女の子の手を払う。そしてぎゅっと握りしめてきた。
「行こう、琴音」
るりに手を引かれて、改札まで歩く。
「琴音、嫌なら嫌って言いなよ」
るりはこちらを見ない。
「…うん…」
軽く怒りを感じているようなるりの声。その怒りはどこに向けてのものなんだろう…。何も言えなかった私?それともあの子…?
やっぱり最近のるりはおかしい。
気の所為じゃない。
なんでそんな感情を持っているのか、私の中で疑問は大きくなっていった。




