目次 次へ 1/35 1:【彼女】 さらり、と風が吹いた。彼女は眼の前にあるピアノの蓋を撫でる。懐かしそうに、しかし同時に切なそうな表情で。まるでそれが、かつての自分にとって大切なものだったかのように……。 思い出と共に、彼女は儚く微笑んだ。また、あの日のように風が彼女の髪を揺らす。 とある駅のとある広場。そこにぽつんと置かれたピアノ。彼女はその蓋の鍵をそっと開けると、ピアノの蓋を持ち上げる。ピアノの椅子に腰掛けると息をついて、彼女は鍵盤の上に手を置いた――