開拓村の住人①(リアン・オルレアン)
家族で話し合った翌日。
早朝の用事が終わっていつもなら父は狩りと警備に出かけるのだが、今日は出かけることなく他の村の住人に警備の手配だけすると父の友の家族を連れて家に招いた。
招いたのは、父の友の20代の男性と10代の少女。
男性は名をリアンと言って父と共に昔から活動していたらしく、今でも一緒に狩りと村の警備をともにしている。
少女の名はオルレアンで、詳しく聞いた事はないが元は孤児であったらしく、何かしらの事情により保護してからは、今は一緒に住んでいると聞いていた。
リアンとオルレアンの2人とは、開拓村に各家が出来た後も食事を一緒に食べていた頃もあってよく話したりしていたが、オルレアンがいつしか母に料理を教わってからは家に食事だけを食べに来ることはなくなっていた。
以前に母がオルレアンに恋愛のあれこれを嬉々として家で話しているのを聞いてからは、なるべく邪魔しないように2人が一緒にいる時は家に行ったりはしなくなっていた。さらに、最近は狩りで大物が取れる事もなくて住人が集まる事もなかったのに加えて、僕もそれどころではなかったので全然会うことがなかったから、久しぶりに顔を見た。
家の中にある椅子だと足りなかったので、いつもは外で使っている椅子に僕と妹が二人で座った。
招かれた二人が席に着いて母が飲み水を取りに台所に行くと、リアンは明るく僕たちに話しかけてきた。
「リヒトにリタ、何だか随分久しぶりに会った気がするな。元気にしてたか?」
「うん、元気だよ。リアンさん達がいつも美味しいお肉を取ってきてくれてるから、あの高熱以降は一度も悪くなってないからね」
「そうかそうか、そりゃいい事だ」
「ほら、リタも挨拶して」
「げ、げんきだった」
リタは戸惑いながらも話した後、すぐにリヒトの腕を抱えて顔を覆った。
「あ、あれ?俺ってもしかして忘れられてたりする?」
「そんなことないですよ。久しぶりに会って戸惑っているだけですよ。リタ?リアンさんだよ。前は一緒にご飯食べたりしてたよね」
「・・・ん、リアン、おじさん」
「・・・お、おじさん」
唖然とした後に苦笑いを浮かべるリアンを慰めるようにオルレアンが背中に手を置いてぽんぽんしていた。
その様子を見た父が笑いだして、リアンは父を睨みつけたあと両手でテーブルを叩いた。
「フルールは絶対にそんなことしないから、ソルダ、お前が俺の事をおじさんと言うように教えたんだろ」
「ふん、娘に事実を教えて何が悪い。お前の方が年を取っているのは事実だろう?」
「たった一つしか変わらないだろうが、前までリアンと呼んでくれていたのに・・・お前も、・・・俺がおじさんならお前もおじさんだ!」
「ハッ、俺はパパと呼んでもらえるがお前は無理だろうが、パパとおじさんには超えられない壁があるんだよ」
「ぐ、ぐぎぎ・・」
勝ち誇るソルダと、拳をわなわなさせながら震えながらも睨みつけているリアン。
その様子を見て満足したソルダがやれやれとでもいうように話しかけた。
「お前も早く結婚してしまえばいいものを」
「いや、俺には相手が・・・・・」
さっきまでの威勢が急に無くなりごにょごにょと口ごもるようにリアンが答えるのを見て、ソルダが前から思っていたことを言おうとした時。
「お前まだそんなこと言ってんのか、いいか「貴方、リアン」・・・」
フルールの冷ややかな一言で、ソルダとリアンが言い争っていた家の中が一瞬で沈黙に包まれた。台所から水の入ったコップをみんなに配りながら、表情はにこやかに二人に話しかけた。
「楽しくおしゃべりするのも結構ですが、子供たちが見ている前ではしゃぎすぎないようにしてくださいね」
「あ、ああ」
「す、すまん」
男二人が揃って謝ると2人そろって咳払いして取り繕っているのが可笑しくて、僕と妹が笑いだしてしまいオルレアンさんもにこにこ笑っていたので、さっき一瞬冷めた空気が消え去った。
笑われた二人は取り繕いつつも恥ずかしそうにしていて、母が水を配った後にオルレアンと軽く話しかけた後に本題を話し始めるまで口を開かなかった。
ソルダとフルールは友として信頼しているからこそ話すという事を2人に伝えてからリヒトがこれまでしてきた事を話し始めた。
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両親が話し終わった後、簡単には信じられないような事だと分かっていたので、最後に実際に卵を取り出して目の前で確認してもらった。
「はぁ~、なるほどな」
「・・・・・・」
リアンはリヒトがテーブルの上に置いた卵を手に取って、いろんな角度から見ながら不思議そうな顔でいたが、オルレアンは説明中から不安そうな顔になり今はうつ向いて両手を胸の前で組んでいた。
しばらく会話がない状態が続いたが、手に持っていた卵を置いたリアンが真剣な表情で聞いてきた。
「リヒトの事はどこまで誰に話すつもりなんだ?」
「いま村に住んでいる人達には全員話すつもりだ」
「そうか、お前の考えている事をするなら必要な事ではあるか・・・ん?住んでる人って事は行商してるあいつには話さないつもりなんだな?」
「ああ、あいつは街へ行く事もあるからな。少しでもリスクを減らしておいた方がいいだろう?」
「まあ、そうだな・・」
父とリアンは何か考えているのか沈黙が続いた。すると、一緒に座っていたリタが椅子から降りて母の近くまで行くと、母がリタを抱えて膝に置いた。リタはテーブルの上にあった卵を興味深そうに見て指差した。
「・・・これ?おいしぃ?」
「ふふ、ええ美味しいわよ。それにとっても健康にいいのよ」
「しろいまんまる、おいしぃ」
「美味しいわよ~。そうね、家だと卵を長く保存できないから今から何か作ってみましょうか」
母がそう言うと、オルレアンに卵を使った料理は教えてなかったわねと言って、リタとオルレアンを連れてかまどまで連れて行った。
「あっそういえば・・・」
母が二人を連れて席を立った後も会話がなかった二人に今日気付いた事をついでだから言っておこうと思って声をかけた。
「ん、なんだ?」
「卵の事なんだけど、明日は二個取れるようになって四日後には一日五個取れるようになるから」
「なぜ?増えるんだ?」
「僕がスキルの説明を勘違いしていたみたいで・・・」
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設置済み
・ニワトリ小屋【4/10枠】
*維持必要マナ・・・2マナ
*ニワトリ飼育中
・畜産
・飼育可能動物
・ニワトリ
*消費マナ・・・2羽=2マナ
*1日2羽・・・20魔力必要
*2羽で1日1個の卵を入手可能
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毎朝の家にある畑の世話の時にスキルで魔力を与えるのを日課にしているのだけど、ステータスを見た時にマナが2マナ余っていた。なぜだろうかとスキルの詳細を見ていた時に、ニワトリを増やした時のマナが消費マナになっているのを見つけて、魔力の消費も問題ないから最大の10羽で5個取れるようになるまで増やそうと思っている事を話した。
「そうなのか。本当にすごいなリヒトは」
「ほんとにな。この子には大人も負けだ」
父とリアンが褒めるように頭を乱暴に撫でてきて、照れながら頭を下げてされるがままでいると、リアンが小声で話しかけてきた。
「ありがとうな。リヒトのおかげで村の事について前向きになれたよ」
リアンは村の将来を考えた時に何か変えたくても現状動きようがなかった事を静かに話した。漠然とこのままでいいわけがないと思いつつも動けない事で、心の奥には言いようのない不安があったのだが、リヒトの事を聞いた時に今の現状を変えていけるかもしれないと将来に希望を持てたと話した。
そして、もしリヒトの事で何かあったのならいくらでも相談に乗るし頼っていいと言ってくれた。
「リアンさん、ありがとう」
「ふっ、ありがとうはこっちのセリフだ」
信じてくれる人、頼りになる人が増えた事に喜びと感謝の気持ちを胸に、僕がみんなに返せることで出来ることを全力で頑張ろうと思えた。
その後は、久しぶりに会った事で何か他にあったか話していると母が二人を連れて戻ってきて、1人一口ぐらいしかなかったけどジャガイモと卵のサラダをみんなで食べた。味はもちろん美味しくて、リアンさんが美味しいと言った後に、母が作り方は教えたから明日からでも食べれるわよとオルレアンにウインクをしていた。
そして、昼前にはリアンとオルレアンの2人と共に家を出て、途中で別れると僕たちは次に話そうとしている家へと向かった。
読んでくださりありがとうございます