家族会議
夜、初めてスキルの事を話した時のように両親と僕がテーブルの対面に座って話していた。
初めに、収穫することで出来ることが増えるかもしれないと考えていた事を話した。そして、これからもどんどん収穫していくことでもっと出来る事が増えていく可能性があると話してから、今日新しく出来るようになった事を詳しく話した。
「つまり、収穫できる野菜の数と種類を増やせるのと、卵や果実に木材までも手に入れることが出来るようになるのか。すごいじゃないか」
「そうね。卵を食べていると病気になりにくいって言われていたから、手に入るなら嬉しいわ」
父さんはすごいとほめてくれて、母さんは卵が手に入る事を喜んでくれている。自分の出来ることで両親が喜んでくれたことがとても嬉しかった。
その後も、両親から日々の訓練や妹の世話もよく頑張っているなと、普段している事まで褒めだしたことで、恥ずかしくなって強引に話をかえた。新しく出来る事で試したいことがある事と、今後の事を考えた時にどうすればいいのかを相談した。
「野菜を一度収穫した時に、スキルに情報が追加されたから一度は育てて収穫したいんだけど、大丈夫かな?」
「問題ないさ。もともと家の畑と街での買い出しで生活できていたんだ。それがいまだとリヒトが芋とカブを作ってくれているからさらに余裕がある。だから、試したいことがあるならやってみるといい」
「ありがとう」
母さんは何も言わなかったけど、父の言っている事に同意しているように頷いてくれた。
「じゃあ、今まで育ててたジャガイモは45個で、カブは5個取れるようにするから、新しく作るとなると……」
初めてスキルを試した時にジャガイモ5枠とカブ5枠で育成していたけど、両親と話し合った日に合計でどれくらい収穫できるのか聞かれて、父と母から保管の期間を考えたらジャガイモが多い方がいいと言われたので、次に育成するときは育てる配分を変えようと話し合っていた。
あとは、さっき言った事をする為に選択していくと・・・
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・農業
・耕作地 【13枠:13マナ】
【ジャガイモ(9枠)】=45個
【カブ(1枠)】 =5個
【ナス(1枠)】 =5個
【ピーマン(1枠)】 =5個
【トマト(1枠)】 =5個
・林業
・樹木栽培 【3枠:3マナ】
【リンゴ(1枠)】 =5個
【ヒノキ(檜)(1枠)】=1本?5本?
【ムクロジ(1枠)】 =1本?5個?
・畜産
・ニワトリ小屋 【2/10枠:2マナ】
【ニワトリ:2羽】*=1個
*2マナ消費
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「・・・こんな配分で育てることになるんだけど」
分かりやすいように木に書いてから両親に渡した。
「いくつか聞いた事のないものがあるな。リンゴとトマトは分かるが他の物で分かるものあるか?」
「う~ん、そうね。他だとピーマンは分かるわよ。一度あなたは食べたことがあるはずよ。ただ焼いただけのピーマンをまるかじりして、もう二度と食べないと言っていたのがピーマンだったはずよ」
「あれか・・・・・」
母さんが楽しそうに話していると、父はその時の事を思い出しているのか苦い顔をしていたが、僕が見ていることに気付くと咳払いして目線を逸らした。
「まあ、あれだな。リヒトの確認したい事ではあるから一度は育てるけど、次に育てる時は一度相談してから何をどれだけ育てるか決めるとしようか」
「ふふふ、そうね。ピーマンが美味しかったらたくさん作るのもいいわね」
「いや、それは・・・」
母さんが僕に向かってウインクしながら話して、母さんの言った事で父さんがうろたえていた。
「大丈夫だよ、お父さん。お母さんなら美味しく料理してくれるはずだから」
「そ、そうだな。・・・・・調理したら本当に美味しくなるのか?あの苦い野菜が?」
母さんは農家の娘だったけど街の定食屋で調理していたこともあるって言っていたし、今でも限られた食材で美味しい料理にしてくれているのに、そんなに嫌がるなんてどれだけ嫌な思い出になっているんだろう。
「父さんや母さんでも分からない野菜や木があるなら、なおさら一度確かめてみないとどんなものかも分からないね」
「そうだな。しかし、これまでは畑で季節外れだが多く収穫できたと言って、村の人達にも配ってはいたが、村で育てていない野菜まで作ってしまった後ではごまかしようがなくなる。卵も一個ならまだうちで消費できるが、今後数が増えるとなると・・・」
「卵はごまかせないと思うわよ。料理に使っていたら、味も見た目も変わってリズはすぐに気が付くわ。周りの人に言わないように言ったら素直に聞いてくれるでしょうけど・・・あの子が話せないからって嘘を言うようなことはあってほしくないわ」
「・・・そうだな。村の人達との関係を考えたら、そろそろ話しておいた方がいい、か」
今までの村の作物は自家栽培ですこしでも育てつつ、父達が森で狩ってきた獲物を街で売ってから食料や生活器具を買って何とか生活してきたが、森の中での野菜の育成は難しく本当に僅かな足しにしかなっていなかった。だが、リヒトのおかげで街への買い出しで野菜を買うことなく、他の道具や必需品を多く買うことが出来ていた。
父はこの機会に最低限の設備を村に作れるようにしようと考えていることをリヒトに話した。
「リヒト、お前のおかげで街で野菜を買う代わりに予備の斧や円匙(スコップorシャベル)、釘や薪などの道具や生活必需品が手に入った。だから、父さんはこの資材を使って村を囲うように柵と堀を作っていこうと思う。それが出来たら今までみたいに畑が荒らされることもなく村での野菜の量も増えるはずだ」
「うん。今の畑の囲いでも時々壊されて荒らされてる時があるから、畑の心配がなくなるのはとってもいいと思う。そういえば、今までは出来なかったの?村の一部に石積みの場所と途中までの堀はあったけど」
「ああ、最初に各々の家が出来た時に畑と同時に柵と堀の計画はしていたんだ。だが、森を切り開いて作業すると音に引き寄せられるのか獣が寄ってきて畑や家が荒らされることが続いた。いつかはしなければと考えていたが、日々の生活を守るために狩りと警備をするので精一杯になってしまった。いや、ただの言い訳だな。すまん」
父さんも何とかしようとしたんだけど、余裕がなくなってしまったんだ。
不便なのに村を離れないのには何かわけがあるんだろうけど、そんなこと関係なく僕はこの家族がいる家が好きで、村の皆はいい人ばかりだ。場所を替えることが出来ないのなら、そこを住みやすい村に変えればいいだけなんだから。
「大丈夫だよ!父さん!今ならたとえ畑を荒らされても全く問題ないくらいに僕が野菜を作ることが出来るんだから、なんなら増やすことも出来るほどに出来るんだよ。この機会にこの村をもっと住みやすい村に変えちゃおうよ」
「ああ、リヒトお前がいれば出来るだろう。だが、その時にはお前の持つ能力を村の人達にも話さなくてはならないだろう。もし、村の人達との関係でお前が傷つくようなことがあったら・・・それが心配なんだ。私達に話すだけでも不安になっていただろう?」
「そうね。今のままでも十分助かっているもの。ただ出来ると言うだけで、今すぐしなくてはならない事でもないから、例えば別の方法もあるわ。少しずつ保管する野菜を増やしてから、余裕が出来た時に進めていけばいいのだもの」
「そうだな。それならまだ、家族だけしか知らない秘密のまま進めることが出来るな。そっちのほうが、…」
「まって、僕は大丈夫だから、あの時とは違うよ。僕は父さんや母さん、リズから嫌われたり避けられたりされるのが嫌だっただけで、その心配がないならたとえ村の人達にそんな目で見られても気にしたりはしない・・・とは言い切れないけど、家族だけでも理解してくれているなら僕は大丈夫だよ」
顔見知りしかいない村の中で、今まで生活してきた思い出もある人達にもし奇異な目で見られることを想像してしまうと悲しい気持ちにはなったけど、多少変な目で見られるくらいで今の生活を少しでも楽にすることが出来るなら我慢できる。でも、・・・。
「でも、僕のせいで父さんと母さん、妹まで変な目で見られるのは、嫌だ・・・」
「そうか・・・」
「リヒト・・・」
母は席を立ってリヒトのそばに行くと、「ありがとう」と声をかけて頭を撫でながら抱きしめた。
そのまま誰も話すことなく沈黙が続いていたが、沈黙を破るように決心した声が家に響いた。
「話して協力してもらおう!村にいる人達は俺が主導してついてきた人達で、その中には昔からの友もいる。秘密にしていて不信感を持たれるより、正直に話して協力してもらう方がいいだろう。そして、もし、万が一にもリヒトに危害が及ぼうものなら、沈黙の契約を交わして村から追放してでも全力で守ってやる」
父さんが全力で守ると言ってくれた事は嬉しかったけど、さすがに追放まではしなくてもいいと思う。もし、村の人達と今までと関係が変わってしまっても、極力合わないようにすればいいだけだ。ただでさえ少ない村の人が減ると父さんが考えてる計画も出来なくなっちゃうよ。
「父さん、そこまで言ってくれるのは嬉しいけど、追放まではしなくてもいいよ。僕だって友達や知っている人が居なくなるのは寂しいから」
「そ、そうか」
父さんが意を決して言った事を、僕がそこまでしなくてもいいと言った事でちょっと動揺していた。そして、それまで聞いていた母が語り掛けるようにゆっくりと話し始めた。
「そう、わかったわ・・・・・リヒト、私たちの事まで心配してくれて嬉しいわ。でも、私が一番大事なのは子供たちが傷つかない事よ。だから、本当なら危なくなるような事はしないでほしいのだけど、貴方には他の人には無い力がある。このまま成長したときに、どれほどの影響を与えることになるのか予想も出来ないほどに・・・」
「人が自分にはない能力を持つ人に対する感情は様々よ。恐怖、畏怖、嫌悪、羨望、尊敬、崇拝、多くの人に会うほどもっと様々な感情を持った人たちに関わることになっていくでしょう。まだ村の人数くらいなら私達でも貴方を守れるわ。でも、それもどこまで守ることが出来るか分からない。そして、その時の事を考えると不安で不安で堪らないの・・・」
母は話している途中からリヒトを力強く抱きしめて、最後の方は声が震えながら話していた。
短い沈黙の後、抱きしめていた手を肩に置いてリヒトの目を真っ直ぐ見つめると、再び母が話し出した。
「リヒト、わたしも村の人達にリヒトの事を話すのは賛成よ。少しでも多く味方になってくれる人を増やす為にも、まずは村の人から味方にしていきましょう。お父さんが友と呼べる人のように信じる事の出来る人達。その為には、少しずつでも貴方の事を知る人が居ないと出来ない事だから・・・リヒトが信じることの出来る人達が出来るまでは私たちが必ず守ってあげるからね」
「ああ、誰が相手だろうと俺たちの子供に危険が及ぶような事はさせないさ」
「父さん、母さん。ありがとう」
父さんと母さんの思いや考えを聞いて、涙があふれてきたけど笑顔で笑って答えれたと思う。
その後は、いつ妹と村の皆に話すのかを話したり、リヒトのスキルで収納の事は誰にも話さない事を両親と約束したりして話し合いは夜遅くまで続いた。
翌日、リタより遅く起きた両親と僕がおねぼうさんと笑いながら叱られた。
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