家族
リヒトとリタは畑から家にジャガイモを運んでいた。
ふたりが家に着くと、リヒトが家の扉を通れるように開けている間に、リタはジャガイモを持って母親のいるところへ走って行った。
すぐに後を追うと、母親は持って帰ってきたジャガイモをどこで拾ったのか聞いていて、リズが嬉しそうに畑で拾った事を伝えている所だった。
母は少し困惑した顔をしていて、すぐ後に来たリヒトに気が付くと説明を求めるような目線で、リタの耳をふさいでから話しかけてきた。
「このジャガイモどうしたの?家の畑だとまだ大きくなってないはずでしょ?」
「大丈夫だよ。本当に家の畑で拾ったものだから、どうやって手に入れたかの詳しい話はお父さんが帰ってきてから話したいんだけど、それでもいい?」
「・・・分かったわ」
母親はまだ何か聞きたそうではあったが、理由があって話していないことがあるのが伝わって、それ以上は何も聞いてくることはなかった。
母は不思議そうに見上げるリタの耳から手を離すと、リタと一緒に食料箱にジャガイモを入れたあとに、リヒトも呼んでジャガイモをしまった。その後は、何事もなかったように母が手に付いた土を洗うように促して、家の中でリタと一緒に母の話を聞きながら道具の手入れや冬支度の準備を手伝った。
晩御飯では、ふたりで持って帰ったジャガイモを使ったのかは分からないが、母が作った芋とお肉のスープを見た妹がはしゃいで、今日の事を父に話すのを眺めながらいつもよりにぎやかに過ごした。
母がリズを寝かしつけた後、両親とリヒトはテーブルを挟んで対面するように椅子に座っていた。母親が父親に今日の事を話して、詳しくはまだ聞いていない事までを伝えた後、ふたりはリヒトが話すのを待った。
「あの、・・・なんでこんなことが出来るのかは分からない、急に見えるようになって・・・だけど、きっと役に立つから・・・・・だから・・・」
ちゃんと全てを話そうと思っていたのに、いざ話そうとすると自分になぜこんなことが出来るのか。話してしまったら気味の悪い子供と思われないか。今まで考えないようにしていた不安な気持ちが急にあふれ出てきて、自分が何を言っているのか分からないまま話していた。
こぼれる涙で下を向きながらも話していると、いつの間にか近くまで来ていた両親がリヒトを抱きしめた。
「大丈夫よ」「大丈夫だから、一度落ち着くまで話さなくてもいい」
父と母は、何度も、何度もリヒトが落ち着くまで抱きしめたまま声をかけ続けた。
両親は無理に話さなくてもいいとも言ったが、リヒトが再び話すときには迷いも不安もなく全てを話した。高熱で寝込んだ時に見た夢の事や、目を覚ましてから自分だけに見えている文字、書かれていた内容を試してみたら本当にできた事。本当にできる事の証明として、目の前でジャガイモとカブを五個ずつ取り出して見せて、あとどれくらいあるのか見せるために、残りの収穫できる物も全て取り出した。
全てを話して本当にできることを見せてから、自分がどうしたいかを両親に伝えた。
「父さん、母さん。なんで僕にこんなことが出来るのかは分からないけど、この力を使えば僕でもこの村の手助けになれると思うんだ。それに、もしかしたらこの力にはもっといろいろなことが出来るかもしれないんだ。可能性に過ぎないけど少しでも今の暮らしをよくするためにも、これからも続けさせてほしい」
「・・・・・そうか」
「・・・・リヒトの気持ちはわかったわ。でも、これだけは教えてほしいのだけど、その力を使っていて危なくはないのよね?」
「何も危なくはないよ?ほとんど何もしなくても7日後には野菜が出来るから」
「でも、高熱の後にも倒れたことがあったでしょ?もし、貴方がその力を使った事で倒れていたのだとしたら・・・」
あっ・・・、いや、でもあれは魔力が原因だって分かったし、あれ以来は寝る前に最後の一か所に魔力を与えるようにしているから大丈夫なはず。
「大丈夫だよ。前に言った通りだよ。あの時は体がついていけなかっただけ」
「・・・そう。ならいいのだけど」
母はまだ心配そうに見ていたが、父がリヒトに語り掛けるように話しかけてきた。
「リヒト、お前の考えはよく分かった。みんなの事を考えて生活を良くしようとするのはとても立派で素晴らしい事だ。親である私がお前たちや村の皆に苦労をかけているのは不甲斐ないが、こんなにも立派な考えを持てる息子がいることを誇りに思う。だが、一人で悩むな。何でも話せばいい、お前の父と母は少し変わった息子がいるくらいで態度を変えることなどない」
もう不安も悲しみもないのに目から涙があふれてきたが、今度は笑顔で両親に答えることが出来た。
「うん。・・・ありがとう」
その後は、村の人にも野菜を配る事やまだ僕の力の事は伏せておくことなどを話し合ってから、途中にリタが起きて仲間外れにされてすねたのをなだめながら、家族そろって眠りについた。
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