ブラックコードの誕生
西暦2077年、未来都市ネオ・アトラスはまるで金属のジャングルのようだ。
高層ビルが空に届きそうなほどの高さで並び、街中の人々はARゴーグルを装着し、デジタル世界に浸っている。昼夜問わず無数のホログラム広告が街を彩り、現実とデジタルが完全に融合した都市。それが、ネオ・アトラスだ。
だが、この未来都市にも光の届かない場所がある。繁栄の中心から外れた廃ビルの一室。ここではネオンの光すらぼんやりとしか届かず、薄暗い部屋にぽつんと光るモニターの明かりだけが頼りだ。
「ここまで来れば、もう誰にも捕まらない……!」
部屋の中心で、必死にキーボードを叩く青年がいる。名前はアレックス、17歳の天才ハッカーだ。彼の目は鋭く、手元に集中しながらも、時折、廃ビルの窓から見える夜のネオ・アトラスにちらりと目を向ける。冷たく輝く都市の光を見下ろす彼の顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。
「よし、これで……っと。」
アレックスは自信満々に新たなコードを打ち込み、サーバーにアクセスする。だがその瞬間、モニターの画面が赤く点滅し、警告メッセージが表示された。
『警告:追跡プログラムを検知しました。』
「チッ、しつこいな……!」
アレックスは素早く手を動かし、防御プログラムを起動する。だが、警察のハッキング部隊も手を緩めない。次々と強力なプログラムを送り込み、アレックスを包囲しようとしている。モニターには無数のコードが流れ、彼の額には汗がにじむ。
「こうなったら……」
アレックスは覚悟を決め、決定的なコマンドを叩き込む。
「サイバーダイブ、起動!」
アレックスはヘッドセットを装着し、意識をサイバースペースへと送り込む。現実の世界が瞬時にデジタル化され、目の前の景色が変わった。空中には無数のデータの流れが輝き、彼の身体は無重力状態に浮かぶような感覚に包まれる。
サイバースペースは、まるで異世界だ。データが光の帯となって飛び交い、遠くには色とりどりのホログラムの建物が浮かび上がる。アレックスはその中を風のように駆け抜け、警察の追跡プログラムから逃げる。
「サイバー・ピースさえ手に入れれば、この腐った世界を変えられるんだ……!」
彼は内心でそう呟きながら、さらに加速する。サイバー・ピース――それは、このサイバースペースの最深部に眠るとされるデジタルの秘宝で、全ての情報を自在に操ることができる力だという。都市伝説として囁かれているが、アレックスはその存在を信じている。そして、その力を使い、この歪んだ未来都市を変えたいと願っているのだ。
だが、その時だった。突如として、彼の前方にまばゆい閃光が走り、青い光の輪が現れた。その中から、透明感のある女性のシルエットが現れる。
「ここで何をしている? サイバー・ピースを目指すなら、ただのハッカーでは無理よ。」
それは、リナという名の女性型AIだった。長い銀髪がデジタルの風に揺れ、彼女の瞳は鋭くアレックスを見つめている。彼女の声は冷たくもどこか優雅で、非現実的な存在感があった。
「君は誰だ? サイバー・ピースについて何か知っているのか?」
アレックスは驚きながらも、すぐに平静を取り戻し、彼女に問いかけた。彼の目には、好奇心と警戒心が混ざり合っている。
「私はその一部を知っている者。でも、お前がそれにふさわしいかどうか、試させてもらう。」
リナはそう言うと、手のひらを前にかざし、青白いデジタルの剣を生成した。アレックスもすぐさまバトルモードに切り替え、彼自身のプログラムコードを武器に変える。
「そう簡単に試されるつもりはないぜ……!」
アレックスはそう叫ぶと、デジタルの剣を振りかざし、リナに向かって突進する。二人の戦闘は激しさを増し、リナの剣が鋭くアレックスを追い詰める。しかし、彼もまた負けじと反撃し、ついにはリナの防御を崩すことに成功する。
「どうだ、これが俺の力だ……!」
アレックスは息を切らしながらも、勝ち誇ったように言った。だが、リナは微笑を浮かべ、剣を消すとアレックスに歩み寄る。
「悪くないわ。なら、協力してあげる。」
「協力……?」
「サイバー・ピースを見つけるためには、仲間が必要なの。あなた一人では何も変えられない。」
リナの言葉に、アレックスは少し戸惑った。だが、彼女の真剣な眼差しに何かを感じ取る。
「わかった。お前となら、サイバー・ピースを見つけられるかもしれない。」
アレックスは決意を新たにし、リナと共にサイバー・ピースへの冒険を始めることを誓う。
一方、現実世界では、謎のハッカー集団「グレイシャドウ」がアレックスの動向を監視していた。集団のリーダー、ゼロは不敵な笑みを浮かべる。
「アレックス……ついに動き出したか。サイバー・ピースを巡る戦いは、まだ始まったばかりだ。」
アレックスとリナは、次なるサイバーダンジョン「サイバー・クォータ」への挑戦を決意し、新たな冒険の幕を開ける。彼らを待ち受けるのは、さらなる謎と危険。そして、サイバー・ピースへの険しい道のりだ。