転生二日目の朝
翌朝、見知らぬテントで目が覚めて一瞬焦るが、そうだった、私異世界になぜか飛ばされたんだった。自分で言うのもなんだけど、私の適応力、高すぎない?あ、でも一番最初に会ったのがこのパーティーだったのもデカいかも。テント内にはすでにいい匂いが漂っていた。ミシェルは早起きだな。顔を近くの川で洗ってから、匂いの方に向かって歩く。
「おはようミシェル」
「グーハルウ・ゾザメー、瑞希」
「ぐーはる…?」
「ああ、ごめんね。要するにおはようって挨拶だよ。正確に翻訳するなら女神の慈悲、っている意味」
「なんで女神なの?」
「朝は女神さまの担当分野だからね」
「そうなんだ。ちなみに他の時間帯の神様はいるの?」
「いるよ。朝は嫋やかなる風の女神。昼は若く雄々しい太陽の男神。夕方は全知の年老いた水の男神。夜は全てを見据える強かなる運命の女神。そのいずれにも該当しない間の時間が神の加護なき魔の時間。だからその時間帯び旅人は旅を控えるんだ」
「そうなんだ」
「そうなんだよ。それよりそろそろ朝ごはん出来上がるよ。キェロスは僕が起こすから、ユリアは君が呼んできてくれないかな?」
「ユリアはどこにいるの?」
「多分少し離れたところで修行してると思うよ」
「熱心だね」
「熱心でしょ?だからとっても頼りになるんだ!」
「まぁとりあえず行ってくるね!」
「ユリアさん、すいません」
後ろから声をかける。ユリアはミシェルの言う通り、少し離れた場所で一人、修行をしていた。雰囲気が何となく張りつめていたせいか、ミシェル以外とはまだあまり仲良くないせいか、話しかけるときは敬語になってしまう。
「なんでしょうか、瑞希殿」
「朝ごはんが出来上がったらしいです」
「報告、感謝します。共に戻りましょう」
「はい」
ユリアと一緒にもと来た道を戻る。その道中にユリアは急に顔をこちらに向けて言った。
「ごめんさいね」
「えっ」
「否、馴染みにくいでしょう。拙者は話があまり上手ではないのです。それ故、いつも寄った村の人々との会話はミシェル殿に任せております。しかしながら瑞希殿は我らの仲間。全く会話をしないわけにはいきませぬが、何を話せばいいのかが分からないのです。それを伝えておこうと思いまして」
「…よかった」
「…へ?」
「いや、私心配だったんだ。もしかしたらあの時はミシェルに言われたから頷いただけで、本当は仲間として認められていないんじゃないかって。だからそのことが聞けて良かったよ、ユリアさん。これで遠慮なくため口で話せるし。会話の練習は私と一緒にしようよ」
「瑞希殿はお優しいですね」
「ふふ、ありがとう。突然だけど一つの聞いていい?」
「良いですよ」
「ユリアさんから見てミシェルとキェロスはどんな人なの?」
「もし会話力の神なるものがいるのならば、ミシェル殿は間違いなくその神に愛されておりますね。話すことが苦手な拙者の代わりによく話してくれますし、私の気持ちを察して動いていただけることも多いのです。それ故いつも感謝しております」
「キェロスは?」
「…キェロスは哀れな人にございますね。生まれ持った性により、素直になれずついきつい物言いをしてしまうようです。それ故誤解されてしまうことが多い。本当はこれ以上ないくらい優しいにも関わらず、です」
「ミシェルもそんなこと言ってたな…」
「あとあの人は、深い後悔と共に激しい怒りを抱いています。それ故この旅は復讐の旅、でもあるのです」
「どうして復讐の旅なの?」
「私もよくは知りませぬが、どうもキェロスの父上が関係しているようです」
「ユリアさんでさえよく知らないのか…」
「ミシェル殿もキェロスもあまりその話をしたくないようですから」
ユリアが一息ついて、少し笑う。
「少し重たい話になってしまいましたね。拙者もお腹がすいてきてしまいました。早くミシェル殿のところへ向かいましょう」
「そうだね。そうしようか」
朝のさわやかな風が森の草を揺らす。朝露濡れた足には、それが少し、冷たかった。
朝食の後、少し経つとキェロスが立ち上がった。
「…そろそろ行くぞ。今から行けば丁度昼時につくだろう」
「分かったよ、キェロス。ついでに街で何かおいしいものでも食べよう、瑞希!」
「ミシェル殿、食べすぎは禁物ですよ?」
「分かってるって!あ、ちょっと待ってて。おーい!お願いしていい?」
ミシェルがそう呼ぶと、ユニコーンみたいな魔物が現れる。ミシェルは魔物に近づくと、なにか魔物に話しかけた。小声だから何を話しているかは分からない。
「マリアさん。あの魔物は?」
「サハギン・ナイトという魔物で、非常に足が速いことが特徴です。あの子たちは…先日治療した子たちですね」
「乗せてってくれるって!」
ミシェルが振り向いて、笑顔で言う。その魔物はミシェルに甘えるように顔をミシェルの肩に置いていた。
「…そうか。なら街に店の開店時間位に着くな。混む前に買い物を済ませられる」
「四体来てくれたから、一人一体で!」
ミシェルがそう呼びかける。
「え、これ大丈夫?暴れない?」
「よっぽどのことをしなければ暴れないし振り落とさないから大丈夫。普通に乗ってれば、街までちゃんと連れてってくれるよ」
ね、とミシェルが魔物に問いかけると、魔物はそうとも、とでも言うように首を一度縦に振った。
「だから怖がらずに乗って。一番大事なのはこの子への信頼だよ」
「分かった」
お願いしますの意味を込めて一度魔物にお辞儀をして、その背に乗る。
「準備はいい?」
「ああ」
「はい」
「いいよ」
「それじゃ、レッツゴー!」